第97話 神はサイコロを振らない(Only A God Can Understand God)
燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや
休憩が終わると会場を移して準決勝が始まった。
準決勝第2試合目は俺とセイルである。
俺が第1試合を眺めていると、セイルが声を掛けてきた。
「兄貴!能力なしの平民である俺が、ついにここまで来ましたよ!」
確かに準決勝をする4人の内、平民はセイルだけだ。
まぁ俺も元平民ではあるが、能力なしでここまで勝ち上がるのは素直に称賛に値する。
「ああ、良く頑張ったな」
「兄貴の教えがあったお蔭っす!冒険者活動でも今は金を目指しています!」
「そうか、準決勝お互い精一杯戦おう」
「負けるつもりはないっすよ!」
セイルは自分の実力に自信がついたのか、俺に勝つと宣言した。
悪いが、そう簡単に負けるつもりはない。
戦いにおいて重要になるのは情報だ。
情報が無ければ、たとえどれだけ強い者だろうと負ける事もある。
この情報戦においては圧倒的に俺の方が有利となる。
だが結局は技術差でのカバーは可能なので、1対1では余り意味を為さないが。
「セイル=バラック、ゼロ=グランディオ、両者前へ!」
いつの間にか準決勝第1試合は終わり、決勝進出はガルシアだった。
まぁ、だろうな。
さて、前にガルシアと会った時にまた闘おうと言われていたし、セイルを下してガルシアに再戦の機会を与えてやろう。
「それでは準決勝第2試合、始め!」
「ウォォォォォ!!」
試合開始直後、雄叫びを上げながらセイルが間合いを詰める。
「せりゃあ!」
セイルは俺に向かって斬り掛かるが、余りにも単純な為、俺は余裕で避ける。
俺は右手で持っていたラグナロクを左手に持ち変え、セイルに斬り掛かる。
セイルはそれに気付き、寸での所で剣で防ぐ。
「あ、兄貴、両利きだったんすかぁ!?初耳ですよ!?」
「そりゃあ、言ってないからな」
セイルは驚きながらも体勢を立て直し、俺から距離を取ろうとする。
だが、俺は撤退出来ないように連続して斬り掛かる。
剣撃によって刃と刃がぶつかり合う音が絶え間なく鳴り響く。
セイルはよろけながらも必死に俺の剣撃を耐えている。
ん?何でコイツ俺の攻撃を防げているんだ?
「とりゃああああああ!!」
セイルは俺の剣を押し返し、俺の首元に剣を当てる。
「や、やった!」
セイルは俺の首を取った事で勝ちを確信していた。
セイルがここまでやれるとは思わなかった。
まさか首を取られるとはな。
だが、セイルは知らない。
首への寸止めは、この試合において悪手でしかない事を。
「なあセイル、この試合のルール覚えてるか?簡単に言えば相手を殺さず無力化、だ。このルールにおいて寸止めした所で試合は続行出来るんだ」
「え!?しまった!」
セイルが気付いた時には既に遅かった。
俺の剣がセイルの腹を貫いていたのだ。
セイルが倒れるのと同時に回復魔法が掛かり、準決勝は俺の勝利となった。
セイルは悔しそうな顔をしながら、立ち上がった。
「やっぱり兄貴には敵わないかぁ」
「ま、最後の最後にアレに気付いた事は上出来だな」
ルールの穴というべきだろうか。
文言では対人戦闘を模したと言っていたが、実際人を殺せば反則負けとなる。
これがトラップだ。
セイルは今までの試合、恐らく同じようなやり方で勝っていただろう。
対人戦闘を模したと言われているので、人は首を取られたら死ぬという常識が働く。
故にその時点で相手は降伏宣言をしただろう。
だが、殺人が禁止されているので、例え首を取ろうが絶対にそこから先へは進まない。
まだ生きている自分が、相手の寸止めを見て、殺されないのを分かっていて降伏する奴なんていない。
簡単に言えば、セイルは対人戦闘を重視し、首を取ろうとする動作をした。
一方俺は試合としてのルールを重視し、首への寸止め=試合続行可能と取った。
能力や法律と一緒で、解釈の差は全てにおいて大きな差を齎すのだ。
「もっと早く気付けていれば、もう少し上手く動けていたんすかねぇ」
セイルは自分の動きを反省しながらそう言う。
セイルにとってこれは大きな成長に繋がるだろう。
セイルの潜在能力なら、更に強くなる事は自明の理だ。
だが。
「気付いた所で俺には勝てないさ」
俺はそう言い残すと、ステージを降りていった。
燕雀鴻鵠の良い英訳を考えるのに時間使った上に、セイルの性格の見直しにクソほど時間掛かってしまった。
因みにタイトルの英文の直訳は「神の事は神にしか分からない」です。
燕雀鴻鵠の英訳の一つであるheroのやつをGodに置き換えただけです。