53 これからどうする
大通りから、何本も奥に入った裏道に今にも崩れそうな古ぼけた家が建っている。その閑散とした通りに、屈強な男達がぽつぽつと歩いており、そして、その古ぼけた家に出入りしていた。店の前には、盾に剣が重なった看板が揺れている。
そして、一人のおっさんと一人の少年も、その古ぼけた家の暖簾を開ける。
「よう、珍しいな、また、質入れか……。あれ、さっぱりとして、小奇麗だな」
店のおやじがヨパラを見ると、大声で話しかけてきた。ヨパラとは顔見知りの様である。
「いや、今日は、研磨と、盾を買おうと思い」
ヨパラがバツの悪そうな顔で頭を掻いている。
「え、何だ、あしたは嵐か。あれ、お前、子供いたのか」
「俺の子じゃないぞ。こいつは俺の新しい仲間だ」
「おい、お前、人買いに手を染めたのか。それだけは、ダメだぞ」
「この、親父、仲間だと言ってるだろう。耄碌して耳が遠くなったのか」
「おお、そうか、薬草採取を始めるのか。まあ、今のお前に、一番だな。ガハハ」
「研磨と、盾を買いに来たと言っただろう。ついに、ボケたか。もうろくじじい」
話が終わりそうにないので端折ろう。
ここは、ヨパラが見習い冒険者だった頃から使っている武器屋であった。レベルが下がり、再びこの街に舞い戻り、武具を売って食べ繋いでいた。そう、中級冒険者時代に数多く揃えた武器は全て売ってしまい、今は、錆びた長剣と、煤けた防具と雨合羽と麻の簡素な服しか残っていない。
親父が長剣を研磨している間に、丸盾を見繕い、合わせて中金貨一枚を支払う。もっと安いのを考えていたヨパラであったが、インフィに勧められた盾が気に入り、これだけあれば安酒が何杯飲めるかと頭をかすめるのを振り払う様に、手を震わせながら支払っている。店の親父は、少しは見る目が養われたかとヨパラを珍しく褒めていた。
他にも揃えたい物はあるのだが、先立つものがない。まあ、若い頃は、一つずつ揃えて行くのが楽しみであり、それは、頑張ればいいだけである。
他にも揃えたい物はあるのだが、先立つものが無い。まあ、若い頃は、一つずつ揃えて行くのが楽しみであり、それは、頑張れば良いだけである。
少し、話を中断して、この世界の武器や収納について触れておこう。
この世界の武具には、二種類のタイプがある。
一つは、魔物からドロップしたアイテムを手に持ち、武具になれと念じることで、狩った者に帰属され、他者が使えなくなる"帰属武具"。
もう一つは、魔物からドロップしたアイテムを職人が錬成して作る"一般武具"である。
帰属武具も錬成素材に使えるため売却は可能だが、一般的には素材売りの五分の一程度の価値とされる。
見習い冒険者にとっては、一般武具のほうが優れている。狩れる魔物のレベルが低いため、帰属武具では性能も低いのだ。
初級冒険者になると、一般と帰属の性能は同程度になる。お金をかけて装備を整えるか、手間で揃えるかの選択になる。ただし、良品以上であれば、一般のほうが優れる。
中級冒険者になっても、"名品"と呼ばれる一般武具のほうが性能は高い。貴族でもなければ、最初は帰属を使い魔物を狩って資金を貯め、名品を購入するのが一般的だ。
上級冒険者になると、帰属のほうが性能で上回るようになるが、王族などが持つ"伝説の武具"がその上に存在する。
英雄以上の存在になると、帰属以外の選択肢は無くなる。
次に、武具の収納について触れよう。
武具は"ビー玉"になる。所有者が念じることで、直径2cmほどのビー玉に姿を変え、「戻れ」と念じれば元の武具に戻る。
武具のレベルに応じてビー玉の輝きが変化する。
見習いは透明。初級は水色。中級は銀色。上級は金色。魔人は紅色。英雄はダイヤモンドのように輝き、勇者は虹色に美しく輝くビー玉となる。
そのため、冒険者は皆、腰にガンベルトのような腰紐を巻き、そこに弾丸のようにビー玉を詰めている。上位者は美しいビー玉を誇示するため豪華なベルトを巻き、下位者はそれを隠すように巻いている。つまり、腰のビー玉を見れば、その者のおおよその実力が分かるのだ。
ちなみに、帰属・一般いずれも所有権があり、所有者が権利を放棄しなければ錬成素材にも武器としても使用できない。そのため、この世界では、武具泥棒は存在しないに等しい。
たとえば、ビー玉化できるのは武具だけではない。鍋などの調理道具も可能で、魔物の素材から作られたものであればビー玉化できる。当然、通常品より高価である。ミンクラーのコートもその一つだ。ただし、馬車のような大型の物は対象外である。
話を戻そう。
錆びていた長剣がわずかに輝き、使いやすそうな丸盾を購入した二人は、ソラック広場の噴水の縁に腰かけていた。
「これで、俺が壁になって重い奴でも狩れるぞ。剣も切れるし、ミンクラーも大丈夫だ」
ヨパラは、中金貨2枚の味が忘れられなかった。
「ヨパラさん、レベル15って、うそですね。レベル12、ですよね」
「レベル12はひどいぞ。まあ、実はレベル13だがな。情けない。絶頂期は21だったんだぞ。すごいだろ。うそじゃないぞ。まったく情けない……こんなに下がるなんて」
「今の動きは、レベル12ですよ」
「……だな」
話し合いの末、インフィのレベル上げとヨパラのリハビリを優先し、虫部屋6日、金策のため獣部屋3日、計9日狩りに出て、1日休むことに決めた。ミンクラーは、ヨパラがレベル14になるかインフィが12になるまでお預けとし、ヨパラもそれに納得していた。
ミンクラーは金策としては優秀だが、丸一日かけても見つからないこともある。経験値稼ぎとしては最低だ。だからこそ、インフィは頑としてヨパラの提案を跳ね除けた。インフィ一人なら金策など無視して虫狩りに行くだろうから、ある意味、良いコンビなのかもしれない。
余談だが、休日は何をしてもいい日なので、インフィはゴキブラー狩りに行く気満々である。ヨパラからは換金所には行くなと釘を刺されていたが。
太陽が沈み、魔塔が黒紅色の光を放ち、六角形のギルドの屋上で恋人たちのささやきが小さくなる頃――
見習い冒険者の安宿の路上で、一人の少年が汗ひとつかかずに、ひたすら剣を振っている。
その食堂では、一人のおっさんが、ぐでんぐでんに泥酔していた。
人の性根はすぐには治らない物なのだろう。




