34 暗雲のおとずれ
厳しく辛い冬が終わり、季節は巡り、新たな命の息吹を感じさせる風が吹いていた。
空は、季節の変わり目らしい泣きそうな雲で覆われている。
インフィが『地獄のロリア訓練所』に奴隷兵として送られてから、すでに四カ月が経っていた。
なんと、新兵奴隷たちのレベルは14に達していた。
わずかな期間で、素人の集まりが『初級冒険者――かなり努力すれば到達可能:LV15』の域に迫っていたのだ。冒険者なら二、三年かかるのが普通である。
これが『地獄のロリア訓練所』と呼ばれる所以であり、効率的なレベル上げ手法、人心掌握、洗脳。
あらゆる手段を用いて、新兵を短期間で戦力へと作り替える。
今年はそればかりか、レベル15に到達した者が三割を超えていた。通年であれば数名、一割を超えることすらなかったのに。三人に一人がLV15まで上がったというのだ。
これには教官たちも驚きの色を隠せなかった。
ちなみに、インフィのレベルはまだ9である。
魔物とのレベル差がありすぎて、攻撃が通らず、経験値を得ることができないのだ。
実は、インフィの活躍を見た他の班が、当初は嫉妬から距離を置いていた。
だが、九十六班の魔物討伐の速さ、対人戦における巧妙な戦い方に感化され、ついには教えを乞うようになっていった。
九十六班の面々も、インフィから多くを学び、今では他班に教えられるほどになっていた。
「だから、そうじゃないだろ。見てはダメなんだ。」
ゼルが剣を振り上げ、真に攻撃する素振りを見せる。
当然、相手は剣の動きを目で追ってしまう。
その瞬間、ゼルは丸盾で、死角からかち上げた。
「魔物の動きには規則性があるが、対人は何をしてくるか分からない。」
「対人戦は、いかにして相手の意表を突くかの騙し合いだ。」
「目で追えば、すぐに騙される。」
「常に相手の全体を見るんだ。
重心のかけ方、足運び、目の動き、表情、筋肉、指先一本までの動きを、目で見ずに見るんだ。」
たとえば、気の短そうな相手であれば、「攻めるぞ、攻めるぞ」と動くだけで、相手は痺れを切らして踏み込んでくる。
それを避けるのは容易で、首を落とすのもたやすい。
歴戦の戦士で自信に酔っているような相手なら、こちらは怯えた様子を演じる。
逃げ出しそうな気配を漂わせ、わざと剣を落とす。
相手は油断し、「我が剣の錆にするのももったいない奴め」とか言いながら、無防備に止めを刺そうと近づいてくる。
そのとき、大盾の背後に隠していた別の剣で一突きすれば、「この卑怯者」などと言って、勝手に死んでくれる。
「戦いに形を求めてはダメなんだ。
見ようとして見ない。
見ていないようで見る。
相手の性格を読み、こちらの性格は読ませない。
すべての駆け引きで上回る者だけが勝者になれるんだ。」
まあ、いつ殺されてもおかしくない状況で、そこまでの駆け引きができる者は一握りだ。
だが、それができる者だけが、生き残れるのだ。
それから、複数人を相手にするときは……。
目つぶしを食らったときは……。
こんな調子で、九十六班の面々はインフィから学び、実践したことを他の班に偉そうに教えている。
今まで底辺班としてあらゆる罵声や侮蔑を受けていたため、人から尊敬されることはなかった。
最初は面倒そうな素振りを見せつつも、皆、満面の笑顔でいつまでも教えていた。
付け焼き刃なので、少し突っ込まれるとボロが出ることもある。
だが、そこから「じゃあ、こうしたら」と皆で考え、実践していく。
奴隷兵たちは、生き残るためにひとつにまとまり始めていた。
これも、インフィの存在が大きく影響していた。
子供のように小さな体で、ひ弱で、力もなく、動きも遅い。
百八十センチを超える筋肉隆々の大男たちが負ける要因など、どこにもない。
それなのに、勝てない。子供のようにあしらわれてしまう。
ならば、インフィの戦い方を学べば、自分たちのほうがもっと強くなれるはずだ。
最初は、上位班の者たちは妬みもあって鼻で笑っていた。
そんな中、飯抜きの恐怖に駆られた下位班の者たちが、九十六班に教えを乞い始めた。
するとその班は、見違えるほど強くなる。
そうなると、我先にと皆が教えを請い出した。
やはり、どの班も飯抜きだけは避けたかったのだ。
インフィにも質問が飛ぶが、対人戦についてはあまり気が乗らないようで、基本的な話しかしない。
ただし、魔物の討伐の話となると、あらゆる効率的な倒し方がマシンガンのように飛び出してくる。
初めて教えを乞うた者は、あまりの豹変ぶりに引きつった顔を見せていた。
ついには、インフィの『さくっと魔物討伐――効率こそ正義だ』講座まで始まってしまった。
命名したのはインフィではなく、最年少のサギである。コピーライターの才能がありそうだ。
最初は数名だったが、この頃には、魔物討伐日の早朝に『今日のマモノ三分クッキング』が、教官たちの指示の下で行われるようになっていた。
インフィは、蚊の鳴くような声でしか喋らないため、九十六班の面々が聞き取り、拡声器代わりになって全体に伝えている。
討伐予定の魔物の攻撃パターンはもちろん、魔物の弱点なども語られる。
たとえば、三番目の足の節を片方だけ壊すと、その魔物はくるくると回りだす。
この魔物は硬いが、この草汁を剣に塗ると刃が通る。
この魔物は、高音を聞かせると動きが止まる――など、ロリア訓練所が積み上げてきた知識にも載っていないような討伐法が次々と明かされていく。
なぜこんなことがわかるのか、インフィ自身にもわからない。
ただ、その魔物とある程度以上戦うと、なぜか相手の特性が理解できてしまうのだった。
そのときだった。
あの巨漢の司令官が、複数の教官たちを引き連れ、インフィが立つ壇上に上がってきた。
いつもの濁声ながら、よく通る声で司令官は宣言した。
「突然であるが、貴様らは今、この時をもってロリア訓練所の管轄を外れる!」
「俺からの最後の一言だ。死ぬな。足掻け。生き残った者こそが勝者だ!」
「数刻後に貴様らの上官が来る。即座に準備してこの場に戻れ。」
整然と直立不動で並ぶ奴隷兵たちの表情には、困惑の色が広がっていた。
「どこで始まるんだ。くそ、まだ訓練期間中だろ。
奴隷新兵の使い道なんて、肉壁くらいしか……。
おかあちゃん……」
呻き声がそこかしこから漏れていた。
巨漢の司令官は、部下たちに当たり散らしていた。
「中央の馬鹿どもは、優秀な兵を育てることの重要性がまるで分かっていない。
奴らは考えようとしない。
奴隷兵は湧いてくると思い、口減らしができて幸いだとでも思っている。
未来を見ようとしない。
だからこの国は強くならないし、舐められるんだ。
あの、お気楽貴族どもめ。」
「俺がここに来るまでは三カ月で新兵卒業だと?
三カ月で何ができる……。」
過去との比較、口減らしの無意味さ、建設的な軍体制。
あらゆる資料を作り、賛同者を得て、なんとか半年の訓練期間を確保した。
それなのに、命令の一言で反故にされた。
「あぁ、一年あれば、少しは形になるのに。
あの馬鹿どもめ!」
この司令官は、ただの脳筋ではなかった。
国を憂い、人を思い、この国を変えようと日夜努力していたのだ。
副官が進言する。
「今年は予想を遥かに超え、皆のレベルは上がっています。
今の実力であれば、あの相手でも生き残れる可能性があるのでは……」
「そうだな。僅かだがな。
あの狂信者ども、まったく懲りもせず……。
魔物より始末が悪い。」
そして、最後に小さく呟いた。
「こんなことなら、あの少年を、もっと早くに見定めておくべきだったか……。
まさかとは思うが……」
『目まぐるしく動く〈運命の定め〉、インフィには何が待ち受けているのだろうか』
『九十六班の仲間たち、奴隷新兵たちは、運命に抗えるのだろうか』
今にも泣き出しそうだった空からは、雨が降り出し、風が強まっていた。
この後に訪れる波乱を示すかのように、漆黒の雲が空を覆っていく。
短編、これを広めてください(日本の将来のため)。要旨だけです。読まれてない方は読んでください。これを広めるために書いている小説です。
ChatGPT plusの使い方は、短編にまとめたのでそちらで確認してください。無料版でも応用できると思います。




