第104話 神はサイコロを振らない(To Cut The Gordian Knot)
ゴルディアスの結び目
~ゼロside~
俺が色々と考察している内に洞窟を出て、渓谷の真下へと戻って来た。
少しここで時間を使い過ぎたな。
魔族は倒したから魔物の増殖は止められた筈だが、一応イーゼルに状況確認しておくか。
俺がイーゼルに念話を掛けると、戦闘音をBGMに息切れしたイーゼルが応答した。
『ゼロ!?良かった、無事だったんだね』
「そう言うイーゼルは無事じゃないみたいだな。つか国王が何で前線に居るんだよ」
イーゼルは俺の尤もな疑問をスルーして話を続けた。
『今、ガルシアと王都の門を死守している!魔物の量は増えなくなったけど、一体一体が厄介で中々倒せない!勝手に爆発してくるし、魔力が限界だよ!』
あー、かなりヤバいみたいだな。
ここから王都の門まで距離はあるし、転移という手もあるが乱戦の中で急に転移してきたらマズイしな。
かと言ってここからだと基本魔法は範囲外だし・・・仕方ない。
''アレ''を使うか。
「イーゼル、魔物を1ヶ所に集められないか?」
『何か考えがあるんだね?分かった、やってみよう』
そう答えると、イーゼルは念話を切った。
俺は探知魔法を使い、魔物の位置を探る。
すると、徐々に魔物が1ヶ所に集まっていくのを確認する。
討ち漏らしを防ぐ為、もう少し集まっていてほしいが、仕方ない。
恐らくこれが限界なのだろう。
俺は右手を挙げ、掌を天空に向け、魔法を発動する。
「『大規模殲滅魔法・神の槍』」
~イーゼルside~
ゼロの指示で魔物を1ヶ所に集める事になった。
だが、イーゼルを含め、もう皆魔力が限界に近い状態であった。
「ちょっと雑だけど、一応は集められたかな?」
イーゼルはゼロが魔物を一掃するだろうと読んで、魔物の周りからの撤退を指示する。
「魔物を集めて、一体どうする気だ!?」
ガルシアはそう呟く。
魔物が集まったと言っても相当の数が居るので、普通の魔法では一発では仕留め切れない。
イーゼルも同じような懸念を抱くが、それは一瞬で打ち砕かれた。
そして皆は空を見上げ、絶句した。
突如空から光が差し込み、巨大な槍が姿を現す。
そう、まるで神からの天罰のように・・・いや実際そうなのだが。
王都を防衛していた冒険者や軍は、崇拝する絶対神様からの救いだと信じ、皆頭を低れ、祈りを捧げている。
ゼロが神であると知らないガルシアは唯々その光景を見て固まっている。
流石にこれは予想していなかったのだろう。
予想していなかったのはイーゼルも同じで、ゼロが神であると知っているのにも関わらず、顔を引きつり唖然としている。
そして天空から光と共に表れたその槍は集まっている魔物に向かって墜ちていき、一筋の光が地上に降り立つ。
轟音と共に魔物の群れは神の槍によって消滅し、危機は去ったのだった。
「いや・・・流石にこれは・・・はぁ、ゼロが味方で本当に良かったよ・・・」
イーゼルは魔物の全滅を確認すると、その場で倒れかける。
「おっと、大丈夫か?国王サマ?」
ガルシアは倒れかけるイーゼルを支えると、イーゼルにこう尋ねた。
「なぁ、これはアレか?やっぱりゼロがやったのか?それとも本当に神の天罰だったのか?」
どちらを答えようとも真実である。
だが、ゼロが絶対神である事は秘密である。
故に、イーゼルはこの質問にこう答えた。
「ゼロしかいないでしょ」
これでガルシアが納得するか不安だったイーゼルだが、それは杞憂だった。
「ま、ゼロならやれるか。何てったって俺の戦友だからな!」
ガルシアはクハハと笑うと、神の槍が墜ちた場所を暫く見つめていた。
~ゼロside~
俺が王都まで戻ると、イーゼルとガルシアが俺の帰りを待っているかの如く、その場に立っていた。
「よっと、ただいま」
俺が空から降りると、イーゼルとガルシアは苦笑いした。
「うん、アレを撃ったとは思えないぐらい軽い挨拶だね」
「ま、ゼロらしいな。流石俺の戦友」
ガルシア、お前はいつ俺の戦友になったんだよ。
「神の槍だ。名前の通り、神の槍だ。どうだった?神っぽい演出だったろ」
俺がそう言うと、ガルシアは俺の肩をバンバン叩いて、
「クハハ、他の奴らは神からの救いだ、とか言って拝んでたぞ!」
と、爆笑していたが、イーゼルは神本人だと分かっていたので、普通に笑えなかった。
「所で、結局剣魔祭はどうなったんだ?もう直ぐ日も暮れるし」
「ああ、それなら俺が降参したって事になってるハズだ。つか、あんなモン見たら誰だって降参するだろ。そろそろギルド本部長から・・・っと噂をすれば」
ガルシアの後ろからギルド本部長のザンダが俺達の元にやって来た。
「このゴタゴタで有耶無耶になったが、今回の優勝はゼロ=グランディオ、おめでとう。そして優勝商品のランク昇格だ。ほら、新しいギルドカードだ。受け取れ」
俺はギルド本部長から白金のギルドカードを受け取る。
つまり、俺は白金ランクに昇格したのだ。
「あ、賞金は後日纏めて払う。流石にここじゃアレだしな。またギルド本部に来てくれ」
そう告げると、ギルド本部長は去っていった。
俺が今受け取ったこの白金のギルドカード、これが直ぐに使わなくなるという事に、今の俺は気が付く由も無かった。
ゼロは白金ランクに。
尚あと数話で金剛に上げます。