彼女の名前が分からないかもしれない
「RINEが漢字で登録されていて、読めないんだよね。ちょっと今漢字送る」
「御陵志音?」
「でも、御陵はみささぎとも読むらしいし、志音もゆきねと読んだりもするらしんだ」
「うーん。あれ、でも初めてあったとき、自己紹介はしなかったの?その時に聞いてないの?」
「そのときは、みささぎゆきねと名乗られたんだけれども、彼女の友人がごりょうって呼んでいたり、仲良くなったあとに、本人からシオンと呼んでくださいって言われたり。もぉ、何が何だか」
「……本人にシオンって呼んでって言われているんだから、シオンで良いんじゃない?実際の名前と違ったとしても、あだ名みたいなものと考えて」
妹の言葉に納得する。
確かに、正しい呼び名がどうこうより、本人が望む呼び方で良いだろう。
「そうだね、ありがとう」
「ところでお兄ちゃん、御陵さんってどんな見た目なの?こう、スタイルが良くて、人を音の出る玩具としてしか見ていなさそうな魔王みたいな見た目してない?」
「えぇ、何その例。小柄で、落ち着いた雰囲気の格好をしている子だよ。でも、爪とかも綺麗に整えられているし、バッグとかも質が良さそうだったから、上品なお嬢様って感じ」
「あー、やだやだ。男の人ってそういう子好きだよね。派手派手しい感じじゃなくて、奥ゆかしい大和撫子みたいな子」
わりとギャルな感じの妹の冗談交じりの声。でも、どこか違和感がある。
「変に見た目で具体例を上げていたけれど、知り合いでそんな感じのシオンさんでもいるの?」
「配信者さん。遠くで見る分には良いけれど、あんまり近くには居てほしくないかな。だから、お兄ちゃんもそんなシオンさんに会ったら、すぐに逃げてね。何されるか分かったものじゃないから」
「そんなシオンさんに会うのかどうか分からないけれど、会ったらそうすることにするよ」
「うん。そうしてそうして。お兄ちゃんも生きたまま足の小指から切り刻まれたくないでしょ?」
「……それ、本当に現代の法律のもと生きてる人?」
というか、そんな配信どんなプラットフォームなら流せるんだ。
ペットやメイク、ダンスの動画を見ているイメージだったが、実はそういうスプラッタ系動画を新たに見るようになったんだろうか。
「あんまり現代の倫理には沿ってない人かな」
「法律はギリギリ守ってるってこと?」
「いや、現代日本の法律だと完全アウト」
「だめじゃん」
「だから絶対に気をつけてね。あ、でも御陵さんに絶対告白すること。同じシオンさんでも違うシオンさんみたいだからね」
「りょうかい」
会話が一段落したので、ふと卓上の時計を見ると、もう夜11時だ。だいぶ話し込んでしまっている。
初めての一人暮らしで人寂しいのかもしれない。
「じゃあ、お兄ちゃん。おやすみー」
「おやすみ」
電話が切れたあとの、ツーツーという音が一人の部屋に響く。
大きく伸びをし、ベッドに寝転ぼうとしたとき、彼女に一人暮らしについて聞かれたときのことを思い出した。
「やっぱり、開放感も感じるけれど、寂しさも感じるな」
とはいえ、それは僕が妹と仲が良いからかもしれない。
彼女は一人っ子と言っていたから、そこまで感じないかも。
大学から歩いて何分くらいか、とか、部屋の広さとか、具体的な家賃とかを、結構詳しく聞いてきたから、一人暮らしを真剣に検討しているのかもしれない。
とはいえ、男子大学生の部屋選びと、女子大生の部屋選びでは、セキュリティの重要度がだいぶ違うから、あまり僕の意見は参考にならない気もする。
最近は盗聴器や盗撮器の高機能化、小型化とかしているし、そもそも闇バイトで強盗みたいな、直接的に危害を加える事件もかなり聞く。
まぁ、もちろん僕もセキュリティ対策をちゃんとしなければならないけれど。
そんなことを考えていると、スマホの通知音が鳴った。
"明日、2限終わった後、このカフェに一緒に行きませんか?"
彼女からだった。
快諾する旨のラインを送ったあとに、気づく。
"あれ、これって告白する絶好の機会なんでは"
と。
そう考えると、今から緊張してきた。




