第128話 神は護衛を依頼する
ゆーきやこんこん
あられーやこんこん
ふってもふっても
全然積もらん
結論から言おう。
国境越えるまで何も起こらなかった。
グランツ王国はザンザルヴェート王国と最も国境を接しているが、その殆どが未開拓地なので、繋ぐ街道は例の如く一本しかなく、その道を通らざるを得ないのだ。
しかし、道中1つの街を経由してザンザルヴェート王国国境まで来たのだが、盗賊の影も形も無かったのだ。
結局そのままザンザルヴェート王国国境にある検問所を普通にパスし、検問所の直ぐ目の前にある街、ザンザルヴェート北西の都市リモシティへと到着していた。
「以外と国境に近い所にある都市ですわね」
カーシャがそう呟く。
リモシティは国境から僅か300mしか離れていない。
昔はこの都市が関所で、当時はここを国境が跨いでいたらしい。
その昔とは、グランツ王国の前身、エデンズワール王国の事である。
「さて、今日はここで泊まろう」
イーゼルは太陽の位置を確認して、皆に告げる。
まだ太陽は南に位置しており、日が沈むにもまだ早い時刻なのだが、ここから先こういった大きな都市が無く、次の都市はここから40km先なのだ。
それに加えて、盗賊関係の事もある。
まさか何も無く国境を越えれるとは思ってもなく、ウチの警察は国を越える事は出来ない。
一応国境付近に待機させてはいるが、ここから先は全て俺達で対処しなければならない。
まぁ、全然問題無いのだが。
それはさておき、俺達はこの街で最も高い宿にチェックインし、日没まで各々自由行動となった。
ルナとカーシャはライムを強引に連れてお買い物へ、ヴェレアスはもう既に部屋で寝ている。
俺とイーゼルは盗賊の情報が無いか、冒険者ギルドへと向かった。
「うぇ、騒がしいな」
冒険者ギルドの扉を開けた途端、大勢の人の歓声で、ギルド内は喧騒としていた。
どうやら武勇伝を語り合っているらしい。
まぁそんな事俺達はどうでも良いので受付に行き、盗賊に関する情報が無いか、受付嬢に尋ねた。
すると受付嬢は俺達の格好が正装な事もあってか、少し恐縮しながら対応した。
「盗賊、ですね。確かに最近は貴族や商人が狙われていると聞きますが、詳細はこちらとしても調査している所ですが、未だ何も。護衛の依頼でしたらこちらで承りますが、如何致しましょうか?」
別に俺達は護衛とかは必要ないので、断ろうとしたその時、後ろで武勇伝を語っていた人の声が聞こえた。
「何?護衛依頼!?それならボクがやる〜!」
驚いて振り向くと、水色の髪に水色の目、そして水色の衣装を身に纏った少女が、目をキラキラさせながらウズウズしていた。
すると受付嬢が「あぁ、彼女なら信用出来ますよ!」と言ったが、いや別に護衛は要らないのだが、と。
俺達が何処かの貴族だと思い込んだのか、はたまた盗賊が出るからなのだろうか、何故か護衛の話が進んでいる。
まぁよく考えてみれば、寧ろ護衛が居ないと逆に不自然だ。
ウチの護衛と言えばカーシャとルナなのだが、ぱっと見護衛に見えない。
名目上の護衛だからな。
そう言う理由もあって、俺とイーゼルは護衛を正式に依頼した。
すると受付嬢が、「分かりました。どちらまで行かれますか?」と尋ねると、イーゼルが「最終目的地は首都ユスタリオンだけど、取り敢えず次の街までだね」と応えた。
ここまで盗賊に遭遇していない事から、盗賊が出るのはこの街と次の街の間だろう。
これより先は国の中心まで近くなるので、盗賊としては動きにくくなる筈だ。
「次の街と言う事は、エヴォース伯直轄領ですね。丁度良いですね、ではルチル様、依頼お願いしますね」
「このボクに任せなさ〜い!」
ルチルと呼ばれたその水色髪の少女はノリノリで依頼を受諾した。
俺は受付嬢がルチルに丁度良いと言った事が気になっており、その事を受付嬢に尋ねた。
「あぁ、それはルチル様がエヴォース伯爵令嬢だからですよ」
「そうだよ!こう見えてボクも貴族なんだ!」
そーなのかー。
こう見えて俺達も国王と首相なのだが。
そう思うと凄みが薄れる。
まぁ本人が貴族故、俺達に畏まった態度を取らない事は楽で良いんだけどな。
俺達はルチルに明日の時間と場所だけを伝えて、冒険者ギルドを後にした。
一応自己紹介は全員集まってからの方が良いだろうと考え、ルチルもそれに了承した。
その後宿に帰ると、ルナ達が買った大量のお土産が部屋に詰め込まれていたのは言うまでもない。
結局俺の異次元収納行きである。
≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡≡
翌日、伝えた通りの場所と時間で俺達とルチルが合流し、一通り挨拶を始めた。
今回は勿論使者として来ているので、冒険者である事は伏せている。
「グランツ王国国王兼外務卿のイーゼル=グランツです。本日は護衛宜しくお願いします」
「グランツ王国大閣兼国家公安卿のゼロ=グランディオ伯爵位だ」
「グランツ王国伯爵令嬢、カーシャ=ベルナリンですわ。護衛担当をしております」
「同じく護衛のルナ=エルサーラです!護衛一緒に頑張ろうね!」
「付き添いのライムです」
「御者のヴェレアスである」
俺達の自己紹介が終わるとルチルは驚いた顔をして、「え?国王?ホントに?ドッキリとかじゃないよね!?」と困惑していたが、俺達の格好や馬車の豪華さを見て察したようだ。
「いや〜まさか国王様だったとは、護衛出来て光栄だよ!ボクは十帝冠位序列第10位〈凍結〉ルチル=エヴォース=フリーザー、宜しくね!」
早くも3人目の十帝登場!
因みにリモシティのリモは、エスペラント語で国境って言う意味です。
更に言えば神聖アーク帝国のグランゼ村のグランゼは、ドイツ語で国境って言う意味です。