第62話 告白
「これから亜梨沙ちゃんを連れて行きます」
桜藍からのLINE。
三条君に見せると、漫画のように椅子から落ちた。
「ち、ちょっと。いきなり過ぎるっす! まだ『シネ』と言われてから数時間なんですよ? さすがの俺でもキツイっす!」
「まぁまぁ。鉄は熱いうちに打てっていうし」
「いや、そもそも熱されてすらいないんです」
「でも、前はエッチしてたんでしょ? 女の子は好意ない人とはできないと思うけどなぁ〜?」
千晴さんは、そう言うと缶をテーブルに置いた。
缶からつーっと水滴が落ちて、小さな水たまりができた。
「って、それビールじゃないですか」
俺がつっこむと、千晴さんはビールを太陽に翳した。
「そうだけど? 勤務後の一杯は最高だよぉー? 青年っ。あっ、君たちも飲む?」
そう言うと千晴さんは足元のビニール袋に手を突っ込んだ。
覗き込むとビニール袋の口から、チューハイやカルパスが見えている。
「勤務中ですし、飲みません! ってか三条君、そのビール返して。もうすぐ新垣さん来ちゃうよ。同じことを繰り返しても結果は目に見えてるぜ?」
「ど、ど、どうしよう。ってか、大真面目に告白して爆笑されたらマジで凹むんですけれど」
三条君は笑顔だった。
でもテーブルの下では、桜藍のLINEを見てからずっと、指の薄皮を弄っている。
「千晴さん、やっぱ俺も一口もらっていいですか?」
俺は千晴さんの缶ビールをゴクッと飲んだ。
「あーっ!」
んっ?
桜藍の声?
いるわけないし。
「あのさ、三条君。君は勘違いしてると思うけど、亜梨沙あんなに派手なくせして、男慣れしてないし、実はすげー純情だよ?」
「……え? 純情ってどういう……」
三条君の声がかすれる。
時が止まった。
ガサガサッ。
千晴さんは楽しそうにカルパスを袋から出した。
「さて、ここまでの状況で、どうするかね。成年」
「じゃあさ。おれ、亜梨沙に、すげー酷いこと言ってたことになるし、ますます無理でしょ……」
三条君が机に突っ伏した。
「わーった。フラれたら、おねーさんが残念会をしてあげる! これでどうだ!?」
「千晴さん! 俺、どうしたらいいっすか?」
「女の子はねー。覚悟をみたいの。三条君の覚悟。あんたの最大の誠意を見せなさい! あんだーすたん?」
この人、絶対に楽しんでる。
千晴さんがアルコールくさい。
シャリ。
マンションのエントランスから亜梨沙と桜藍が出てきた。
亜梨沙はTシャツにビーチサンダル。
いつにも増して軽装だ。
「……なーんか、楽しそうだね」
俺は黙った。
千晴さんも、そっぽを向いている。
三条君が立ち上がった。
拳を握っている。
ごくり。
全員の注目が集まる。
三条君は、頭をさげて手を伸ばした。
「あのさ。これからマジな話するんだけど」
「ふーん。ま、どうぞ」
亜梨沙の声に棘がある。
「新垣亜梨沙さん。俺、将棋の編入試験に挑戦するから。もし受かったら、俺と結婚を前提にお付き合いしてくださいっ!」
ちょっとまて。
編入試験でプロ棋士になった人って、今まで日本に3人しかいないんじゃなかったっけ。




