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勘違い……ですかね?

本日2話目だぜひゃっほう!

長いから半分に切ってみました


 この世界に来てから11回目の朝。


 太陽はすでに顔を出して、箱庭の大地を明るく照らしている。

 テントから出て外を眺めると、雲ひとつない青空が広がっていた。鼻腔に吸い込まれる自然の匂いも素晴らしい。素敵な一日になりそうだ。


 さて、少しかっこつけたところで妹を起こしに行く。


「朝だぞ起きろ」


「ういー……」


 いつも俺の方が早く起きるので、そのあとに朝に弱い柚希をゆすっておこすのだ。


 もはや恒例と化したやり取りを経て、俺たち二人の一日が始まる。


 だが、今日に限って一つアクシデントが発生した。

 それが原因で起こった勘違いが、一生を共に過ごすこととなる彼女との出会いになるのだが、この時の俺は予想もしていなかった。



「みずぅー……」


 気の抜けた声と共に柚希が魔法を使う。木の桶に溜まる水。


 いつも通り、この水を俺が火属性魔法で顔を洗うのにちょうどいい温度まで温める訳だが。


 その時である。


 両手に持っていた大きめの木桶に気をとられ足元が疎かになっていた俺は、パジャマとして着ていたジャージの、長ズボンの裾を踏んでしまった。


 結果、右足を後ろから引っ張られたかのような名状しがたい感覚と共に、俺の上半身は手に桶を持ったまま投げ出されてしまった。


 テントは狭い。四角錐型とは言え、俺一人が中で両手を広げると、ギリギリ両壁に届いてしまうのではないかと思うくらいの空間。


 つまり何が言いたいかというと。


 頭から投げ出された俺のすぐ下に、まだぐだぐだと寝転がっている妹が居たわけで。

 

 俺が倒れこんだ場所が仰向けになっている妹のちょうど真上だったわけで。


 バシンッッ!!


「うおっ!」


「ひゃっ!」



 自分のいる方向に倒れてくる俺を見て反射的に目をつぶってしまう柚希。

 

 一拍の間のあと、柚希がつぶっていた両目をゆっくりとあける。


 そして見開いた。


 すぐそばに迫る妹の整った小顔。

 その顔は驚きで染まっていた。



 少しの間両者とも動けず、絡み合う二人の視線。


 わずかに聞こえるお互いの息遣いに意識が持っていかれて。


 小さく開かれる柚希のピンク色の唇。


 呼吸のたびにほんの少し上下する小柄な胸。


 再び混じりあったお互いを見る目。


 柚希は観念したかのように目を閉じてから、ふっくらとしたその唇を少しつき出して…………



 からん、からん。


 テントに響く乾いた音。

 体感で10秒くらい見つめ合っていた気がする。


 停止していた時間は、倒れこんだ際に手放した桶が地面に落ちた音でようやく動き出した。


 ざばっっ!!


 そして時間差で俺たちに容赦なくかかる、桶に入っていた冷たい水。


 キンキンに冷えてやがるっ……!!


 その水は主に俺の背中、そして柚希の首元に思いっきりぶちまけられたわけで。


「きゃあっっ!!」


 どこか可愛げを含む、甲高い驚きの声を上げた。結構大きな声であった。周りのテントにいる人に迷惑をかけてしまっただろうか。


 俺は現実逃避をしながらそんなことを考えていた。



「はやく……どいてもらってもいい……?」


「お、おう」


 顔を朱に染めながら上目遣いで催促する柚希。



 と、ここまでが発生したアクシデントなのだが。まあ女性とよく側で過ごす男性諸君なら、こういったことも経験したことがあるだろう。


 某ジャンプマンガの主人公リト君なんか女性と話すたびにラッキースケベをおこす位なのだから、こんな床ドンアクシデントなんてよくあることだ。

 よくあるまでいかなくても、たまにはあるに違いない。うん。きっとそうだ。


 だから、ここまでは別によかったんだ。



「っ!!あんた!!今すぐそこから退きなさい!!じゃないと射つわよ!!」


 今までとは違った種類の緊迫した声が、切り裂くかのように辺りに響いた。


 妹を覆うかのような四つん這いの体勢のまま、声がした方向にぱっ!と顔を向ける。


 すると、テントの外で橙色の長髪の女性が矢をつがえて弓をこちらに構えていた。

 ん?あれは……ケモ耳では!?


「そこのあんたよっ!!この下劣なっ!」


 それ俺の事かぁ!

 げ、下劣……?


 そうか、俺が柚希を押し倒していると勘違いされたのか!確かにこの情況を見たらそう思うかも知れない……!!


「ちょ、ちょっと待て、それは多分誤解だ」


「なにが誤解よ!いいから離れなさいっ!」


 キッ!!と目を鋭くしてこちらを睨んでくるスレンダーな女性。


 何を言っても無駄そうなので、とりあえず弁解はせずに大人しく従おうと思う。


 俺自身それなりに焦っていたからか、両手を開いて上げながらテントの外に出る。


 周りを見ると、ちらちらと伺うような好奇の視線。やはり目立ってしまっていたか。


 再びテントの中に意識を戻す。


 テントの中で目を点にしたまま動けていない柚希。


「あなた大丈夫だった!?」


「う、うん…………何が?」


「何って、そこのクズに襲われていたじゃないの」


「いや、襲われてはないです……」


「え、そうなの?」


 目を丸くして急に雰囲気を柔らかくする女性。


「アクシデントといいますか?私たち一応兄妹なのでまあ……」


 一応って何さ。


「そうだったのね……」


 胸をおろし一息つく女性。


「じゃあ安心したわ。てっきり襲われていたかと思って。なら私はもう行くわ」


「ちょっと待て」


 何もなかったかのように帰ろうとする彼女。

 その進路を塞ぐようにして入り口に立った。


 頭の上にある二房のケモ耳がびくん!と震える。

 

「妹を助けようとしてくれたことはうれしいんだが……どうしてくれるんですかね?」


 いつのまにか俺たちのテントを囲むように、大きな人の輪っかができてしまっている。


「痴話喧嘩か……?」


「何かおこったの?」


「三角関係だと思うなー」


 ひそひそとした話し声がうっすらも聞こえてくる。


「……どうしてくれるんですかね?」


 彼女にずいっ、と近づいて目を合わせる。


「は、はぁ?!私はただ止めようとしただけで」


「貴女の勘違いですよね?」


「そっ、そんなことないわよ!私は」


「勘違い、ですよね?」


「うっ、うぐっ……そう……です」


 動揺したのか赤くなった顔を背け、縮こまって肯定する女性。


「……はぁ。とりあえず中で話しましょう」


 周囲の目もあるし、と付け加えて話す。


「はい……」


 項垂れている彼女のケモ耳は、いつのまにかへにょっと萎れていた。





柚希「一応……兄妹です(照)」


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