62 塩梅(あんばい、さじかげん)
「え、やるの? 俺たち、レベル13だよ? 5人でも怪我するって!」
「お前ら相変わらずだな。その馬鹿丸出しの話し方、そろそろ卒業しろよ。このまま何もしないのもつまらないだろ? ちょっとしたゲームでもしないか」
「お互い3人ずつで、一時間でどちらが多くの魔物を狩れるか競うだけだ。まあ、負けたくないならやめておけ」
「俺たちが、酔っ払いとガキと雨合羽に負ける? ありえない。やってやるよ。負けたら土下座な」
開始の合図とともに、全員が一斉に走り出し、魔物の討伐を始めた。
インフィは、魔物を倒すと同時に走り出し、何もない空間に右手の中剣を突き出す。そこに魔物が現れ、すでに目が抉られていた。苦痛で顔を上げたその喉元に、左手の短剣が迷いなく吸い込まれる。しかしインフィの力では一撃で仕留められないため、フェイントを交えて幾度も喉を突き、ようやく魔物は光の粒となり消えた。
インフィはリポップ地点を予測し、経験値を得るために一秒も惜しんで動いている。予測が外れて時間ロスすると、顔をしかめて舌打ちする。その姿は、どう見ても変態である。
若者たちもレベル13。魔物はレベル12。力任せで倒せる相手だが、オサコボラーの深い毛に阻まれ、一撃では仕留めきれない。それでも、インフィよりは速く討伐している。
雨合羽は当たれば一撃だが、なかなか当たらず、「カカカ」「カカカ(いいえ)」と叫びながら手足を振り回している。
ヨパラは周囲を確認しながら、両者の討伐数を気にしつつ狩っていた。感覚も戻り、この程度の魔物なら遅れを取ることはなかった。
見学している二人が、討伐数をカウントしている。
若者チーム インフィチーム
20 10
50 30
70 45
80 70
85 85
90 93
終了。
ヨパラには、こうなることが分かっていた。インフィはもちろん、雨合羽も疲れない。インフィほどの異常な持久力ではないが、人間と比べれば10倍以上は動き続けられる。
若者たちは息を切らし、悔しそうにしていた。もう少し体力があれば勝てた、と嘆いている。
「それにしても、あの二人はどうなってるんだ? なんであんなに平気なんだよ」
インフィの顔が青ざめると、突然肩を大きく揺らし、ぜえぜえと苦しげに息をし始めた。
「黙ってたけど、実はあの雨合羽は使役獣なんだ」
「え、マジ? すげー! 初めて見た。どんな使役獣なの? 見てもいい?」
ヨパラがうなずくと、インフィがわざとらしく苦しそうな声で命令を出す。
雨合羽を脱ぎ、サングラスと顔布を外す。
そこに現れたのは、骨だけの骸骨だった。おぞましい顔。下顎から伸びた長い鬼牙が恐怖をかき立てる。太くたくましい肋骨、すらりと伸びた手足の骨は合金のように白く美しい。
明黄色の長靴と蛇柄の白い手袋をつけたままのその姿は、まるで前衛美術のようなシュールな印象を与えた。
「うわー、魔物!? ……じゃないのか? 大丈夫かあれ? すげー。これが使役獣か。ダサいけど、めちゃくちゃ強そう。いいなー、俺も欲しい!」
若者たちの口はぽかんと開き、目を見開いて驚いている。もし首輪の効果がなければ、間違いなく剣を抜かれていた。
骸骨はうつむき、大きな石を蹴っていた。「ダサい」という一言で落ち込んでいるらしい。見た目に反して、繊細で傷つきやすい心の持ち主なのかもしれない。
「魔塔で見かけても、狩るなよ。頼むぞ」
「なんか、ヨパラさんも余裕で狩ってましたね。それにしても、インフィ君の動きは次元が違う……神気というか、狂気というか」
若者たちの口調も、ヨパラたちを認めるようなものに変わっていた。
その後、インフィがオサコボラーの効率的な狩り方を熱く語りながら教えていた。その論理的で疲労の少ない狩り方と、熱意ある口調に、皆の目が……やめておこう。
そう、人は語り合えば分かり合える。同じことを共有すれば、仲良くなれるものだ。相手の行動の真意を理解するには、その立場になって考え、己の思いもきちんと伝えることが重要である。
また、ヨパラはあえて勝ちすぎないように討伐数を調整していた。圧倒的な差を見せつけるならともかく、中途半端な勝ちは恨みを買うこともある。何事も塩梅が大切だ。何かを始めるときは、その塩梅を最初に見極めるべきである。
そう、若人よ。自分の表現力を磨き、それをどう見せるかという塩梅を考えられれば、この摩訶不思議な世界を生き抜く力となる……たぶん。




