89 ドランザーク帝国攻防戦 1
インフィたちは、一匹のドラゴンの背に立ち、王宮をはるか上空から見下ろしていた。
その場に、シャリーネの姿はなかった。
天空の者たちの一人である彼女は、人類のために地上へと遣わされた存在である──どれほど悪逆非道な者であっても、それを自ら罰することはできない。
「人々が苦しむ姿を見るのは、耐えられません」と、彼女はこの場に赴くことを静かに拒んだ。
ただ、それでも「インフィ様のご判断に従います」とだけは、穏やかに返していた。
インフィは、彼女にも別の重要な任務を託していた。
この巨大な、漆黒で禍々しいドラゴンは、フィディアが作ったものだった。
「インフィちゃんが乗るなら、やっぱりドラゴンじゃなきゃね」と言いながら、フィディアは鬼気歓喜とも言える様子で、指先ひとつでその異形を創り出してしまった。
ただし、飛行能力こそ備えているものの、攻撃力も防御力も、ほとんど備わってはいなかった。
見た目だけが、かつて魔王が愛用していたドラゴンに酷似しており、その異様な姿が空を舞うだけでも、見る者に強烈な印象を与えた。
人間の攻撃など到底届かぬほどの──遥か上空を飛行している、それだけで十分に脅威と呼べる存在だった。
早朝から飛来していたため、この巨大なドラゴンは地上からでも肉眼で視認できた。
さらに、仙鏡という魔道具や千里眼の魔法を用いれば、インフィたちの姿を確認することも可能だった。
帝国ドランザークの王都では、警報が鳴り響き、防御システムの構築が急ピッチで進められていた。
その帝国が財を尽くして築き上げた玉座の間には、多くの要人たちが集まり、緊急の協議が始まっていた。
玉座には、皇帝ザガルノスが悠然と座していた。
年齢は五十を超えているはずだが、まだその威容は衰えていない。
彼もまた、かつては「英雄」と称えられた魔法使いの一人である。
敵が多すぎるという理由から、長年王宮から外へ出ることはなく、レイヴァンですら、彼の正確なレベルを知らなかった。
ザガルノスは、玉座から威厳ある声を放った。
「ドラゴン一匹ごときで、貴様らは何を騒ぎ立てているのだ」
総司令官が即座に応じる。
「確かに数は一匹にすぎませんが、あのドラゴンは遥か上空を飛行しており、我々の攻撃は一切届かない位置におります」
「そのようなドラゴンは、かつて存在したのか?」
「申し訳ありません。ドラゴンは、百年前の魔王討伐を境に、人の領地には姿を見せなくなりました。
残されている記録も、曖昧なものばかりでございます」
「記録に残っているドラゴンの強さは、どの程度だ?」
「はい。かつては非常に強力な存在だったとされております。
しかしこの百年間、我々もあらゆる対抗手段を整えてまいりましたので、現状ではそれほどの脅威とは見ておりません」
ザガルノスが顎をわずかに上げる。
「仙鏡で映像を投影せよ」
王家の秘蔵とされる魔道具──
障害物さえなければ、数百キロ先まで詳細に映し出すことができる装置だった。
その仙鏡に映し出された光景を目にした瞬間、玉座の間にいた者たちは、誰もが呆気にとられ、言葉を失った。
玉座にいたザガルノスでさえ、思わず笑い出すほどだった。
だが、謁見の場に立っていた総司令官は、むしろ顔色を険しくしていた。
仙鏡に映し出されたのは、小さなテーブルを囲む者たちの姿だった。
ドラキュラのような顔立ちの男が一人、女性が一人、少年が一人。彼らはのどかに談笑しているように見えた。
そして、もう一人の男──年配の者は、震える足で、遥か下方の王宮を見下ろしていた。
仙鏡では映像しか見えず、音声は伝わらない。
だが、誰の口が動いているかは、はっきりとわかった。
ザガルノスは笑みを浮かべたまま、総司令官に問いかける。
「この者たちは、一体何者だ?」
「情報を調べさせましたが、正体は不明です。
しかし、あの高度を飛ぶドラゴンに乗り、これほどの余裕を見せる者たち……決して侮ってはならぬ存在かと存じます」
ザガルノスはあくまで軽く、肩をすくめるように応じた。
「そうか。ドラゴン一匹では、さほど大したことはないのだろう。私は部屋に戻る」
そう言った、その瞬間だった。
玉座の間の空気が一変する。
何の前触れもなく、少年の声が響き渡った。
それは王宮内だけでなく、王都全域にまで届いていた。
仙鏡の映像には、座ったままの少年──インフィが、確かに口を動かしていた。
その声は、大きくはなかった。淡々と、抑揚の少ない、普通の話し方だった。
「帝国の者たち。僕の名はインフィ。
帝国は人類にとって不要なものだと、僕は判断した。
敵対する者はすべて殺す。
敵対しない者には、害を与えることはない。
僕はどちらでも構わない。君たちで自由に決めてくれ。
僕が攻撃するのは、王宮だけだ。
一刻後に、僕たちは王宮に向かう」
「僕の言葉が、すぐに受け入れられないこともわかっている。
僕から先に攻撃はしない。全力で僕を倒しに来てくれて構わない。」
帝国ドランザークは、怒りに震えていた。
「この私に指図するとは……神であろうと、許さぬ」
だが、激情を内に抑え、皇帝は冷静に命令を下す。
「敵は、強力な魔法使いの可能性がある。
直ちに、すべての魔法防御システムを起動せよ。
冒険者協会に通達し、すべての高レベル冒険者を王宮外に集め、待機させろ。
王宮内には、決して侵入させるな。
玉座の間には、宮廷魔法士団を……密かに配置しておけ。
我に逆らう愚かさを、見せつけてやれ。だが、決して殺すな。
最後のとどめは、この私が刺す」
そう言い残すと、ザガルノスはゆるやかに立ち上がり、
「もはや用は済んだ」とばかりに、その背を玉座の奥へと消していった。
おもしろいと感じた方は、「亀の甲より年の功」をクリックして、他の作品もぜひご覧ください。まったく異なるジャンルの物語を、生成AIを駆使して書いています。




