プロローグ:敗走
【終戦2日前、東部戦線ログラノスク森林地帯】
今この瞬間。私は死ぬ。
1か月に始まった敵国の攻勢により、戦線は完全に崩壊―――。
命からがら逃げ延びた先に待っていたのは、無慈悲な殲滅戦だった。
上空にいる魔術兵より情報を与えられた敵兵たちが、砲撃によって焼き払われた森の中を進み、餌に群がるハイエナのように私たちを殺す。
かつての戦友も、次々と消されていく。
そんな絶望的な状況でこの私、ロレイアの何かが吹っ切れた。
―最後なんだから、派手に散ろう―。
別に目立ちたがり屋というわけでもないのだが、どうせ最後なら。
そう思い切ってしまえば話は早い。
左手に付けている魔法陣の描かれた手袋。魔術装具イージスを介し、大きな爆発を引き起こす。
もちろん色んな方向から敵兵が迫ってくる。
あとは最後のステージに辿り着くのみ。
全力で、大気中の魔力も、自身の魔力も出し切り、魔術を使いまくる。
時には愛銃を使いけん制する。
煙幕、トラップ、地形操作、魔術師の家系に生まれたことを思い出させてくれるような数々の魔術。
しかし、当然追い詰められる。
だが、目的地には辿り着いた。
私が死に場所として選んだのは、鬱蒼と茂った森の中で、眩しいくらいに日が差す広場だ。
かつては豪華な建物だったことが周辺に散らばる残骸や地面の装飾から見てとれる。
20を超える敵兵に囲まれ、銃口が向けられる。
降伏せよ、と聞こえた気もしたが、左手に意識を集中させる。
降伏したところで、待っているのは地獄だけ。捕虜の扱いが悪いことで有名な敵国に捕まる気などさらさらない。
敵兵がトリガーに指をかける。
今この瞬間。私は死ぬ。
左手を掲げ、魔力を送る。
魔力どころか、すべての生命エネルギーを魔力に変換する。
左手が燃えるように熱い。
最後に自爆するというのは、ベタと言えばベタではあるが。
まぁ、覚悟はもう決まっている。
先ほどまですまし顔で銃口を向けていた敵兵たちの慌てふためくのが見える。
周辺の魔力と自身の魔力を集中させた左手に、最後の魔力を送り点火する。
「帝国に栄光あれ!!!!!!」
心にもないお決まりの文句を放つ。
イージスの魔法陣を中心として、激しく輝く。
左腕から崩壊してゆく。
まるで太陽のような炎の渦が体を飲みこむ。
思考が切れる寸前に見えたのは足元で光る魔法陣だった。
轟音を立てて爆発が広がる。
爆心地と化したその場所には、魔法陣の描かれたタイルのみが残された。




