8話
あの戦闘が終わった後、一連の流れをみていたまなちゃんにいっぱい褒めてもらった。
「あの失礼なこと言ってたひとおにいちゃんにぼこぼこにされててとてもすっきりです。よくできました」
「はい、ありがとうございます」
こんな感じで俺が用意したヒノキの上で足をぶらぶらさせながら俺の頭を撫でるまなちゃん。ヒノキの上に乗っているので俺より少し視点が上にあるせいか、ちょっと偉そうに褒めてくれた。
ともあれ、あの達磨を倒したことにより発言する機会ができた
「ここまでくるのに時間が掛かりましたが、皆さんをここに集めた理由をお話しいたします」
「その前にいいかにいちゃん。今から俺たちはお前に指揮されるんだ、その変な敬語はやめてくれ気持ち悪い。言葉遣いなんて気にするな」
「それは助かる、俺も敬語というのは苦手だったんだ」
達磨からため口の許可が出たので気兼ねなく喋り始める。
まずはさっき海岸にいるときにトイフェルから聞いた情報を集まったみんなに共有していく。共有といっても地震による被害、魔王の宣言、街に現れた魔物の情報の確認を行う。どうやらトイフェルから貰った情報とここに集まってくれた人たちと俺の認識に差異はないようだ。
もちろん俺とトイフェルしか知らない、他にも城が2つ落ちている事と、大陸の移動は余計な混乱を招く可能性も十分に考えられるので情報の開示はしないでおいた。
「それで俺たちが集められた理由ってのはなんなんだ?まさか誰でも知ってるようなことを共有するために呼び出したわけじゃないだろうな」
「あぁみんなを集めたのは、この区役所をギルドとして使用することを宣言するためだ」
「ギルドだと?」
「あぁ、まだこの街を管理する人に許可はもらってないから、みんながシェルターから出てくるまで仮のギルドとして使わせてもらう」
そしてなぜギルドを設立するのかを説明する。
「ギルドを設立する目的は3つ。まず一つが魔物の討伐数の管理。二つ目が集会所として使い新しく出現した魔物の情報を共有する場として使ってもらうこと、さらにはパーティの編成。1人より2人、2人より3人だ。そして三つ目が緊急事態が起こった時はここに集合してもらう、いわば目印だ。」
「目的はわかったけど、討伐数の管理なんてどうやるんだ?」
「誰かソナーのようなアビリティを持ったものはいるか?」
と俺の問いかけに3人の若い男が手を挙げる。ご都合主義様様だ。
「魔物を輩出しているのはどうやらあの城の中のようだ。さっきから見ていたがどうやら2時間に1回魔物があそこから大量に出てきているがそれ以外の時間は特に動きが見られない。そこで2時間に1回の魔物の放出が行われる前に街の中の魔物をソナーアビリティで探し出しすべて殺す」
「そんな事できるのかよ……」
「できるかどうかじゃない、やるんだ。そうしなければ自分も自分の家族も危ない目にあうぞ」
意味ありげに悲しそうな表情をしてそういうと皆、「やべわりぃこと聞いちゃった」「あーあやっちまったな」「確かに俺たちがやるしかねえ」みたいな空気になったのできっとやってくれるはずだ。
「ていうかあの彗星が落ちてきたと同時にあの壁が出現したんだがありゃどいうことだ?」
「あれは俺がやった」
「どおりでつえーわけだよ」
俺が指示を出しこの場にいたアビリティ保持者を3つのグループに分けた。もちろん1グループにつき1人ソナーアビリティの保持者を入れて。ついでに魔物を倒したものには報酬を与えるということ、ただしその証拠となる魔物の一部を持ち帰ること。魔物の一部は換金することができ1つ2000円でかいとること。虚偽の報告をした場合、虚偽の報告の数×2000円の罰金を支払ってもらうこともしっかりと伝えた。
非戦闘向きのアビリティ保持者にはここに残ってもらっている。トイフェルはなんでこのアビリティたちを与える候補に入れたんだ。まったく
トイフェルに対してぷりぷり怒っていると一人の女性から声がかかる。
「あの……あたしの、アビ、アビリティ”鷹の眼”っていって、とと、遠くのものまで見えるんだけど、何か使えない、かな?」
そう声をかけてきたのは、おどおどとした声から考えられないくらい明るい金髪に、低めの位置で髪を2つに縛り目が前髪で覆われた少女だった。少女といっても俺と同じくらいの年齢だろう。
そんなことより、鷹の眼だって?
「今君は鷹の眼といったのかい?」
「ひぃ、すいませんそうです」
なんでこの子はこんなに怯えてるんだろうか。知らないうちに何か怯えさせることでも言ってしまったのか、それともあの達磨との闘いの終盤、つまり俺がスクアーロを発動して怖い顔してるときに俺の前にいたのだろうか?いやいなかったはずだが。まあいいか鷹の眼は使えるだろう。
「ついてきてくれ」
「はい、あ、あの森の中に連れて行ってなにする気なんですか?ももももしかして私をいじめるんですか!?」
「ん、いやそんなことしないよ。この森を向けたとこにある海岸だ」
「そうですか」
明らかにほっとしている。そんなに信用無いだろうか俺は。
鷹の眼にはあの城の見張りをしてもらおう。彼女にはあの壁から何匹の魔物が出てきたか正確に確認してもらおう。遠目からだったらはっきりとした数が分からないからな。まあ双眼鏡を使えば見えないこともないだろうが。
「じゃあここの茂みに隠れてあの壁から何匹出てくるか数えておいてくれ。今君にしか頼めないことだ。2時間後またここに来るからその時数を教えてくれ」
「あの、こ、これは私を一人にして、ま魔物に襲わせる、ごっ拷問なのでしょうか…」
「拷問?なぜそうなる」
「だって、こんなにもないところで魔物が出るかもしれないってのに、こ、ここに私だけおぉお置いていくってことは、そういう事なのかと思って……」
この子なんでこんなにも卑屈になってしまうのだろうか、最初に話しかけてきた時からその前髪のせいで少し根暗そうだなという印象をうけたが。ここまで卑屈になる理由がよくわからない。
よくわからないがこの子をここに放置しておくのも少し、というかかなり心配なのでしばらくはここで一緒にあの城の見張りもかねて話しかけてみるか。あっちはトイフェルもいるし大丈夫だろう。
「すまないね。やっぱりここに残ることにするよ君に興味がわいてしまった」
「え、え…そうなんですか」
顔は見えないから感情がわからないな、俺がここに残るといった時もしいやそうな顔してたら傷つくなあ。
「あぁ、君の名前を教えてくれるかな?」
「な、名前……名前は猫屋敷萌、です。」
「猫屋敷萌か、とてもかわいい名前だな」
「かわいい、ですか?今まで、この名前を聞いて、か、かわいいと言ってくれたのは、ああなたが初めてです」
「名は体を表すというように名前だけじゃなくかわいい顔をしてるじゃないか。その前髪も、切って顔出したほうがもっとかわいいのに」
「っ……!?」
俺はそんな恥ずかしい事を呟きながら無意識にも、彼女の前髪をかき分け、その奥に隠されたとても愛らしい瞳をのぞき込む。その瞳は美しく翡翠色の輝きを放ち、日の目を見るのを今か今かと待ちわびているようだった。アビリティ、鷹の眼の影響か、その眼には目標をロックオンためのものなのか内側に一つの線が浮かび上がっており
「とても綺麗だ」
猫屋敷はゆでだこの様に顔を真っ赤にし、口をぎゅっと結び恥ずかしそうにこっちをにらんでいる。
「ななな何言ってるんですか!か、からかわないでください…!またそうやって騙そうとしてるんでしょ。あたしはもうか、帰ります…」
俺がなにか猫屋敷の地雷を踏んでしまったのだろう。仲良くなろうと思ったのに逆効果になることをしてしまったようだ。指揮を執ると豪語し、物理的な戦いには勝ったが心理戦には負けてしまったようだ。
どうも、人の心というものは複雑でわからない。その点瞬はすごい、俺の考えてることはなんでもお見通しなんだからなぁ。
と、物思いに更けていると猫屋敷がすっと踵を返しまたも恥ずかしそうな顔をしてこちらに戻ってきた。
「あ、あたしの名前、初めて褒められた……それに、あ、あたしにしか頼めないって、言ってた、から」
「それで戻ってきてくれたのか?」
俺の問いにコクンと小さくうなずく猫屋敷、なんて素直な子なんだろう。
「そうか、ありがとう。もしいつか話したくなった時が来たら話してくれ。その日が来るまでずっと待つから、無理する必要はない」
「あ、あたし」
グゥルルルル…
「どうやら知らない間に接近されていたみたいだ」
「ごめんなさい、あたしが叫んじゃったから……」
「いや、猫屋敷のせいじゃない。こいつらは俺が相手をする、萌はそこで見ていてくれ」
「あ、うん。ありがと、ござぃます」
ゴブリンのような魔物と、あの空き地でまなを襲っていたやつらと同型の、狼のような形をした魔物だ。それに見たことのない魔物も混ざっていた。ぶよぶよとした体に短い手足、シュモクザメのような頭と背びれをつけた魔物だ。体表は水でぬれているからこいつらは海から来たということか。
なんにせよやるしかない。全方位に囲まれているから萌を守りながらだと少々難しいな。
「猫屋敷、高いところは大丈夫か?」
「え、大丈夫だけどどうし、うぁぁぁ!?」
高いところが大丈夫なら問題ないと思い最後まで聞かずにヒノキマスターを発動し萌を押し上げる。
しばらく困惑気味だったが俺が萌の安全を確保するための行為だったと気づいたのか安堵の表情を見せる。
「さて、君たちの相手は俺だ、くれぐれもレディに手は出さぬように」
今のセリフも私服だと格好がつかないのでもちろんハンドレットアーマーで換装済みだ。今俺が装備している鎧は灰色をメインに腕や胸、腰から足に至るまで黄色い稲妻のような線が無数に存在する鎧。その名も迅雷の鎧。レベルアップによりつい最近解放された鎧だ。ただの灰色の鎧の固有アビリティが+10%素早さアップに対しこの迅雷の鎧は+40%も追加される。
ちなみに今のレベルは607で素早さが1万を超えている。その代わり300を超えたあたりから攻撃力・防御力のステータスの伸びがかなり悪い。
ま、素早さは最大の攻撃と防御ってね。ステータスが低くても手数を増やせば問題ない。当たらなければどおってことはない。
「つまりこんな風に、目の前でぼさっとしてる敵くらいは瞬殺できちゃうわけ」
「誰にいってるんですか?」
「いやぁ、何でもないよ」
目の前にいた5匹のゴブリン型の魔物、うわあもうゴブリンでいいや。ゴブリンは瞬殺した。あとは狼型のやつと、サメ型のやつか。
「帰ったら名前決めないとな」
ひとまずはこいつらも瞬殺しちゃおう。もうこのくらいの雑魚ならステータスでごり押しできる。
「とても、強いんですね。あ、あのごりさんとの戦いでは本気じゃ、なかったんですか?」
「ごりさん?ああ、あの達磨か。いや、使うアビリティを制限しただけで本気で叩いたよ」
「そういえば、刀だしたり鎧になったり、この木をだしたり。色んなアビリティが使えるんですね」
「あぁ最初に言った通り俺が最初にもらったアビリティはごみを拾う能力だからね。全部ゴミとして拾ったものだ、ごみとして言ってもこの鎧は友達から貰ったものだけどね」
「あ、アビリティの譲渡が可能なんですか?」
「いやそれは無理だろうね。この鎧はその友達が俺には必要ないゴミだって言ってくれたんだ、だから拾えた」
「とても、優しいですね。あたしもいっぱいアビリティが使えたらなあ」
「あ、そうだ、アビリティは無理でも魔法はきっと習得できるはずだ」
それから俺は城から魔物が放出されるまでの残り1時間を存分に使い、魔法について説明した。
俺は頭が悪くうまく説明できなかったが、俺が初めて魔法を使えた時の感覚や少し恥ずかしいが、イヴァポレイションを使い海水を沸騰させて見せ、身振り手振りを使って一生懸命に伝えた。
俺のつたない幼稚な説明にも関わらず、萌もうんうんと相槌を打ちながら真剣に聞いてくれた。
こうして話していくうちに猫屋敷のどもりも無くなり、段々と打ち解けている感じが如実に表れる。
俺が教える側にいるということが何とも不思議な感覚だが、とても充実した時を過ごせたと思う。
「ありがとうございます剣太さん、あたしもなんとなく魔法についてわかってきたと思います。びょびょっと手から出る感じですよね?体の芯から魔力を感じて…流れるように……手に意識を集中して………」
眼を瞑り、意識を集中させる猫屋敷を、初めてはいはいができそうな自分の子供を見るように暖かく見守る。
が、1時間やったところで無理だろう、なんせ俺は1週間かけてようやく意味のわからない魔法を手に入れたんだ。実戦で使えるような魔法なんてそんなすぐ…
「解き放つ感じ?」
萌がその言葉を言い終えた直後、萌の手の平から紫がかった黒い魔力の奔流が天高く突きあがる。
「感じ?じゃねえよ」
「なんかでちゃった」
感じ?(´◉◞౪◟◉)∩