お風呂反省会
「はぁ〜〜〜。」
バスタブに体を預けると、今日一日の疲労がお湯に溶けていくような気分だった。どれだけ外が暑くても、お湯に浸かるのは気持ちがいい。
(来週から始まるんだなぁ。)
青とオレンジが混ざり合う幻想的な空。それを背景に、つい目と鼻の先で艶めいていたオニキスの瞳が思い出される。
「はぁ〜〜〜。」
ミツムネがあんなに真剣に依頼を受けているとは、正直思ってもみなかった。あんなに楽しげに接客ごっこをしていたので、単なる暇つぶしか趣味なのだろうと感じていたからだ。
しかし、思いの外ミツムネは真剣に根気強く神社の発展に力を注いでいるのだと、彼の言葉から伝わってきた。
きっと彼は、関わった人間との縁を大切にする性分なんだろう。特に、何十年と親しく交流を重ねた人間には心を開き、飾らない笑顔を見せる。
ミズノ一家やニシヤ一家と談笑する彼が、肩の力が抜けたありのままの姿なんだろう。
ナナミと話すミツムネは応接室での彼と変わらない。彼にとっては初対面も同然なのかもしれない。
子供が悪戯するようにからかってくることはあっても、それはナナミに限った話ではないことも今日でよく分かった。きっと全人類に対して同じことをするんだろう。
それでも、ミツムネはいつも目を合わせて笑ってくれる。そのせいで自分は特別だと錯覚してしまう。
『ナナミさんは特別です。』あの言葉も、“要素”の話だということはよく分かっている。だけど、あの笑顔を向けられると心のどこかで期待してしまう。
(何を期待してるの?)
非日常のドキドキ?未知の世界を知ること?自分は特別だという優越感?
助けてもらったミツムネの力になりたいという思いは本物だ。だけど、それとは別に何か違う感情がある気がする。
まだ、それが何なのか判断出来るほど彼のことをよく知らない。これから知っていけば、自分の気持ちもはっきりするのだろうか。しかし、はっきりさせたくないと頭の隅で叫ぶ自分もいる。
「はぁ〜〜〜。」
ナナミは本日三度めの長いため息をついた。
(送ってもらった時、もっと色々聞けば良かった。でも時間ないって思うと何も出てこなくなって……。だったらどこか寄れば良かったのかな。でも買うものないよ。コンビニでアイス買うとか?いや、それこそ早く帰んなきゃ溶けちゃうよ。)
ダメだ。もうミツムネのことしか考えてない。これはまずい。
もう早く眠ってしまおう。そうすれば何も考えなくてよくなる。夜に考え事なんて良くない。疲労が溜まってまともな思考回路ではないからだ。
「さぁ、上がろう。」
ナナミはバシャっとお湯を顔にかけて思考を強制終了した。




