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寝取られて壊れた俺、義妹が可愛すぎるから養うことにした ♦︎♦︎♦︎義妹に癒されながらブラック不動産で働くことになった  作者: 白井 緒望


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第65話 幸福

 「楽しいね」

 桜藍が魚を見ながら微笑んだ。


 「あぁ。水族館なんて何年ぶりかな」


 麦わら帽子に白いワンピース。

 桜藍は何を着ても似合うが、今日は格別だ。

 

 「イルカショーあるんです。行ってみませんか?」

 桜藍が階段を指差した。


 「桜藍はここ初めてなのに、俺より詳しいね」


 「楽しみすぎて詳しくなっちゃった」

 桜藍は、照れくさそうに髪をかきあげて、耳に挟んだ。

 


 ザパンッ。

 10メートルくらいの距離でイルカが跳ねている。 


 「こんな前の席が空いててラッキーでしたね」

 桜藍は麦わら帽子を外した。


 「ほんとだよ。時間ギリギリだったのにね」


 「ねっ、イルカとんでるっ! あれ、赤ちゃんイルカですよっ」

 汐風にのって、甘いココナッツのような匂い。


 「いや、あれ種類が違うだけ」


 あれ、右手が温かい。

 視線を落とすと、桜藍の手が重なっていた。



 (え、ここの席、他の席と色が違う)



 「スプラッシュゾーンの方に、カルア君から涼しさをプレゼント〜」

 会場に陽気なアナウンスが響き渡った。



 その直後。


 ザバーンッ!


 波が丸ごと飛んできて、視界が水槽の中みたいになった。


 目が痛いし、鼻の奥も痛い。


 「イルカちゃんに水かけられたぁ」

 桜藍の前髪から水が滴っている。


 真っ白なブラウスが濡れて。

 薄らブラが見えていた。


 後ろには男子高校生のグループ。


 俺はすぐに自分のシャツを桜藍にかけた。

 

 「ありがとうございます」

 桜藍はそう言うと、俯いた。

 ギュッとシャツの襟元を掴んでいる。

 

 「いや」

 単に他の男に、桜藍の肌を見せたくなかった。


 俺は男子高校生のグループを睨んだ。


 ショーが終わってから、イルカのTシャツを買って、桜藍に渡した。


 「スカートは買わなくて大丈夫だった?」


 「もうっ。無駄遣い。春馬さん、わたしに優しすぎです」

 桜藍は嬉しそうに口を尖らすと、器用にワンピースの上を腰に巻いた。


 「否定はしないけど」


 「そういえば、イルカちゃんの名前、カルア君って言うんですね」


 「らしいね。きっと忘れないと思う」


 「わたしもーっ。今日は暑くて良かったです」


 「来年、また来ない? カルアの成長を見届けたい」


 「そうですね。来れる……かな」

 桜藍は麦わら帽子を深く被った。



 水族館を出ると、周りはカップルだらけだった。みんな手を繋いでいる。


 桜藍は少し寂しそうな顔になった。


 「春馬さん、あっちの江ノ島にも行ってみたいです」


 江ノ島では、猫の写真を沢山撮った。


 「春馬さん。美味しそうな匂いがするよ」

 1時間以上並んで、2人で大きなかき揚げ丼を頼んだ。


 「ごめんな。イタリアンとかじゃなくて良かったのか?」


 「このお店。あの冊子に出てて。わたし、ここで食べてみたかったんです」

 そう言いながら、桜藍は顔ほどもあるかき揚げを持ち上げた。


 「でも、さっき『うぷっ』ってなってなかった?」

 

 「ちょっと予想よりも大きくて」


 「じゃあ、俺が半分もらってもいいかな」


 「うん。春馬さんと半分こ」

 

 強がってもらったのに、胃がもたれてしまって2人で商店街歩いた。


 海からは離れているのに、時々、サザエやホタテが売っていて、海の香りがする。


 「ねーねー、春馬さん。あのお煎餅、タコが入ってるんだって!」


 桜藍が商店を指差した。


 店先では、スタッフが鉄板で煎餅をプレスしていた。ぎゅーっと押すと、もくもくと湯気があがって、タコがペシャンコになる。


 「買っちゃった」


 戻ってきた桜藍は両手で煎餅を持った。

 上端をかじっている。


 ふと思った。

 最近、柚子のことを考えていない。


 俺は桜藍をみた。


 パキッ。

 煎餅を割って、渡してくれた。


 「タコさん入ってる方、あげます」


 「だから胸焼けしてるんだって」

 俺はタコをかじった。


 「ねっ。一緒に写真を撮りませんか?」


 「いいけど、桜藍が撮りたがるの珍しいね。自撮りは嫌いって言ってなかったっけ?」


 「いいんです。2人の写真ないし」


 ピンクになりはじめた雲を背景に、2人で写真を撮った。


 2人で同じタコ煎餅をかじってる写真。


 桜藍は写真を確認して、スマホを大事そうにバッグにしまった。



 神社へ続く坂を上っていく。

 そこからはエスカーにのってもっと上へ。


 海の向こうが見渡せる高台につく頃には、あたりは茜色になっていた。


 汐風が強い。

 桜藍は帽子を外した。


 「あの船、どこに行くのかなぁ?」

 俺の人差し指に、桜藍の指先が当たった。


 「どこか海外じゃない?」


 「そっか、海外かぁ」

 

 崖下から風が吹いてきて、桜藍の銀色の髪が舞い上がった。銀色の瞳も真っ白な肌も。


 全部が夕焼けの色だった。

 

 桜藍の顔が近づいてくる。

 海風とミントの香り。


 2人の顔が指先ほどの距離になったとき、桜藍が言った。


 「春馬さん。わたし、今日のこと一生忘れないです」


 「そんな、大袈裟だよ。またいつでもこれるし」


 桜藍は首を横に振った。



 ポーッ。

 遠くの方で船の汽笛。


 雲が何層にもなっていて、折り重なるごとに光を通さなくなる。厚い雲を、灯台の光が貫いた。


 桜藍の口元が微かに動く。

 銀色の瞳が紺色になっていた。



 「あのね。春馬さんに話さないといけないことがあるんだ」


 

 

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