第107話 神の運命と選ばれし者''十帝''(後編)
手段ってリゾートって言うんだね
「''十帝''は我々の切り札、最後の手段だ」
険しい表情で発言した総裁に、皆畏縮してしまっている。
総裁の発言には、はっきりとした殺意が込められていた。
「・・・おっと、すまない。説明しよう。''十帝''は全ての冒険者の中でたった10人だ。個人でも群を抜く強さを持った彼等が集結した時、恐らく国1つは簡単に滅ぼせる程の強大な力だ。しかし、この力は国を救う事も出来る。''十帝''は我々総司令部の管理下に置かれ、私総裁のみ命令を発する事が出来る。言わば、私が行う唯一の指名依頼みたいな物だと思って良い。普段は自由に冒険者活動を行っても良いが、私が依頼を出した時は、絶対優先で遂行してもらう。そう言った''組織''だ」
因みに総裁命令という物が一度だけ発令された事がある。
それは1つの国が崩壊した時、総裁命令によってその国の冒険者全員が召集され、復興活動を行ったという物だ。
総裁命令はギルド内では絶対的な物であり、基本的に逆らう事は出来ない。
しかし、''十帝''の創設によって総裁命令の発出は彼等のみとなる。
総裁からの絶対的信頼を得る彼等は、冒険者としての地位、栄誉、名声全てを獲得する事になる。
他の冒険者はこれを目指し、より一層研鑽するだろう。
総裁は冒険者自体の強化と、''十帝''による権威発揚が狙いだろう。
この狙いに気付かないギルド本部長はまず居ないだろうが、総裁の真の意図に気付く者は誰一人として居なかった模様だ。
「さて、皆も気になっているだろう。一体誰が''十帝''になるのかと。だが、これは機密だ。''十帝''は時に暗部として動く事もある。本人の意思で''十帝''である事を強調するのは構わないが、我々が声を大にして彼等に干渉する事は決して無いように。あくまで切り札だ。そして今回の選抜、一応はちゃんとバラけるようにしてある。1つの国に何人も''十帝''が居る事がない。まぁこれも本人の意思で国を移動する分には構わない。そして最後に私は各国の大使を集め''十帝''の発足を宣言する。君達も帰国後、所属する冒険者に''十帝''の発足を宣言せよ。我々冒険者ギルド、中立都市が国家並みの力を持つ事を示し、抑止力として作用させる事を宣誓するのだ!」
総裁が立ち上がり、力強く演説すると、周りから拍手喝采の嵐が起こる。
「ふぅ、ではこの議題に異論のある者はいるかね?」
勿論異論のある者はいない。
沈黙は肯定として、今日最後の議題が終了し、会議はお開きとなった。
その後、ザンダは泊まっている宿で帰り支度をしていた時、突然総裁が訪問してきた。
「総裁!?どうしてこちらに?」
「グランツ王国本部長ザンダ=フリューセルよ。君にこれを渡そう」
総裁が渡したのは先程話に出ていた封筒だった。
「こ、これは、もしや・・・」
「うむ、そうだ。中に同封してある特別な説明書をよく読み、本人に渡してくれ。では私はこれで。残りを渡さなくてはならないからな」
総裁は他の封筒をパラパラ見せながら、ザンダの部屋を後にした。
ザンダは渡された封筒を開封すると、中に入っている特別な説明書を取り出し、熟読する。
それは''十帝''の取扱説明書のような物だった。
''十帝''は強大な力を持っている故、雑な対応をしては、冒険者ギルドと敵対される可能性がある。
それを一番避けなければならないのだ。
つまり冒険者ギルドは''十帝''に便宜を図らなければならない。
それだけを見れば、デメリットのように思えるが、それを覆す程メリットが大きい。
他の国では、中立である冒険者ギルドを国の物にしようとしている政府も少なくはない。
だが、''十帝''はそれを牽制する事が出来、冒険者ギルドの中立を守れるのだ。
ザンダはその''十帝''の一人が自分の管轄で誕生する事に喜びつつ、少なからず恐怖を抱いていた。
''十帝''は使い方を間違えば敵となる、両刃之剣だからだ。
しかし、その心配は杞憂となるのだった。
ザンダが開封した封筒の中に入っている、新しく作られた金剛ランクの冒険者カードに刻まれていた名前は、ザンダが最も信用する冒険者の名前だったのだ。
数日後、総裁によって''十帝''の発足が宣言され、冒険者だけでなく国家にも衝撃が走る事になった。
国家は自国のスパイを使い、一体誰が''十帝''になったのか、そしてどう取り込もうかと考えている。
冒険者も一体誰が''十帝''になったのか、彼等も繋がりを持とうと、探り始めている。
そして数十年ぶりの金剛ランク冒険者の誕生に、冒険者は沸き上がっている。
冒険者ギルドの中では、''十帝''の話で持ち切りとなるのだった。
このように冒険者だけでなく国家でさえ''十帝''の情報を集めようとしている中、とある国の国王は、''十帝''は誰なのかという話題に対して特に興味を示していなかった。
~イーゼルside~
「''十帝''ねぇ・・・」
イーゼルは''十帝''発足の宣言を聞き、そこの一人に誰が入るのか、既に分かっていた。
イーゼルにとって他に誰が''十帝''になったのかなどどうでも良かった。
イーゼルは''彼''の顔を思い浮かべながら、こう呟くのだった。
「白金ランク、数日で終わったな(笑)」
十帝のイメージとしては、とあるシリーズのレベル5みたいなものです。十帝の中にも冠位序列として順位があります。