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寝取られて壊れた俺、義妹が可愛すぎるから養うことにした ♦︎♦︎♦︎義妹に癒されながらブラック不動産で働くことになった  作者: 白井 緒望


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第93話 老婆

 「どういうことですか?」

 俺の声は震えていた。


 一瞬の間。

 口の中が、急速に乾いていく。


 すると、老婆は笑った。

 

 「あ、私は1番上の階に住んでるんだけど、新築から住んでるから色々と耳に入ってね。昔話だし、気にしないで」


 老婆はそう言うと、立ち去ろうとした。


 物件に問題がある場合、近隣住人が話したがらないケースは多い。理由は、自分の家にも延焼して売りづらくなるからだ。


 だが、知ってしまった以上。

 このままにはできない。


 「すいません。少し教えてもらえませんか? 葛城。菓子折りをお渡しして」


 「あっ、はい。これどうぞ」

 葛城は紙袋から菓子折りを出すと、両手で持って老婆に渡した。


 リフォームの挨拶まわり用だったが、準備していて良かった。


 「あらまぁ。可愛いお嬢さんだこと。ありがとうね」

 老婆は菓子折りを受け取ると、裏返してシールを見た。


 「それで、どんなお話なんですか?」

 俺は胸ポケットのボールペンを引き抜いた。


 「もう40年近く前のことだからね。私以外に知ってる人はいないと思うんだけど。実はね。建設中に、首吊り自殺があったんだよ」


 「亡くなったのは住人の方ですか?」


 「建設中って言っただろ? 死んだのは作業員」


 「どこの部屋でですか?」


 手汗でボールペンが湿る。


 「バルコニー側の墓地に桜の大木が見えるだろ? あそこだよ。まぁ、完成前のことだからね」


 「ニュースにもなったんですか?」


 「すぐに発見されたみたいだし、ニュースにはなってないよ。知らないまま入居した人も多いんじゃないかな」


 墓地の塀の向こうにある大木か。

 ……敷地外だ。


 俺はボールペンを何回か回した。

 

 「そろそろ宅配が届くんだけど、もう行っていいかい?」

 老婆はそう言うと、菓子折りを手提げに入れた。

  

 「お引き止めして申し訳ありません。これ、私の名刺です。差し支えなければ、お名前と部屋番をお伺いしてもいいですか? ほら、葛城。お菓子をもう一つお渡しして」


 「あっ、そういえば……」

 老婆が何かを言いかける。


 「そういえば?」

 

 「ん? あぁ。なんでもないよ」

 老婆は追加のお菓子を受け取ると、笑顔でそう言った。


 「あっ、これに入れてください」

 葛城が老舗の紙袋を渡すと、老婆は更に上機嫌になって戻って行った。



 「大変なことになっちゃいましたね」

 葛城は紙袋を抱きしめた。


 「そうだな」


 「こう言う場合って、管理人室に行って詳しく聞いた方がいいんですか?」


 俺は顎を撫でた。

 ジョリジョリとした感触。


 40年前。竣工前。

 非住人。敷地外。


 「いや、竣工前の敷地外の出来事だし。とりあえず、今日のところはここまでで良いや」


 知るということは、それだけ告知義務のリスクを負うということだ。不動産では、知りたがり屋さんが得をするとは限らない。


 「心理的瑕疵ですよね?」

 葛城が首を傾げた。


 「今回は当たらないかな。たぶんだけど」


 「基準はあるんですか?」


 「それが、はっきりとしたルールはないんだよ」


 「それじゃ、何も分からないです。教えてください」


 葛城の顔は真剣だった。


 「……いつ起きたか、どこで起きたか、誰が死んだか、どのような状況だったか、周知の事実か。そのあたりから個別判断するしかない」


 「それって、めっちゃ酷くないですか? 『法定速度が決まってないのに、危ない運転はスピード違反で捕まえます』みたいな感じ」

  

 「たしかにそうかもな。だから、ダメだった事例を参考にして推測するしかないんだよ。一般には、敷地外、20年以上経過は、告知義務がないと判断される傾向にある」


 「ふーん。曖昧ですね」

 葛城は不満そうな顔をした。



 駅に向かって歩き出す。


 ツン。

 葛城が袖を引っ張った。


 「それで先輩は、これからあの可愛いチビロリ巨乳の弁護士さんと2人きりで会うんですか?」


 「あぁ、そのつもりだけど」


 「あの人、絶対に欲求不満ですよ。先輩を見る目が潤んでましたもん。先輩、不倫は良くないです。危ないからキャンセルしてください」


 葛城は口を尖らせた。

 その姿が桜藍と被る。


 「俺、独身なんだけどな」


 すると、葛城はブンブンと首を横に振った。


 俺は顎に触れた。


 

 桜藍がいなくてすごく寂しい。

 家に1人でいるのが辛い。

  

 正直、今の俺は桜藍がいなくて不安定だ。


 睦月は結構、可愛い。

 好意をもってくれている。


 快楽に流されれば、この寂しさは楽になる。

 残念なことに俺は経験から、そのことを知っている。


 間違いが起きないとは言い切れない……か。



 「そうか。じゃあ、葛城も来るか?」


 「奢りですか?」

 葛城の口が綻ぶ。


 「あぁ。また焼肉屋だけどな。あ、極上カルビは禁止で」


 「ええーっ。先輩のケチ!」


 「お前なぁ。この前の会計、5万超えしたんだぞ?!」


 「ふふっ。後輩思いの先輩はポイント高いですよ?」


 葛城の足取りは軽かった。

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