第98話 神はサイコロを振らない(Orpheus In The Underworld)
天国と地獄
因みにHeaven And Hellにしようとしたけどやめた。
2試合の準決勝が終了し、決勝の舞台に立つ冒険者が決まった。
1人は俺、ゼロ=グランディオ。
そしてもう1人はゲールノーア学園の2年生であり、白金ランク冒険者ガルシア=エーゼンベルツだ。
とは言っても、ガルシアが来るのは想定内、というか当然だった。
そもそもこの祭に参加している白金ランク冒険者がガルシアしかいないのだ。
決勝戦直前、俺とガルシアはステージ前にて相見えた。
「よぉ戦友!決勝戦で戦える事を楽しみにしていたぜ!」
いつから俺は戦友になったんだよ、と。
「ま、こうなる事は自明の理だがな」
「クハハ、それもそうだな。魔導祭のリベンジだ。本気でヤらせて貰うぜ・・・と、言いてぇとこだが」
「?何かあんのか?」
「ああ、実はこの祭、八百長なんだわ」
「八百長?」
「この祭の優勝賞品覚えてるか?ランクを1つ上げる、だ。俺も去年優勝して分かったが、これ俺みてぇに実力のある奴を早急に昇格させる為のシステムなんだわ。つまり、今年はお前ェに優勝させなきゃならねぇんだよ」
成程、確かに俺は白金ランク昇格への推薦提示は受けたが、実際ランクを上げるにはこれ程手っ取り早いものはない。
ガルシアも去年優勝して白金ランクに昇格したという訳か。
つか去年ってガルシア1年生だよな。
何で冒険者やってんだ?
・・・ああ、学園に入る前に冒険者登録しておく事は出来るのか。
まぁ何はともあれ、ギルドの思惑にまんまと乗せられたな。
いや、そもそも祭にエントリーしたのイーゼルだよな?
何か、色々と繋がってそうだな。
兎にも角にも俺の優勝は端から予定されていたって事で、決勝戦の相手は否が応でも勝ちを譲らなければならないと言う暗黙の了解的な物があったのか。
ガルシアからすれば、魔導祭のリベンジの相手である俺と全力で戦いたい筈が、ある程度抑えなきゃならないと思っているようだな、全く。
「安心しろガルシア。俺は全力を出されようが負けるつもりはない。だからお前は全力を出せ」
「・・・ハッ!やっぱりそう来なくちゃな!いいぜ、全力で叩きのめしてやるよ!」
俺とガルシアは拳を合わせると、決勝戦の舞台へと上がって行った。
「ガルシア=エーゼンベルツ、ゼロ=グランディオ、両者前へ!」
俺とガルシアはお互い剣を構える。
余談だがガルシアの剣は地獄剣ヘルソードという。
まんまだ。
「それでは決勝戦、始め!!」
~イーゼルside~
決勝戦、それは前の試合とは比べられない程激しい闘いだった。
観客は大いに湧き上がり、隣にいるルナとカーシャはゼロの動きにうっとりしている。
・・・全く動きが目に追えないんだが?
試合開始直後に動いたのはガルシアだった。
気付いた時にはガルシアはゼロの目の前まで迫っていた。
魔法無しであそこまで動けるのかと感心していたが、ゼロという規格外相手にはそんな小細工は通じなかった。
ガルシアの刃はあっさりと流され、ガルシアは勢いでゼロの上を通り過ぎる。
その最中ゼロは振り返り、ガルシアに向けて剣をを振るう。
するとガルシアは片手を地面に付き、手のみで跳躍しゼロの刃を躱す。
ここまでは理解出来た。
これ以上は、二人が視界に追い付けない程、高速で剣を交えるので何が起こっているのか分からない。
「・・・よく二人はゼロの動きを捉えられるね」
僕が二人にそう尋ねると、二人はさも当然だという顔で、
「「ゼロくん(様)の動きなら余裕よ(ですわ)!!」」
と、宣言したが、二人の額に汗が流れているのを見ると、あっ、割と余裕無いんだ、と察した。
二人のゼロへの執念を感じる。
なお、未だに続く見えない剣戟に、観客の盛り上がりは頂点に達し、激しい応援合戦が繰り広げられている。
その応援中にも剣戟を繰り広げる二人の姿を見ようと頑張っている観客もいるが、半ば諦めモードのようだ。
さて、僕も少し集中してゼロの動きを追ってみよう。
二人は今、空中戦を繰り広げている。
ガルシアは空中で剣戟し、着地すると直ぐに跳び、また空中で剣戟する。
地に足を着いている時間より空中にいる時間の方が長いように見える。
ゼロは・・・うん、最早地に足を着けていない。
空中に浮きながら戦っている。
このフィールドでは魔法が使えないから多分神力使ってるのかな?
ぱっと見互角に見えるけど、ガルシアの必死の攻勢を余裕で受け流しているっぽいから、優勢なのはやはりゼロだね。
まぁ自明の理だけど、ゼロ自身楽しんでいるように見える。
ガルシアへの配慮か、それとも。
暫く空中戦が継続し、ガルシアに疲れが見え始めた時、ゼロが突然、ガルシアに大きく剣を振りかざした。
ガルシアはそれに驚く事無くそれを受け、吹き飛ばされる。
二人は同時に地面に着地し、互いに刃を向ける。
そしてその二人は、まるで時間が止まったのかのように、一切動かなかった。
ガルシアとイーゼルの戦いはイーゼル視点にしました。
三人称視点って便利だね。
最初からそうすれば良かったと今更。