第126話 神と回復の十帝
バルバドスの共和制移行が楽しみで夜しか眠れません。
「私は、十帝冠位序列第7位〈回復〉ライムリー=アヴァンドン=リカバール、私の能力は、人を癒やすだけの能力ではありません!」
ライムがそう叫ぶと、両手を広げ、巨大な魔法陣を出現させる。
「『癌細胞増殖』!」
ライムが放った魔法によって、死霊竜の肉体に歪な痼が無数に現れる。
「これで終わり!『過剰回復』!」
死霊竜に現れた歪な痼が瞬く間に膨張し、破裂する。
肉体はボロボロに裂かれ、尚歪な痼が増殖し、破裂を続ける。
ライムは癌細胞を死霊竜に発生させ、それを回復している。
癌細胞は他のウイルスとは違い、元々正常な細胞だったものだ。
回復魔法は基本的に欠損した細胞を修復するという効果を持つ。
癌細胞は無限に増殖するので、回復魔法を掛ければ掛けるほど増殖し続けるのだ。
成程、これがライムの能力、十帝たる所以か。
だが、まだ足りない。
「え、う、嘘でしょ・・・」
ボコボコに細胞が増殖し、原型を留めていないにも関わらず、死霊竜は動き続けている。
それでも苦しみ悶えるように咆哮を上げているが、死霊竜は癌細胞の増殖をも凌いでいたのだ。
「くっ、それなら!『過剰回復』!」
ライムは今度は正常な細胞を過剰回復によって破裂させ、身体の機能を奪おうとした。
しかし、既に死霊竜は癌細胞に冒され、身体の全ての細胞が癌細胞に置き換わろうとしていた。
それでも死なない死霊竜を見て、ライムは絶望してしまった。
「そん、な・・・これでも駄目だなんて・・・もう・・・」
ライムは打つ手を無くしたのか、その場に崩れ落ちた。
普通の魔物ならば、確実に死んでいたのだが、今回は相手が悪かったようだ。
ライムは知らなかった。
死霊竜は心臓の核だけで動いているので、その周りの細胞がどうなろうと関係無かったのだ。
死霊竜はライムに牙を剥く。
ライムは絶望で項垂れている。
「全く、仕方無いな」
死霊竜が口から紫色のブレス攻撃を放つ。
その攻撃がライムに直撃する寸前、俺はライムの元へ行き、結界魔法でそれを防いだ。
「え?ちょ、ちょっと!貴方なんでまだ逃げてないの?!」
「何言ってるんだ。今の当たったらお前は死んでいたぞ」
「私の事は良いから、早く逃げなさい!私でも倒せないんだから、貴方だって・・・!?」
俺は死霊竜と真正面から対峙する。そして俺はライムにこう言い放った。
「俺は十帝冠位序列第1位〈絶対〉ゼロ=グランディオ=アブソリューティアだ」
「は?え?え?だ、第1位?!」
ライムが唖然としているのを余所に、俺は魔法陣を出現させる。
死霊竜を殺すには、心臓の核を滅ぼさなければならない。
しかし、心臓の核が少しでも残った場合、滅ぼす際に0.00001秒でも猶予が残った場合、そこから心臓の核は再生してしまう。
つまり寸秒の狂いも無く一瞬で消滅させる魔法が要求されるのだ。
「『閃光孛』」
魔法陣が眩い程光りだし、その光が一点に収束する。
その光がレーザーとなり、死霊竜の心臓の核を貫く。
寸秒の狂いも無い、一瞬で核を消し飛ばされた事により、死霊竜はその身体を保てなくなり、一気に崩れ落ちる。
「さぁ、仕上げだ。『聖征星清醒』」
崩れ落ちると共に瘴気を撒き散らす死霊竜に対し、俺は浄化の魔法を掛ける。
普通の浄化ではなく、死霊竜が荒らした一帯を浄化するこの魔法によって、死霊竜諸共瘴気は消え去り、何も無い真っ新な大地へと還った。
「さてと、大丈夫だったか、ライム」
俺は座り込んでいたライムに手を伸ばすと、ライムはその手を取り、立ち上がった。
「あ、えっと、その。貴方が十帝の第1位様だったなんて」
おどおどしているライムを見て、ハハハッと笑う。
「な、何が可笑しいんですか!」
「いや、態度が変わったのが笑える」
「そんな真顔で言われても。白金と聞いた時も驚きだったのですが、まさか十帝、それに第1位様なんて、貴方一体いくつなんですか?」
俺が「11、今年で12だな」と答えると、ライムは絶句した。
イーゼルやルナは今年で15歳、即ち成人するのだが、一緒にいる俺も同い年だと思っていたようだ。
まぁ確かに端から見れば、他の人よりも背が低い15歳に見られなくもないが、俺の身長は年相応である。
そんな遣り取りをしていると、「おーい!」と言うルナの声が聞こえた。
「どうやら、向こうも終わったようだな」
俺が振り向くと、手を大きく振っているルナとその後ろを歩くイーゼル、カーシャ、ヴェレアスが見えた。
ルナ達が合流すると、「お疲れ様」と声を掛けた。
「ゼロくんもお疲れ〜、ライムさんは無事だった?」
「ええ、第1位様の御蔭でね」
ライムがそう応えると、それに反応したのかイーゼルが訊ねて来た。
「ゼロ、十帝の事を教えたのかい?」
「ああ、かく言うライムも十帝の第7位だとよ」
俺がそう言うと、ルナとカーシャは「えぇ!」と驚いていた。
「第1位様、私が十帝である事は、ここにいる皆さんを除いて内密に」
「ああ、俺の事も内密にな。だから第1位様と言う呼び方はやめてくれ」
「分かりました。ではグランディオ様とお呼びします」
「長い、ゼロでいい」
「・・・分かりました。ゼロ、、、様」
「ん、それでいい」
ライムが照れているのに気付かない俺を見て、イーゼルは「はぁ」と溜息を吐くのだった。
ライムはゼロに好意を持ち始めました。
尚ヒロインにするかは不定です。
次回で一劃りとなりそうですが、章はそのまま継続です。
あと2カ国、長い。