表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
21/231

第21話 戦場の野営地 Ⅱ タイガー級

 油断からその接近に気付くのが遅れた。

 違う方向から、別のウルフ級が走ってきたのだ。


 あらかたの「冒険者」のチームは、山のふもと方向に移動し、移動車両には学生のチームのみになっていた。


 アルクネメの右側、3両横のチームが「魔物」の出現にパニックになっている。

 通常であれば、ウルフ級二匹程度はたやすく倒せる人たちのはずだったが、慌てて逃げ出し、その一人が背中から襲われた。


 既にオオネスカのチームには、オービットにより情報は来ていたため、アルクネメが剣を抜き、そちらに向かう。


 襲われた学生はとっさに持っていた短剣を「魔物」に振った。

 が、空を切る。


 その一瞬を逃さず、立ち上がり逃げようとして、また背中を見せてしまう。


 講義で、「魔物」との戦いで背中を見せるような戦いはしないように、幾度となく言われ続けてきたが、身になってなかったようだ。

 

 背を見せた場合、相手の動きが見えなくなる。

 また、大抵相手のほうが足が速い。

 この場合、相手を見て剣を向け、相手の動きをけん制し、仲間が来るのを待つ方が、生き残れる確率は高い。


 アルクネメは自分の足元に力を向け、跳ぶ。

 一気に移動車の1台を飛び越え、2台目の屋根に着地したところで、剣を握った右手とは反対の左手にブルックスの「テレム」発生器を握りしめる。


「お願い、ブル。」


 祈りを込めて握っている剣を、その場で横に「魔導力」を込めて振り抜いた。


 アルクネメの剣が淡く光り、その光が長く伸びていく。

 そしてそのまま横に振り抜かれた。


 その光は、今まさに学生を襲おうとしたウルフ級の首をとらえ、はね飛ばした。


 引き続きその車両から、跳び、他の学生を襲うためにはねたウルフ級に、さらにその上から真っ二つに引き裂いた。


 車両のヘッドライトや、サーチライトが向いていない方向からの襲撃に、他のチームは後れを取っている。

 さらにウルフ級が数体、今度はアルクネメに襲い掛かってきた。


 一匹は難なく剣で切断し、左手の発生器を左手のリストバンドに格納。


 空いた左手に背中につけた盾を持つ。

 背嚢から垂れ下がっていたコードを盾の持ち手に接続しようとしたとき、次の一匹が宙空を駆けるように、頭上から襲い掛かってきた。


 アルクネメの反応が遅れた。


 やられる!


 そう思った瞬間、頭部を包むように淡い光が拡散。

 頭上のウルフ級は壁に激突したような音を立て、足元に転がる。

 それを剣で突き刺したアルクネメは、先程のバンスのように今まさに群がろうとするモンキー級に投げつけた。


 モンキー級はその餌に喜び勇んで群がっていく。


 そこに、オオネスカの剣が襲い掛かった。

 モンキー級はそのまま、すべてがオオネスカの生贄になる。


 その時、アイ・シートに国軍とシリウス騎士団の到着を知らせるコールが表示された。


 と同時に、火のついた弓が幾条も打ち上げられて、山間に落下。

 その一帯が火の海になった。


 先行していた「冒険者」たちが後退を開始。

 火にあぶられた「魔物」たちが慌ててこちらに来たところを、一網打尽に殺していった。


 横から襲ってきた残りの「魔物」たちもその様子に次々と山に戻っていく。


 移動車両の上でその光景を見ていたアルクネメの横に飛竜が舞い降りてきた。


(君がブルックスの友達のアルクネメだね)


 突然その青い飛竜が語り掛けてきた。


 見ると、その横にミノルフの姿があった。


「あの状況で、よく体が動いたね。見事だったよ。」


「ミノルフ殿。」


 アルクネメは、ミノルフの言葉に体の緊張が解けてゆくのを感じた。


 山と平原の境に着火された火に国軍の兵士が油をまき、さらに火勢を大きくさせている。


 こちら側に残った「魔物」は、騎馬隊の騎士に次々と息の根を止められていた。


 もう大丈夫、そう思った矢先だった。


 アイ・シートが赤くなる。


(警告!急速に敵3、接近。判明、タイガー級!)


 オービットが悲鳴のように叫ぶ声が、アルクネメの心を揺さぶった。


「ミノルフ殿。タイガー級接近!」


「何!」


 アルクネメはそう言うと、一気に加速して、敵のほうに走り出す。


 炎を飛び越えて、ウルフ級より一回り以上大きい赤い目を持つ化け物が現れた。


 油をまいていた国軍兵士の頭がなくなり、胴体がその炎の中に倒れこむ。

 血の臭いが充満するこの場に、肉の焼ける嫌な臭いが加わった。


 アルクネメはその高速で動く化け物に、まだ距離が届かないことを承知で剣を振りぬく。


 先ほどより強くなった光りが空間を薙ぎ払った。


 光は確実にその化け物、タイガー級を捉えたかのように見えた。


 が、次の瞬間、タイガー級は全身の赤い光だけを残し、空を駆け上がっていく。


 その4本の足元には赤く円盤のような光が体を支えていた。


「「魔導力!」」


 アルクネメとミノルフが同時に叫ぶ。


 ミノルフはすぐさまペガサスの背に跨り、その体の重みを感じたペガサスが一気に舞い上がる。


 空を駆けるタイガー級が、飛竜に乗り下方を監視していた騎士の一人に襲い掛かった。


 騎士の乗る飛竜が、タイガー級に対して体を傾けてよけようとした。

 が、騎士と呼吸が合わずにバランスを崩した。

 落ちそうになった騎士が懸命に態勢を立て直そうとしたところに、タイガー級の前足の巨大な爪が騎士の顔を抉る。

 その衝撃を受けた騎士はそのまま飛竜から真っ逆さまに地に叩きつけられた。


 乗り手を失った飛竜が高い金切り声をあげ、タイガー級のさらなる口撃をよけた。


 タイガー級はそのまま落ちるように着地し、次の獲物に狙いを定め、今度は地上にいたオオネスカに高速で接近した。


 オオネスカのアイ・シートが真っ赤に染まり、オービットの悲鳴がこだまする。


「「「しまった!」」」


 アルクネメが、マリオネットが、アスカが、同時に絶叫した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ