悲しい誕生日なんだが
沈黙を破ったのは如月のお父さんだった
「はぁ…美里さんがいたら、こんなふうにはならなかったのかもなぁ」
と言った
「美里さん?」
「あぁ、美琴の母親。あれ?美琴から聞いてない?」
そういえばさっき如月のお母さんの話を聞こうとしてたんだった
「い、いや…聞いてないです。」
「そうか…たしかに母親のこと言えないかもなぁ」
なんとなく雰囲気でわかった
如月美琴の母親になにかあったのだと
さっき何の気なしに聞いた自分に怒りがわく
それでも如月のお父さんは話し始めた
「あれは美琴が6歳のときだったかな…ちょっと買い物に行くと言って出て行った美里さんは……グスッ…あれ、ごめんね…私もまだあの時のことを思い出すと…」
そう言って泣きだした
「あ、いや、大丈夫です。もうその話はしなくて大丈夫です」
「ごめんね…ありがとう…柊くんはとても優しい人だ。私もメソメソしてられないな、美琴が戻ってくるから、このことは私と柊くんだけ内緒話にしておこう」
「…はい」
そうは言ったもののすごく重い…
気分が沈んでいると如月美琴が戻ってきた
お茶を3人分もってきて、俺に渡して
次に如月のお父さんに渡すときに
「お父さん…ごめん。でもあたしはやっぱりこの能力で救える人を救いたい」
と言った
「うん…。でもねお父さんはすごく心配だってこと忘れないでほしい。柊くんもとても良い子だってのはわかったけど、みんながみんな良い人じゃないんだから」
「うん。それはわかってるわ」
いい親子だ
やばい泣けてくる
「よし、この話は一旦終わりにしよう。そう言えばさっき柊くんの能力の名前をつけようとか言ってたね」
「ええ、そうよ。だって必殺技は名前を叫びながら使った方がカッコいいでしょ?」
「あぁもちろんそうだね。美琴の言う通りだ」
「でしょ!?」
「お父さんもいい名前思いついたんだけど提案していいかな?」
「あたしのが1番だと思うけど言ってみて」
「ファイナル・ビックベンってどうかな」
くっ、親子揃ってダサいけど
俺にはこの親子を否定することはできない
「うーん、悪くないわ。ビックバンに掛かってるのね!アンタはどう?」
俺はもうなんでもいい。ここの親子に従う
そう思いコクコクと頷いた
「じゃあファイナル・ビッグベンに決定ね!あんた今度から能力使う時必ず言いなさいよ。ちょっとはカッコよく見えるから」
俺は泣きそうになりながら頷いた
「よし!名前も決まったことだし、お父さんの誕生日を祝うわよ!」
如月美琴はとても楽しそうにそう言った
「柊くんどうした?私の誕生日を祝ってくれるならもっと楽しそうに祝ってほしいなぁ」
そう言ったお父さんは俺にウインクして何かを伝えようとしていた
そうだよな…せっかく如月のお父さんの誕生日なんだ
俺が悲しそうにしてたらこの親子に失礼だよな
「如月!!」
「な、なによ!ビックリしたわね」
「俺、ハッピーバースデー歌うわ!」
「ど、どうしたのよ…急に。怖いわね」
「ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデートゥーユー!ハッピバースデーディアお父さーん」
「君にお父さんとは呼ばれたくないねぇ」
「ハッピバースデートゥーユー!!!」
「うるさっ、てかケーキあるんだから普通その時じゃない?あんたのテンションおかしいわよ」
「如月!ほらプレゼントあるだろ!」
「わかってるわよ!ほんとにあんたどうした?」
そう言ってプレゼントをお父さんに渡した
「えぇ!?うわぁ、なにこれ!ねぇねぇ開けていい?」
「もちろんよ!すごくカワイイの!きっと気にいるわ」
「わぁお父さん楽しみ!」
そう言ってラッピングをきれいに取っていく
「お、おー…えー、わー…か、カワイイー…」
グッ…やっぱり微妙やんけ(泣)
「あたしも自分用にラリうさちゃんのキーホルダー買ったんだー」
そう言って2個キーホルダーを取り出して如月のお父さんに見せた
あれ?2個買ってたのか
「一個はあたしので、もう一個はママの」
え?ママの?
あ、あー、仏壇とかに飾るのか
さすがだ如月
「ママ来月だったよね?帰ってくるの」
ん?んー?
来月帰ってくる?お盆か?そういうことか?
「台湾のお土産楽しみだねー」
「ちょ、ちょっとまって如月…如月のお母さんって今どこにいるの?」
「ママ?あぁさっきその話の途中だったわね。ママは仕事で今台湾よ」
「えーと、元気でいらっしゃる?」
「昨日電話したけど元気そうだったわ。って、なんでママのこと気にしてんのよ!」
俺はゆっくり如月美琴のお父さんを見た
「私は何も言ってないよー。買い物に行ったのに財布忘れて戻ってきたって言おうとしただけだよー。勝手に勘違いしないでよプンプン」
このクソジジイ…
「ファイナル・ビッグベン!!」
「ぐあぁぁぁぁぁ!!」
「ちょ、ちょっとなにしてんのよ!!」
こうしてとんでもない如月お父さんの誕生日は終わった




