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91 ドランザーク帝国攻防戦 3

そして──誰もが息を呑んで見守っていた、あの頑丈で黄金色に鈍く輝く扉が、

次の瞬間、耳をつんざく爆音とともに、まるで誇りを砕かれるかのように四散した。


爆炎の中から──ゆらめく炎を背に、二つの影がゆっくりと歩みを進めてくるのが見えた。

そのうちの一人は、妖艶な雰囲気をまといながらも威厳すら感じさせる、下半身が蛇の姿をした女性だった。


透き通るような肌に、淡い桃色の羽衣のような薄布をまとっていたが、肌は一切露出していなかった。

下半身は蛇でありながら、滑らかで均整の取れた美しさを保ち、見る者の視線を自然と引き寄せる魅力を放っていた。

その姿には、妖艶さと清楚さが絶妙に交差し、一つの調和を成していた。


緊張が頂点に達した場にあっても、そこに居合わせた者たちの多くは──

爆炎の向こうから現れたその異形の美に、抗いようもなく心を奪われていた。


そして──

皇帝ザガルノスもまた、その姿に目を奪われた一人だった。

唇の端には、威厳を忘れたような、抑えきれない好色の笑みが浮かんでいた。


その隣にいたのは──ごく普通の少年だった。誰も、その存在に目を留めようとはしなかった。


輝くような金髪と漆黒の髪が混じり合い、遠目にはくすんだ茶色に見える短髪だった。

幼い顔立ちに特別な装備は見当たらず、濃灰色のシャツに紺色の革の長ズボンという装い。

どこにでもいそうな、幼い従者にしか見えなかった。


玉座の間には重苦しい空気がただよい、周囲の者たちは、インフィたちを見つめる事しかできなかった。

声もだせなかった。


インフィはそんな視線を意にも介さず、優しくフィディアに声をかけた。


「フィディア、ありがとう。あとは僕がやるよ。」


穏やかな少年の声が玉座の間に響き渡った。


「僕がインフィだ。ザガルノスに話があって来た。君に会わせたい人がいる」


すると──

精神統一の姿勢を崩さぬまま、ヨパラがインフィの隣に現れた。

その気配に、ほんのわずかに空気が揺れる。

ヨパラはゆっくりと立ち上がり、インフィへと向き直ると、実直な言葉で言った。


「インフィ、ありがとう。ここからは俺がケリをつける。」


青灰色の髪に、琥珀の瞳。

全身は鈍い鉄のような革鎧に包まれ、手には淡く光を帯びた剣と、漆黒の丸盾を構えていた。


対するザガルノスは、玉座に深く腰を掛けていた。

その身には帝国の秘宝──黄金の鎧が輝きを放ち、玉座の横には虹色に光る剣と巨大な盾が置かれていた。


ヨパラは、その場の空気を裂くように、鋭く強い意志を乗せて言った。


「ザガルノス。俺はお前に用があって来た」


「悪いが──俺と勝負してくれ」


「俺に勝てたら、お前はそのまま玉座に座ってろ」


その言葉に、ザガルノスの肩がわずかに震えた。

だが、威厳を失うまいと虚勢を張り、叫び返す。


「貴様ごときが、俺に勝てるとでも? 笑わせるな。俺は皇帝ザガルノスだぞ!」


「貴様のような下賤の者に──!」


ザガルノスが言い切る前に、ヨパラの姿はすでに掻き消えていた。


その刹那──ザガルノスの首筋に、鋭く滑るような剣の一閃。

だが、甲高い金属音を響かせ、その刃は弾き返された。

ヨパラの姿は、いつの間にか元いた場所に戻っている。


ヨパラは語気を強め、挑発するように言い放った。


「ごたくはいい、かかってこい!」


ザガルノスの胸を支配していた恐怖は、その言葉にかき消され、怒りへと転じた。


「貴様あぁあッ!!」


大盾を手にし、怒気をまとって体ごと突進する。

その突撃は、凶器そのものだった。


ヨパラは丸盾で受け止めるも、凄まじい衝撃に吹き飛ばされ──壁に叩きつけられる。

壁がめり込み、石片が崩れ落ちる。


その姿を見て、ザガルノスは笑みを浮かべた──だが、ヨパラの姿はすでにそこにはなかった。


次の瞬間、ザガルノスの胴に、鋭い衝撃とともに硬質な金属音が鳴り響く。


「……チッ!」とヨパラの顔がゆがむ。


咄嗟に身を引いたザガルノスは、続く一撃を構えた大盾で受け止めた。

ヨパラは間を置かず、剣を連ねるように振るった。だが、そのすべてが大盾に阻まれる。


「くっ──!」と、ヨパラに焦りの色が見えた。


それでも、ヨパラの動きは止まらなかった。

その瞳には、恐れではなく──決意の光が宿っていた。


反撃の大盾が幾度も唸りを上げ、ヨパラの体を容赦なく吹き飛ばしていた。

その身体は壁へと弾き飛ばされ、激しく叩きつけられ、石片が崩れ落ちる中、何度も壁に深くめり込んでいった。


やがて、諦めたかのように肩を落とし、ヨパラは距離を取ってつぶやいた。


「ヨパラとして勝ちたかったが……まだ無理か」


その瞳が、琥珀色に強く輝いた。


ザガルノスは、驚いたように声を上げかけた。


「お前……」


だが、その声も──降り注ぐ氷の矢にかき消された。


ザガルノスは大盾を掲げるも、矢の圧力に抗いきれず、足元の床にひび割れが走り、盾ごと後ろに押しやられていく。

床には、蜘蛛の巣のような亀裂がじわじわと広がっていた。


「まったく、堅い盾だな」

ヨパラは、淡々とそう呟いた。


次いで、真上から氷の弾丸が容赦なく降り注ぐ。

重く、硬質な氷弾は標的を穿たんとする狙いで、正確にザガルノスを捉えた。


ザガルノスは咄嗟に盾を振りかざし、必死に防御を続ける。

だが一発一発の重みが蓄積されるごとに、その巨体は床を削りながら、地に沈むように押し下げられていった。


盾に亀裂が走り──ガラスが砕けるような、乾いた音を響かせて、その瞬間、盾は粉々に砕け散った。


ザガルノスは、声を発することもできぬまま、その場に崩れ落ちていた。


その周りにミストの霧が立ちこめると、ザガルノスの体は無理やり直立不動の姿勢に変わった。


黄金の鎧がミストの霧に浸食され、次第に光を失い、さびた鉄のような色に変わっていき、徐々に崩れ落ちて下着姿が現れた。


やがてザガルノスは、直立不動のまま下着姿となり、水の鎖に縛られていた。

口元も水で封じられ、声を発することもできなかった。


皇帝ザガルノスとしては、屈辱この上ない姿であり、威厳ある声で言い返すことも叶わなかった。


側近たちは、あまりの力の差に声も出せず、ただ呆然と立ち尽くしていた。


ヨパラは──最初にザガルノスと目を合わせた、その瞬間に悟っていた。

「こいつは、弱い」と。


心が、脆いのだ。

ずっと恐れに縛られ、怯え続けてきたのだ。


その恐怖を隠すために、幾重もの防壁を築き、金色の鎧で威厳を装っていた。

まるで──不安を押し殺すための殻のように。


そして、震える体を抱えながら、この城に閉じこもっていたのだ。

……哀れなやつだ。


──そして、俺の親父は、強すぎた。

ザガルノスは、ずっと……親父に怯えていたのだ。


ヨパラは、気持ちを切り替えるように、ゆっくりと顔を上げて天を仰いだ。

そして、空の彼方へ思いを届けるように──心の中で、言葉を紡いだ。


「親父……俺は、仇を取ったぞ」

「親父の国は……継げないけど、許してくれ」

「母ちゃん……迷惑かけたな」

「親父と、そっちで楽しくやっててくれよ……」

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