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賢者の哀しみはより深く   作者: 新竹芳
序曲 第2章 「天の恵み」攻防戦 Ⅰ
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第20話 戦場の野営地 Ⅰ チャチャナル・ネルディ・バンス Ⅲ

 ミノルフのアイ・シートが赤くなったのは、アルクネメたちのアイ・シートが赤くなった時刻より数秒遅れた。

 オービットの能力がいかに優れているか示すものだが、検証されることはなかった。


 ミノルフはすぐさま立ち上がり、彼の横で羽を休めていたペガサスに飛び乗る。


 すでに彼が統合司令としてやるべきことを終え、哨戒任務のみが残っている時だった。


 彼の背嚢にはすでに「ハスケル」製特注の剣が三本収まっている。

 ペガサスは数歩の助走で軽やかに飛び上がった。

 ミノルフの部下たちも次々と飛び立ち始める。


「どこだ!」


(ヤワナイト川上流に位置するガンジルク山の麓から川に従って移動中。川べりには移動車を使用した「冒険者」と学生が野営中。現在確認された「魔物」はモンキー級33、ベア級5、ウルフ級10、比較的足の速いタイプです。)


(騎士団、国軍で近いものは?)


(国軍第3中隊が3分の位置にいます。既に移動中。我が騎士団、第7騎馬隊5分で現着予定)


(移動車両を展開させ、「魔物」接近方向に拡散して光を集めろ。ヘッドライト、探索ライトを動かせ。全ての戦闘員をたたき起こせ!)


(すでに現場付近の戦力は行動中。バッシュフォード隊よりアラート発報)


(迂闊に近づかないよう警告しろ‼できれば「冒険者」の補助に回らせて、実戦を学ばせろ!)


(了解。各チームに伝達。メインを「冒険者」、サポート学生。まわせ)


 ペガサスの上から矢継ぎ早に指令を出す。


 ペガサスはこの夜の中でも現場が見えている。

 これは本人の了解を得て、アイ・シートを装着しているためである。


 川辺に学生を配置したことが裏目に出たか。


 ミノルフはそう思った。

 一番守りが薄いところだ。


(国軍と騎士団で囲むようにすべきだったか?)


(考えすぎるな、ミノルフ。戦闘が始まる)


 その時、直接脳内に声が響いた。


【緊急回線。「賢者」サルトルから】


【開け】


【「魔物」が接近中と聞きました。統合司令は野営の配置を後悔していますね】


【そうですが、これから戦いに入ります。無用な通信は】


【無用ではありません。今、心が揺れていては、死にます】


(そうだぞ、ミノルフ)


 ペガサスも同調した。


【「魔物」は「テレム」に反応しますが、「魔導力」の強いものにも反応します】


【ということは】


【「特例魔導士」が多くいる学生が狙われるのは、道理です】


【学生を撒き餌にしたのか】


【そうではありませんが、本番前に戦闘を実感すると格段に強くなります】


【覚えておくよ】


 「賢者」サルトルからの通信が切れた。

 確かに自分に対する後悔は消えた。

 が、「バベルの塔」執政者に対しての怒りが込み上げてくる。


 今からの「魔物」討伐に、「バベルの塔」は援助する気はないようだ。


(ついたぞ、ミノルフ)


(ありがとう、ペガサス)


 ミノルフの眼下には、移動車両が横に並び、ヘッドライトと、移動車両上部につけられているサーチライトが山あいに向かって照らし出している。


 その光の中に赤く光る禍々しい目が何個も確認できた。


ー---------------------


 「冒険者」、学生ともすべて戦闘態勢に入った。


 移動車両が動き出す。全ての車両が山に向けて並ぶ。

 一斉にライトを点灯した。


 その中に数十体の蠢く赤い目を体のところどころにつけた「魔物」たちの姿がさらけ出された。


「「魔物」確認。一番近い群れはモンキー級35、ウルフ級11、その後方にベア級8,タートル級3。ウルフ級高速で接近中。」


 オービットが立て続けに報告する。

 同じ内容がオオネスカチームとデザートストームに通信。

 戦闘司令より正確な数が発信されている。


 現在すべてのチームが移動車両の後方で待機。

 既に「冒険者」がメインでの戦闘が指示されている。


「我々がここに居る数に比べたら、「魔物」の数は取るに足らんが、奴らの目的はより高い「魔導力」だそうだ。つまり狙いはお嬢さんたちだという事を肝に銘じろ!」


 ダダラフィンがアルクネメたちに向かって、そう言った。

 オオネスカをはじめ学生たちが頷く。


「という訳で、とりあえず我々の戦い方をよく見ておけ!オーブはサポート宜しく‼」


 バンスがそう言うが早いか、一気に移動車両を抜け、迫ってくる「魔物」ウルフ級に向かって走り出した。


「速い!」


 アルクネメがその姿に思わず、そう言ってしまった。

 あとに続くダダラフィンがニッと笑って見せた。


 オービットの力を得て、彼らの戦いがすぐ目の前で行われているかのように良く見えた。


 バンスが、ウルフ級と接触。


 一頭が飛ぶようにバンスに襲い掛かるが、既にそこにバンスの姿はなく、真横から腕が下から上に動くと、あっさり「魔物」の首が胴体から落ちた。

 身体の数か所にあった赤い目の輝きが消える。この瞬間が「魔物」の死、である。


 エレファント級を墜とすくらいの剣士であれば、ウルフ級などどうってことはないであろうが、学生たちからすれば、学校内という安全な場所での、「飼われ」ている「魔物」など、ただの実習でしかない。

 今、確実に実戦の場所にいることを思い知らされた。


 バンスはそのまま移動を続け、次々とウルフ級を狩っていく。

 何匹か打ち漏らした「魔物」は、後続のダダラフィンが確実に仕留めていった。


 とりあえず、最後のウルフ級を葬ると、その亡骸を次に迫ってくるモンキー級に投げた。

 するとこちらに向かってきたモンキー級はその亡骸にくらいついてきた。


「本当に「魔物」同士でも喰らうのね。」

 オオネスカが呟いた。

 喰らえるものなんでも喰う。

 講義では聞いていたが実際に見ると吐き気がしてくる。


 バンスはそのままモンキー級に剣を向け、横に振るう。

 一瞬でそこにいたモンキー級の首が飛んだ。

 明らかに剣の長さと切られた「魔物」との距離がおかしい。


「話には聞いていたけど、あれがロングソードね。「魔導力」の強い場合、刃先より先までその効果が及ぶ。やはりバンス殿は一流の剣士だわ。」


オオネスカが憧れの目で、バンスを見つめている。


 モンキー級がいなくなると、またウルフ級が迫ってくる。

 それをかいくぐるようにバンスが走り抜ける。

 もう目では捉えられないほどに、「魔物」を処理していく姿は、ライトの光の中、まさしく伝説を体現するような輝きを放っている。


 その姿に見とれたため、一瞬、周りへの監視を怠った。


 違う方向から、別のウルフ級が走ってきたのだ。


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