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寝取られて壊れた俺、義妹が可愛すぎるから養うことにした ♦︎♦︎♦︎義妹に癒されながらブラック不動産で働くことになった  作者: 白井 緒望


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第54話 否決

 「はい。内見可能です」

 三条君は、揉手で立ち上がった。


 俺は三条君に目配せをして、消臭剤を握りしめる。


 ワンニャンルームに全力ダッシュ。

 

 ガチャ。

 ドアを開けてすぐに匂いを嗅ぐ。


 「やべぇ。なんか生臭い」


 俺は全部の窓が開いていることを確認しつつ、消臭剤をばら撒いた。そして、仕上げに玄関先にある設置型消臭剤を激しく振れば完了だ。


 「はぁはぁ」

 俺は息を整えてながら、エレベーターホールに立った。


 「あっ、エレベーターが動き始めた」

 頭を下げて、内見客の到着を待つ。


 すると、ヒールの音。


 「あっ。春馬っちだー。おっはー」

 亜梨沙が隣室のドアから顔を出した。


 もう朝じゃないし、内見だし、三条君いるし。

 色んな意味で亜梨沙はマズイ。

 

 「ちょっとこれからワンニャンルームで悪臭が発生するから。ドア閉めて!」


 「ちょっと」

 亜梨沙が何か言っていたが、ドアを閉めた。



 チーン。

 エレベーターのドアが開いた。


 俺がお客さんを部屋に案内する。

 すると、三条君が亜梨沙の部屋の前で立ち止まった。


 「三条君、早くきて!」

 俺はドアを開けつつ、三条君に叫んだ。


 男性がワンニャンルームに足を踏み入れる。


 俺は脱がれた靴をみた。

 靴は揃えずにバラバラだし、インソールが擦り切れている。


 (指値さしねがくるかも)


 「へぇ。外は古めだと思ったけれど、中は綺麗なものだねぇ」

 男性は天井を見上げてそう言った。


 とりあえず、匂いの話はされなかった。

 セーフ——。


 俺は胸を撫で下ろした。


 外は古いのにドアを開けると、真っ白な壁に真っ白なフローリング。部屋の奥にはコーディネートされた白い家具。


 このギャップが大きいほど、リノベーションマンションは感度が上がりやすい。



 「へぇ。テーブルとかベッドとかあるんだけど、これ全部ついてるの?」

 男性はテーブルに飾りつけたリンゴを触った。


 「はい。全部ついてます。大変お得な物件です」

 (その正体は、ただのセット販売だがな)


 「部屋ひとつだけど、人が来たらどうするの?」


 「実はここの吊り戸を引き出しますと、区切ることができまして、1LDK、2LDKとしてもご利用いただけます」


 (2つに分けたら、1部屋3畳ですけど)


 「えっ。これ分けられるの?」


 「はい。天井のレールに沿ってここで方向をかえますと……」


 「へぇ。すげーな、これ」


 トントン。

 三条君がクリップファイルを渡してくれた。


 開くと男性のアンケートが入っていた。

 

 43歳、会社員、独身。

 年収1100万。


 (42歳なら35年ローンもいけそうだ)


 俺は心の中でガッツポーズをした。


 男性は声のトーンを下げた。

 「でもなぁ、この立地で3,980万円でしょー? 通勤時間がなぁ。同じ値段で23区に住めるんじゃない?」


 「え?」

 何を言ってるんだこの人は。そんなの分かって内見してるんでしょ?


 すると、男性は三条君の方に向いた。


 「ねっ、そこのイケメン君もそう思うでしょ? 君なら、多少狭くても会社の近くがいいよね?」


 三条君は揉み手で答えた。


 「お客様は、土地に住むんですか? 家に住むんですか? ほとんどの人にとって、人生で1番長く過ごすのは自宅です。わたしなら、近くて狭い家より、広くて快適な家がいいですね。絶対に。あくまで、私ならですけれど」


 すると、男性は手を顎の下で何往復かさせた。



 ガシャーン。

 天井の上で何かが割れる音。


 「ねぇ、何の音?」


 「上の住人の方が何か落としたんだと思います」

 

 「大丈夫? やべぇヤツが住んでるんじゃないの?」

 男性は目を細めた。


 上に住んでるのは、高齢の女性だ。



 すると、三条君が俺の前に出た。


 「上の階は、お綺麗な女性ですよ。左隣は女子大生。そして、なんと右隣は……」


 右隣は亜梨沙の家だ。


 「右隣は?」

 男性は小声になった。


 「なんと右隣は準ミスになったことがある女の子ですっ!」


 えっ。亜梨沙っで準ミスなの!?

 確かに美人ではあるけれど。

 

 「まじ? この家の立地、最強じゃん!」

 男性は声をあげた。


 「そうなんす! ここの立地、最強っす!」

 三条君と男性はハイタッチをした。


 「で、買うっすか?」

 フランクすぎる三条君。

 

 「いや、むしろ。買わせてください!」

 男性は満面の笑みだった。


 まずはローンの事前審査の申し込みをすることになった。その様子を、三条君と少し離れたところから見守る。


 「三条君のトークすごいね」


 「あっ、言ってなかったっすけど、俺の前職、仲介っす」


 「まじか。頼もしすぎる。そういえば、お隣さんって、準ミスなの?」


 「そうっすよ? たしか、ミス大福餅だったかな」


 「大福? じゃあ、上の人は? お婆さんだけど……」


 

 「不動産屋さんー。ここ、どう書くの?」

 男性に呼ばれた。


 「えっと、ここは自己資金ですね」

  

 (独身でこの年なら400〜500万ってとこか?)


 男性は締まりのない声を出した。

 「えっ、ないけど」


 すると、三条君もこっちに来た。

 「お客様。借金とかってないっすよね?」



 ミーンミン。

 しばらくすると、蝉の鳴き声が輪唱になった。


 男性はいった。

 「な、ないに決まってるでしょー」


 「はぁ」

 俺と三条君は、大きく息を吐いた。



 ……申込書と必要書類の写真を添付して、銀行の担当者に送信っと。俺はPCを閉じた。



 「では、半日ほどで結果が出ると思いますので。問題がなければ、明日の午後にでも、本契約ということで宜しいですか?」


 「へえ。そんなに早く結果が出るんだ。すごいねー! わかりました。じゃあ、明日は有給とりますよ」


 男性は軽い足取りで帰っていった。


 「もう決まったようなもんっす! 帰りましょうよ。購入申込書も貰えたし、早退させてもらえるかもっす! 久しぶりにキャバ行っちゃいますか?」

 三条君は、人差し指と親指で輪っかを作った。


 「いかないよ! ってか、一緒に行ったことないでしょ」


 「バレたっす。ハハハハッ」


 俺と三条君は現地販売セットを車に詰め込んで、会社に戻った。


 再販部に出す書類があったので、三条君と話していると、池田課長が話しかけてきた。


 「山路くん。調子はどう? 再販部にはなれた?」


 「なんとかですね」


 三条君が手を上げた。

 「今日、山路さんの物件が売れたっすよ! 外車に乗ってるリーマンさんで、車も現金購入らしいっす」

 

 「ちょっと、アンケート見せて」

 課長はアンケートを読みながら、ため息をついた。


 課長の声が低い。

 「なぁ、こいつ。なんでこんな高い賃貸に住んでんだ? どこも余裕じゃねーだろ。……普通にローン落ちるぞ」


 「えっ、なんでですか? 年収だって十分ですよ?」


 「それはな」


 

 俺のスマホにメールが届いた。

 担当者からだ。


 ぎろり。

 部長が俺を睨んだ。


 

 メールを開く。

 すると、そこには『否決』の2文字。


 他にも色々書いてあったが、なにも覚えていない。

 

 


 

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