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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第22話 戦場の野営地 Ⅲ エンジェル

 タイガー級はそのまま落ちるように着地し、次の獲物に狙いを定め、今度は地上にいたオオネスカに高速で接近した。オオネスカのアイ・シートが真っ赤に染まり、オービットの悲鳴がこだまする。


「「「しまった!」」」


 アルクネメが、マリオネットが、アスカが、同時に絶叫した。


「エンジェル‼」


 オオネスカが叫ぶ。


 タイガー級が迫る。


 アルクネメがロングソードを使おうとしたが、射線上にオオネスカがいて、出来ない。


 バンスとダダラフィンが懸命にオオネスカのところに向かおうとするが、間に合わない。


 タイガー級がオオネスカの脚をかみちぎろうと口を開けた。


 オオネスカの姿がその場所から消えた。


 タイガー級の上下の口が何もない空間に噛みついている。


「アルクネメ、今よ!」


 いないはずのオオネスカの声が響いた。


 アルクネメは「テレム」発生器を最大限の力で発動、そのまま剣を振り下ろした。


 剣自体が光り、その光は刃となって、今度は確実にタイガー級の脳天から体まで一刀両断した。


「オオネスカ先輩!」


「私はここよ。」


 オオネスカの声が頭上からアルクネメの耳に届いた。


 オオネスカは、先ほど乗り手を失った飛竜に咥えられるようにして、宙を舞っていた。


(無茶をする)


 その飛竜が語りかけてきた。


(エンジェル、あなたの無念を晴らしてあげるわ)


(ふっ、さすがは竜の騎士と言われてるだけはあるな。では行くぞ)


 オオネスカをそのまま放り投げるように、自分の背に乗せた。


(よく、わしの名を覚えていたな、お嬢)


(昔、今みたいに背中に乗せて遊んでもらったこと、まだ覚えているわよ、エンジェル!)


(よし、お嬢の初陣、しかとサポートするぞ)


 オオネスカとエンジェルはそのまま、火の切れ目であるヤワナイト川から新たな「魔物」が現れている場所に向かった。


 飛竜に乗ってヤワナイト川を目指したオオネスカを見送り、火の壁を越えてくるタイガー級に向かい、アルクネメは剣を向けた。

 背嚢からのコードはすでに盾に取り付けてある。


 アルクネメのリングの「テレム」の表示はすでに異常な値をはじき出していた。

 さらにアルクネメの「魔導力」の値もいまだ見たことのない高い値を表示しているが、もうすでに気にならなくなっていた。


 ただ「魔物」を倒すのみ。


 初陣の恐怖は微塵もなかった。


 先ほどまでモンキー級を狩って悦に入っていた上級生が、タイガー級の出現に腰を抜かして動けなくなっていた。

 チームで動く最低限の行動もできていない。


 だが、それが本当の初陣なのだろう。

 弱い敵を狩って楽しむくせに、強い敵に腰を抜かす。


 馬鹿にする気はなかった。

 一歩間違えば自分たちもそうなっていた。


 運がよかった。


 仲間に恵まれた。


 守ってくれる大人たちに恵まれた。


 ミノルフの話、バンスの話。デザートストームの話。

 そして、バンスの戦い方をこの目で見た事。

 全て偶然だが、自分は運があるとも思った。


 腰を抜かしたその男子学生にまだ残っているタイガー級の一匹が反応した。


 そう感じたアルクネメは、「魔導」を足元に集中した。

 つい今しがた見た、タイガー級の力を思い出す。すると足元に光の円盤が現れた。

 タイガー級のように空を駆け上る。


 そして男子学生を襲おうとしているタイガー級の真上まで駆け上り、力を消去。

 そのまま落下。

 落下の勢いを剣の力に変えてタイガー級に襲い掛かる。

 気付いたタイガー級がアルクネメに向かって口を大きく開け、吠えた。


 その咆哮はそのまま物理的な圧としてアルクネメにぶつかってきた。


 だがアルクネメは慌てず、その圧を盾で防御しながら、直接タイガー級にぶつけ、さらに剣を振るい、首を落とす。


 もう一匹はすでにミノルフが駆け上がってきたタイガー級を下にかいくぐり腹から突き刺し、殺していた。


 腰が抜け動けなくなっている男子上級生を一瞥して、剣の刃に着いたタイガー級の血を、軽く振ることにより、吹き払う。


 そして、飛竜に乗ったオオネスカが飛んでいく方向に目をやる。

 アイ・シートに火の壁の隙間の川の上流から出てきた「魔物」の識別データーが既に表記されている。


 タイガー級よりさらに体の大きいベア級だ。

 赤い目が体の表面に多く点在している。


 あの赤い目は「魔物」の「魔導力」が大きいほど、多く出てくるらしい。

 一つの目安ではある。


 オオネスカが竜の騎士と呼ばれていたことは知っていたが、飛竜を、ああもうまく使いこなせることに驚嘆の想いをアルクネメは感じていた。

 飛竜の知識は講義などで、一通りは知っていた。

 しかし、飛竜使いになるには、名の知れた騎士団、クレイモア国ではいわゆる4大騎士団に入らないと難しい。

 しかも、その飛竜との相性が良くないとなれない。

 「特例騎士」である、オオネスカ達なら4大騎士団入団はさして難しくはないが、あとは才能の種類によるものなので、希望通りに行くことの方が珍しいのだ。


 それが、既に飛竜に乗り、「魔物」、しかもBランク以上かもしれない相手に挑みに向かっている。


 自分もそうだが、この戦いは我々を確実に成長しているようだ。


 マリオネットもその拳でかなりの「魔物」を粉砕している。


 アスカは、後方で負傷者の治療を活発に行っていた。


 それ以上にオービットの「探索」の力は凄まじかった。

 オオネスカのチームだけでなく、デザートストームにも情報を提供し、それをもとに「冒険者」随一とも言われているチームを完全にサポートしている。

 ここに集まった「魔物」の1割は彼らの手により葬られている。


 火の壁を越えてくるものままだいるが、確実に対応している国軍と騎士団により、その数も減少してきていた。

 ただ、飛竜乗りも襲われていたように、結構な損害は出ていた。


 国軍は火の壁の向こう側に、さらに火の弓矢を打っている。


 とりあえずの脅威は去ったようだ。

 オービットからの「探索」の結果からもその考えを支持していた。


 オオネスカも飛竜と共にベアー級を2頭、倒している。

 返り血は浴びているようだが、けがはなさそうだ。


「この発生器、使えるぜ、アルク。」


 マリオネットがアルクネメに近づきながら、そう声を掛けてきた。


 返り血をかぶった顔を簡単に水で流したようだ。


「アルクの男は優秀だな。」


「お、男って、違います。幼馴染。」


「幼馴染、ねえ。まあいいけど。優秀なのは間違いないよ。俺、あんなに簡単に「魔物」に肉薄出来なかったもん。」


「ありがとうございます、マリオ先輩。でも、これからが本番ですから。生き残って、本人に伝えてください。」


「ああ、そうさせてもらうよ。アルクの男の顔は、ぜひ見たい。」


「だから、男とかじゃないですから。」


「分かった、分かったよ、ハハハ。」


 そう笑いながら、野営テントに向かって去っていった。


 アルクネメの身体から、張っていた気が抜け、その場にしゃがみこんだ。


 「確かに、ブルの発生器は効果的だったわ。」


 アルクネメは、自分が繰り出した「魔導力」の技を思い出す。

 バンスのロングソード、タイガー級の空を駆け上がる術。

 どちらも初見でそのまま使うことが出来た。

 さらに頭上からの攻撃を防いだシールドはただのイメージが、そのまま具現化した格好になった。


 自分の能力を卑下するわけではない。

 だが、この初陣でできることではないと思う。

 これはブルックスのサポートに他ならない。


 国軍と騎士団による「魔物」の掃討がほぼ終わったようだ。

 もう、接近してくる脅威は感じられない。


 アルクネメは、へたり込んでいた自分を、何とか立たせ、自分も野営テントに向かった。


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