59 雨合羽
ヨパラとインフィと雨合羽姿の骸骨は、ギルドに連行されていた。
「お手、お座り、チンチン、そこで回って、ワン」
インフィが職員の指示通りに命令を出すと、雨合羽は「ケケケ(はい)」と笑いながら素直に従った。小さな少年が悍ましい骸骨に向かって「そこで回って、ワン」と命じると、骸骨はドタドタとその場で回転し、満足そうにインフィを見上げて笑った。そのあまりに楽し気な様子に、取り囲んでいた警備兵や職員たちの顔も綻び始めた。
「では、最後に。私を、殴れと命令してください」
インフィは困ったような顔をしながらも、仕方なく命じた。
その瞬間、骸骨の顔が憎悪に染まり、青白く光る目が怒りを宿した。手を振り上げるその姿に、周囲の警備兵たちが剣に手をかけ、場の空気が張り詰めた。
しかし骸骨は首をかしげ、ゆっくりと手を下ろした。そして、悍ましい顔のまま「カカカ(いいえ)」と笑いながら、インフィの傍にぴたりと控える。どうやらこの骸骨、インフィに敵意のない相手には、戦意を向けないらしい。
余談だが、ヨパラが同じ命令をすると、骸骨は激しい怒りの表情で顔を近づけ、「カカカ(いいえ)」と不機嫌に笑う。まるで「お前が俺に命令するな」と言わんばかりだ。
「大丈夫そうですね。合格です。使役獣として認定します」
「あ、そうでした。こいつ、インフィが使役してます」
「ヨパラさん、分かってたなら先に登録に来てください」
「すみません、忘れてました」
ここで改めて補足しておくが、インフィにはひとつ特別な力がある。自分よりレベルの低い魔物であれば、その存在や性質、弱点までもが自然と頭に入ってくるのだ。さらに、格上の魔物であっても、戦ったり会話を重ねたりするうちに、少しずつ全容が掴めていく。骸骨と向き合っているうちに、インフィはいつの間にか、彼の心が、ほんの少しだけ分かるようになっていた。
「インフィ君。使役獣の認定については、こちらの説明不足ですので今回は不問とします。次回からは必ず認定に来てください」
「使役獣は通常、中級以上でないと使役できません。見習いが扱うのは、私の知る限りでも初めてです。過去には何例かあったようですが」
「私も専門ではありませんが、こんな使役獣は初めて見ました。普通は獣型か妖精型で、どう見てもこれは……魔物にしか見えませんね」
「こちらが使役獣用の首輪です。必ず着けてください。周囲の人々に無害だと認識させ、子どもでも恐怖を感じなくなる効果があります。付けていない場合、討伐対象になる可能性もあります」
「ただ、街中をこのまま歩かせるのは問題ですね。服で隠してください。魔塔の中でも狩られないよう注意が必要です。首輪の効果は高いですが、この……使役獣にはやや不安がありますので」
警備兵たちは安堵の表情を浮かべながら去り、職員たちから細かな注意や書類の記入を求められたインフィとヨパラは、魔物退治以上に疲れ切った顔をしていた。隣では、時折「ケケケ(はい)」という笑い声が聞こえる。ちなみに、ヨパラの字は意外にも綺麗だった。見た目に反して、それなりの教育を受けていたのかもしれない。
いつもの宿に着いたインフィたちは、宿の親父に雨合羽の正体を正直に話した。最初は露骨に嫌な顔をされたが、ギルド職員から渡された「ギルド認定宿泊施設の取り消し要綱」と「使役獣証明書」を見せると、しぶしぶながらも宿泊を許可してくれた。――あの職員、プロフェショナルである。
とはいえ、三人目の仲間が魔物とは……。少年が目立たないように仲間を探していた目的は、いったいどこへ行ってしまったのか。だが、冒険者とは奇人変人の集まり。気にしているのはインフィだけなのかもしれない。
新月の夜。星々が夜空にまばゆく輝く中、その遥か下の三畳の部屋では、雨合羽が体育座りで隅に佇み、ヨパラは足を折って窮屈そうにいびきをかき、わずかな隙間にインフィが大の字になって眠っていた。




