第20話 小屋パワーアップ - ギガンテス 暴発5秒前 -
あれから一ヶ月が経過した。
あれから――ずっとひきこもっていた。
ねむい。だるい。動きたくない。
動きたくはないが、『ジャガイモ』と『ポテトチップス』の自動販売、以前の『キングレッドゴブリン』、『バスターデビルクラーケン』のレアドロップアイテム『インゴット』『ブラックパール』でそこそこの大金を得てしまい……言ってしまえば、80万プルなのだが、その金で小屋はパワーアップしていた……!
なんと……!
ただの小屋から『山小屋』に昇格した。
「メサイア。お前の【建築スキル】で半月掛けて『山小屋』に生まれ変わったが、あんまり変わっとらんような気がするが」
「なに言ってるの。まあまあ広くなったでしょ。まあまあだけど」
あぁ……ほんの僅かだけど、広くなったな。
前より多少スペースが広がったくらいだけどな!
本棚とか食事をするためのテーブルを設置できるくらいには広くなった。
あと、物置部屋も出来たし、食料の備蓄も出来るようになった。
おかげで今は、リース要望の『魔導書専用本棚』と、みんなで食事をするためのテーブルが置かれた。テーブルっていうかは『コタツ』だけどな。
まぁ……なんとか広くはなったな。
だいぶマシになったというか、多少、心に余裕は出始めて来た。みんなの不満も減ったし、精神面も改善されつつある。大変良い事だ!
「サトルさぁ~~~ん。このコタツというものは……ヒトをダメにしてしまいますねぇ~…すっごく暖かくて居心地がいいです。もう二度と出たくありません~~。あと百年はひきこもりたいですぅ~」
フニャフニャの液体になっているリース。
すっかり、コタツを気に入ってしまっているな。
ちなみに、今の季節は『冬』になった。
メサイアによれば、かなり短い冬らしいのだが、いつ暖かくなるか分からないので、急遽、知恵を振り絞って『コタツ』の作成をメサイアの【建築スキル】を使って作ってもらった。
金に余裕あるし、材料は直ぐ買ってきた。
さすが、建築大好き女神。
俺の言う通りに、あっという間にコタツを完成させてしまいやがった。中身の原理はもちろん、フォルの聖魔法製だ。毎度ながら便利な聖女である。
そんな風に、ダラダラ一ヶ月家にこもっていると――
コンコンと扉をノックする音が。
「んぁ? 誰だ~? めんどいから居留守を……」
「だめですよ、兄様。ちゃんと出ないと」
フォルにそう叱られ、俺は渋々ながら玄関へ向かった。
「はぁ~…。立ち上がるのすら面倒っちぃなぁ。仕方ないな、どなたっすか」
扉を開けるとそこには――
「あ…………あんたは!!」
玄関には、若々しい青年の姿が。
あの桃色の髪、眼鏡をかけた爽やか笑顔の…………誰だっけ。
「一ヶ月ぶりですね。サトル殿。それに、みなさん」
「む……あんた確か……。記憶が正しければ、花の王とかの?」
「ええ、そうです。私は花の都フリージアの王『ミクトラン』です。以前、バスターデビルクラーケンで助太刀致しました」
「ああ!」
そんな事もあったな。すっかり忘れていた。ていうか、王自らやってきたらしい。そういえば、一ヶ月前に会って以来だな。
花の都に行って謁見するとか言っておいて、完全に放置していた! イカン!
「お、王様……どうして」
「どうして――ではありませんよ。待てど暮らせど、あなた方の来る気配がないので、私自ら参った次第なのです」
「あー……」
なるほどね。
確かに、俺たちここ一ヶ月まるでやる気を失って、ずっとひきこもっていたからなぁ……。おかげで、放置ゲーだった。勝手に襲撃してくるモンスターを倒しまくったおかげで、レベルも勝手にだいぶ上がったけどな。
現在【Lv.1144】
いやぁ、随分と上がってしまった。
ただ……最近はもう旨味がなくなっちまったけどな。
「王様、寒いでしょう。中へ」
「ありがとう、サトル殿。では、お言葉に甘え……ほう。このテーブルは変わっていますね。エルフの娘が気持ちよさそうにしておりますが、これは一体?」
「これは、コタツっていうもので、こう入ると……暖かいんですよ」
「ほうほう、この中が暖かいのですか! 面白いテーブルですね。お邪魔しても?」
「いいですよ。リースが液状化していますが、人数的にはまだ入れるし。おい、リース。もうちょい詰めてくれ」
「はぃ~」
リースに詰めてもらい、俺と王様はコタツに入った。
「ほぉ~…これは暖かい。冷え切った体に丁度いいですね。素晴らしいアイテムです。我が城にも導入してみたいですね」
王様がコタツに関心しとる。
お気に召したようで、なにより。
「それで、王様。用件はなんです?」
「ええ、それなんですけどね。……ところで、メサイアは?」
「ああ……あいつなら、そこのベッドで寝てます。腹痛で寝込んでいるんですよ」
「なんと……女神が腹痛を」
「なぜかフォルの回復スキルも効かないし、なので自然治癒中です」
「そうでしたか。――それでは本題に」
本題に突入する前に、俺は足に違和感を覚えていた。うぉんっ……!?
『――ふふっ、サトルさん。あたしですよ~』
気づくと、声が脳内に直接……!
こ、このカワイイ声は……リース!
(ど、どうして! てか、リースが俺の右足を挟んで……!)
『そうですよぉ~。どうですか? 気持ちいですかぁ……?』
そ、そりゃ……リースの細い足で挟まれたら、気持ちいに決まってる! ていうか、王様の目の前でこんなのイカンでしょ!?
「……? サトル殿、汗が凄いですが、大丈夫ですか? もし、体調が悪いのなら、また後日にしますが」
――と、王様が俺の顔を覗き込み、心配そうにしていた。
ま、まずい。バレるワケには……。
「いや……そのですね」
『サトルさん……。サトルさんのギガンテスさんに……えいっ』
「んほぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉっぉおん!?」
「サ……サトル殿!? そんな叫ばれて急にどうされたのですか!? やはり、体調が悪そうですね。宜しければ『ヒール』致しましょうか?」
「い、いえお構いなく……。足が熱源に触れてしまい、熱かっただけなんで!」
違うけどな!
リースが……! リースの白ニーソに包まれた足が……俺のギガンテスに……!
ま、まっず~~~~~い!
このままはイロイロとマズい。
リースのヤツ、最近、フォルの影響か知らんが、大胆になってきたぞ。つーか、俺の切ない【デンジャラスゾーン】を弄ぶんじゃありませんッ!
くっ……くそぉ。
こ、こんなえっちなエルフになってしまって……何もかもフォルのせいだ…………! けしからん! あとでフォルにはお尻ペンペンの罰を与えねばな!
でも、ここは聖女様に感謝!!
(リ、リース。それ以上は危険すぎる……俺の『ギガンテス』が暴発しちまう……頼むから、その小さな足で『ギガンテス』をグリグリするのは止めてくれぇ……)
『ふふっ、もう我慢できないのですね。
ですけどぉ、勝手にギガンテスさんを暴発させたら……あたし、サトルさんのこと一生軽蔑しますよ。いいんですかぁ~?』
(うぅ…………く、悔しい、でも!)
『やっぱり、サトルさんはヘンタイさんだったんですね。……でもぉ、最後まで耐え切ったのなら、ご褒美を。今度、膝枕してあげますからね』
――なんて、トロけるような甘い声で囁いてきた。あ、悪魔の囁きだ……!! きょ……今日のリースはいつになく攻めてくるな!
だが……だがそれがいいッ!
そんな悪魔っ子エルフなリースもたまらんッ!
『サトルさん。全部聞こえていますよ。そーゆーイヤらしい思考は、簡単に読み取れちゃうのです。残念でしたね』
(ひぃ~~~! ……いや、もうギブ! ギブ~~~! 頼むから足をどけてくれ! マジで暴発する5秒前だぁぁぁ!)
『じゃあ、膝枕はナシです。けど、デートはしてくださいね。これが代わりの条件ですから。もし~約束破ったら一生軽蔑しますからね』
「はい」
返事をしたところ、スッと足と声の気配が消えた。
……まじ?
デートならいくらでもしちゃうけどな!?
「サトル殿? サトル殿?」
「……はっ。すみません。やっと現実に戻ってこれました」
「よく分かりませんが、体調が戻ったみたいですね。では本題に入ります」
コホンと王様が咳払いし、話が始まろうとしたが――
「私も話を聞きたいわ」
メサイアがコタツに入って来ていた。
元気そうな顔で。
「あれ、メサイアお前、腹痛は?」
「ああ、腹痛? もう自力で治したわよ。それより、重要な話があるんでしょ、ミクトラン。それを聞きたいわ」
お前、昨晩誤って拾い食いした『デッドリーポイズンキノコ』の【超猛毒】の異常状態もう完治したのか……。すごい治癒能力だな。
あの時はさすがに皆、肝を冷やし、大騒ぎだったが……あの話はもう思い出したくない。闇に葬っておこう。
「待ってください。わたくしもお忘れなく!」
ずっと晩飯作りに集中していたフォルも、コタツに入ってきた。さすがに狭いぞ。
「ようやく皆さん集まりましたね。では、お話を」
ミクトランが眼鏡をクィッと上げ、ようやく話とやらが始まった。
そして、俺はその話を聞いて、心底呆れた。
…………なんだその馬鹿げた話!!
ありえねぇ……。
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