第139話 神達は振り返る(後編)
お待たせしました、第4章最終話です。
これで漸く一区切りですね。
第5章開始まで大分時間が空くとは思いますが、全ての伏線が回収されるので、楽しみにお待ちください。
明後日には設定資料集を上げます。
〈第二王女の国家転覆計画〉
「ふっふっふっ、これでイーゼルも終わりですわ!」
第二王女、今は王姉であるイリス=グランツは1枚の紙を机にバンッと叩きつける。
「イリス様、本当になさるおつもりなのですか?」
イリスの侍女が不安そうに、イリスが叩きつけた1枚の紙を覗く。
「あら?私の方が力は上ですのよ?あの時はイーゼルに譲ると言いましたが、前提が壊れた以上、今こそ王位を簒奪する時ですわ!」
「自分で簒奪って仰らないでくださいよ、イリス様…」
イーゼルが国王になったのは絶対神からのお告げ、という風に世間では認知されている。
いや事実ではあるのだが、絶対神であるゼロが絶対神のふりをした、ということが事をややこしくしていた。
イリスはお告げをした絶対神が偽物であると、中途半端に気付いてしまったのだ。
故にイリスが計画していたのは王位簒奪のための国家転覆計画で、イリスが叩きつけた紙にはその計画、そしてお告げをした絶対神が偽物である証拠が記されていた。
「うふふふふっ、私が女王になるのが楽しみですわっ!」
しかしイリスは気が付かなった。
絶対神のお告げは声だけが偽物であるが、絶対神は本物だということを。
そしてイリスの野心を増幅させた何者かが背後にいることも・・・。
〈なお既にバレている模様〉
「と、イリス王姉殿下は国家転覆を企んでいるかと」
「えぇ…」
首相であるコーダ=ヴェストファリ公爵はイーゼルに国家転覆計画のことを報告していた。
イーゼルはイリスがまだ王位を狙っていることには薄々気付いたが、まさかそれを実行に移そうとしているとは流石に思わなかったようだ。
「(行動に移そうとしているということは、あの時の偽装・・・いや偽装ではないけど、そのことがバレたのかな?確かにそれが崩壊したら、僕の王位の正当性は失われるかもだけど、うーん・・・)」
「陛下、如何が致しましょうか」
「まぁ、エズモンド公安卿にこの事を伝えてくれれば大丈夫だと思うよ。こういう時のためにゼロが国家公安省を創ったんだろうね」
「承知致しました。流石はゼロ=グランディオ侯爵ですね。まだ11歳だというのに、素晴らしい才能と慧眼をお持ちのようだ」
「そう言えばゼロってまだ11歳!?自分で任命しておいて何だけど、11歳の首相って・・・」
「身長以外は立ち振る舞いや言動が大人のソレですから。まるで第一王女殿下を見ているようで・・・」
「アイリス姉様か・・・確かに生きていれば、今頃確実に女王になっていただろうね」
アイリス=グランツ。
グランツ王国の元第一王女で、イリスやイーゼルを遥かに凌ぐ程の力を持っており、次期女王確実とさえ言われていた――男子のみとされていた王位継承を変えてしまうほどの。
しかし、アイリスは5年前に事故に逢い、14歳の若さで帰らぬ人となった。
その事故は今でも原因が分かっておらず、暗殺の噂さえある。真相は未だ闇の中だ。
「アイリス姉様や前国王のように、僕たちはその立場故に、いつ命を失ってもおかしくない。気を引き締めないとね」
「仰る通りです、陛下。では命を失う前にエズモンド卿に報告して参ります」
「うん、頼んだ」
イーゼルは部屋から出るヴェストファリ公爵の背中を見ながら、「流石にそんなすぐ命は失わないでしょ」と呟くと、疲れからか座ったまま瞼を静かに閉じた。
これがフラグになることをイーゼルは知る由もない・・・。
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国家公安省警察庁にて。
「イリス王姉殿下の国家転覆計画、か・・・厄介なことになったな」
国家公安卿にして警察庁長官であるジェイ=エズモンド男爵は、ヴェストファリ公爵から受け取った報告書を眺めながらはぁ~と溜息を吐く。
「全くです。ですが事が起きれば・・・私が止めます」
どこからか声が響く。
彼女は警察庁警備企画課所属の諜報員で、常に姿を隠して活動している。
恐らく天井にでも潜んでいるのだろう。
「良いのかい?そんな事すれば、君の正体が・・・」
「・・・"身内"の失態は自分で片付けます」
その言葉を最後に気配が消えた。
願わくば、彼女の身に危害が及ばんことを。
そう祈りながら、エズモンド男爵は報告書を眺めるのだった。
〈とある国の陰謀〉
ルーヴァー大陸に位置するとある王国、この国では今、一世一代の大仕事にして最大の禁忌を犯そうとしていた。
「うふふっ、漸く準備が整いましたわ。本来ならこれだけの魔力、私では絶対に集められませんでしたが、"あのお方"のお陰で実現できそうです、フフッ」
暗闇の中で光る魔法陣、不敵に笑む一人の少女。
今この国で行われているのは絶対に開けてはならない禁忌の箱。
その箱が開けられた時、この世界に大きな影響をもたらすことは間違いないだろう。
「漸く、漸くこの時が来ました!ありがとうございます、魔王。貴方の復活により、我が国は大きく栄えることができるでしょう」
暗闇の少女は魔法陣に手を翳し、大量の魔力を注ぐ。
魔法陣は白色に光りだし、禁忌の魔法が発動する。
「よしっ!行きますか。『召喚』!!」
魔法陣が更に白く光りだし、暗闇だった部屋は一気に白い世界となる。
これはルーヴァー大陸のとある国で起こった出来事なのだが、これは別の話で語ることにしよう。
イリスといいどっかの誰かといい、陰謀に塗れてますね。
ちなみに最後の話はちゃんと別の話で語ります。
一体何を召喚したんでしょうね?