第64話 お披露目とテストプレイ?
あの日から僕は毎日頭を悩ませつつも、必要なタスクをこなし。
多くの婚約申し込みに辟易しながらも着実に準備を進めていた。
学園の敷地内で行う一大事業。
一番の責任者である陛下に会談を申し込み、ようやく今日許可が下りていた。
既に5日が経過した水曜日。
放課後僕はティアを伴って王宮を尋ねていた。
※※※※※
「よく来たなライトよ。おお、女神さまもご機嫌麗しゅう」
「お忙しいところお時間を頂きありがとうございます。早速お話しても?」
細かい話が必要とのことで、僕たちは今陛下の執務室で話し合いを始めるところだ。
なぜか一緒に居るロキラス殿下と宰相。
さらには部屋の隅に数人の近衛の皆さんも待機していた。
「うむ。お主の希望通りに学園の一区画、お主の名義に変更しておいた。宰相、書類を」
「はっ。…こちらでございます…ご確認を」
えっと。
うん。
問題ないね。
さすが陛下。
仕事が早い。
「ありがとうございます。工事自体は必要ありません。施設自体はすでに錬成してありますので。…夜中にでもこっそり設置します。…後、一度テストプレイをしたいのですが…近衛兵の皆さん、6名ほど都合つけること、可能でしょうか?」
「む?テストプレイ、とな。…のおライトよ」
「はい?」
「…ワシでも良いのか?」
陛下の突然のとんでも発言。
執務室に動揺が走る。
「っ!?なっ?!」
「い、いけません。御身に何かがあったら…」
ふわっ?
陛下自ら?
確かに事前に企画書と言うか内容の詳細は渡してはあるけど…
僕は思わず目を泳がせ、助けを求めるようにロキラス殿下に視線を向けた。
なぜかあきれ顔の殿下。
おもむろに口を開いた。
「…ライト。…そのダンジョン、死ぬことは絶対に無いのだな?」
「え、ええ。メチャクチャ疲れますが…それに回復薬も準備してありますので…問題はないかと…」
そして大きくため息をつく殿下。
「陛下」
「うむ」
「一度だけです。そのあとは認めません。良いですか?」
「むう、い、一度だけじゃと?…むむむ…ふう。…仕方あるまい。…分かった」
えっと。
なぜか決まってしまった陛下の参戦。
僕は思わず遠い目をしてしまっていたんだ。
何故かティアが“仕様書”を見て固まっていたけど?
なんだろ。
※※※※※
何はともあれ完成したダンジョン。
今日はお披露目兼『テストプレイ』の日だ。
「それじゃみんな力を抜いてね。ダンジョンの中で首とか飛ばされたとしても…絶対に現実では死なないから安心して?まあ、ちょっとは“痛い”けどね?…コホン…そしたらこのドリンクを飲み干してください」
陛下の許可のもと、僕は今学園の敷地内に100坪ほどの特区を保有していた。
そして錬成し設置したプレイルーム。
そこには100台ほどのリクライニングできる椅子が完備されていた。
因みに今飲ませたのは精神感応薬。
情報の抽出に必要なんだよね。
もちろん害は無いよ?
何気に美味しいはずだしね。
「…ラ、ライト?わ、私もテストプレイ?…受ける必要があるのだろうか?」
何故か困惑しているロキラス殿下。
その隣には目を輝かせている陛下までが本当に居るのだけれど…
執務とか大丈夫なんですかね?!
宰相の目の下のクマ…
絶対今日の日のせいですよねっ?!
「えっと。特に必要はないのですが…陛下のお目付け役?…まあ、取り敢えず楽しんでみてください」
「ふふ、若き日の滾りを思い出してしまうわ…ライトよ、早くするのだ。楽しみ過ぎてワシは昨日ほとんど寝られんかったのだからな!」
なぜか目を爛々とさせる陛下。
そしてゴツゴツした装備品。
どうやら若き日、陛下は本気で王籍を抜け冒険がしたかったそうなのだが…
まあ。
絶対に死ぬことの無いダンジョン。
テストプレイだけど安全対策は問題ないので。
うん。
「ライト、ボクたちも良いの?いきなりクリアしちゃうけど?!」
「うんうん。うちらあれからさらに力増してるんだよ?サクサク行っちゃうんだから♡」
あー、うん。
確かにルイとルザーラナは強いけど…
でもね。
まあいっか。
「えっと近衛兵の皆さんも心の準備は良いですか?」
「は、はい」
「だ、大丈夫です」
今回テストプレイに参加するのは陛下とロキラス殿下、近衛兵4名。
そしてルイとルザーラナの合計8名だ。
当然だけど陛下たちは6人での参加上限人数パーティー。
ルイとルザーラナは2人パーティー、その時点で実は“超高難度設定”だ。
「はい。それでは目を閉じてください。…一回視界が暗転しますが…すぐに設定にとびます。説明をよく聞いて、楽しんでください」
僕はそう言い、中央にあるコンソールに魔力を注入する。
全員のスキャンが始まり、いよいよゲーム、もとい“擬似ダンジョン”のスタートだ。
「あっ、そうだ。…一応説明をっと…よし。これでOK。…空間魔法とセイの魔力をつなげてっと…モニターもばっちり」
僕は注意事項をコンソールに入力、それぞれのステータスを確認してみた。
「どれどれ…ふうん。陛下意外とレベル高いんだね…74?…げっ。衛兵より強いじゃんか」
さすがにルイとルザーラナは別格だ。
だから彼女たち2人は凶悪なフロアへと案内されていた。
「どれどれ、見学させていただきましょうか?」
僕は椅子に座り、その様子を眺めていたんだ。
もちろんポテチとコーラは欠かせないよね?
※※※※※
「ほっほーう。なんと。…若返るのか?このダンジョンは?!」
「陛下、落ち着いてください。…実際には死なずとも、ダンジョン内では痛みも死もあるのです。…ちなみに…なんですかその装備は?」
始まりの間、いわゆる1階層。
このフロアには宿泊できる『馬小屋』
呪いなどのバッドステータスを直す『カンカン寺院』
そして仲間たちとの交流や転職ができる『絆酒場』
さらには悪名高い超ボッタクリで有名な『ボッタクル商店』が軒を連ねていた。
6人全員で現れた国王たち。
そこにはやたらと派手な装飾の30歳くらいの陛下とロキラス殿下、そして近衛兵4人が色とりどりの装備を身にまとい、佇んでいた。
「はあ。凄いな…まるで本物ですね…痛っ?!…普通に痛いですよ?殿下」
「うむ。凄まじいものだ…装備までそのままとは。…ライトが違う国に居なくて良かったよ…む?!」
なぜか浮足立っていたものの、とりあえず話をしながらも階段を降りる6人。
しかしいきなりの来訪者、いわゆるモンスターとのエンカウントで一気に気持ちを引き締めた。
「ブルグギャアアアアアーーー」
「ぐぬっ?!こ、こ奴等…コボルトか?」
4体でいきなり現れたモンスター。
その姿は犬のような顔をした2足歩行のモンスター、まさに“コボルト”だった。
「リ、リアルですね…まるで本物だ…くうっ?!」
感想を述べる近衛兵に1体のコボルトがいきなりこん棒で襲い掛かってきた。
『ピコン…近衛兵2は1ポイントのダメージを受けた…』
――近衛兵2て…
ちゃんと名前入力しなかったな?
「く、くそっ…舐めるなあああああ―――!!?」
すらりと抜き放つロングソード。
その一閃が目の前のコボルト2体を切り裂く。
他の2体もロキラス殿下と興奮気味な陛下により倒され、彼らの記念すべき初めての戦闘は終わりを告げた。
全員に流れる電子音。
『チャラララッタッター…戦闘に勝利した…それぞれ経験値3を獲得。2ゴールドを手に入れた…宝箱だ。…開けますか?…』
そしておもむろに現れる、木製の宝箱。
それを見た6人が思わず固まってしまう。
「…宝箱…ですね」
「うむ。…ライト、言っておったよな…すべからく宝箱には『罠』があると」
「おい、ギザーダ。お前ジョブ盗賊にしたんだよな?」
「え、ええ」
※※※※※
この擬似ダンジョン。
実は職業を選ぶところから始まる。
そしてパーティーの仲間同士の会話も可能だ。
実は、いくら強くても一人でのクリアはほぼ不可能な設定だったりする。
さらには所持できるアイテムの数。
その制限により6人パーティー、つまり最大人数での攻略が一番効率が良いのだ。
持てるアイテムは装備品を含め最大10個。
すでに陛下など、装備品で6個使ってしまっている。
あと4個しかアイテムを持つことができない状況だ。
もちろん実際の世界での職業も選択可能だが。
おのずとバランスをとったパーティー編成が必要になる。
実は出現する宝箱は必ず罠が仕掛けてある。
そのため解除できる職業『盗賊』
少し成功率は下がるが『ニンジャ』が必須だった。
もっともニンジャは超上級ジョブだし、幾つもの制限がある。
たどり着くには『変態的な長時間プレイ』が必要になることだろう。
まさに僕の前世、“蘇我頼人”の遊んだあのゲーム。
それが基本なのだ。
つまりは悪辣で鬼畜仕様。
そして一番大切なことだが。
このダンジョンは繰り返さないと絶対にクリアが出来ない仕様だ。
くくく。
ああ、儲かる気しかしないっ!
※※※※※
もちろん浅い階層の宝箱の中身には、ほとんどが『クズ』しか出ない。
極小確率でお宝も出ることもあるが…
当然無視することも選択可能だ。
「…確か浅い階層の罠には軽いダメージをもたらすもの…死ぬことはない…そう言っておったよな?」
「…確かそうですね…おい、ギザーダ…いけそうか?」
「ちょ、ちょっと見てみますね…っ!?ふわっ、情報が?!…分かる、分かるぞ!」
つぶやき手をかざす近衛兵のギザーダ。
やがてカチャリと音がし、宝箱が開かれた。
『ピコン…『木の棒?』×1、12ゴールドを獲得しました』
「………は?」
「『木の棒?』?…12ゴールド?…12ゴールドって…いくらなんだ?」
※※※※※
ニヤニヤして観戦している僕。
突然脳内で、セイが問いかけてきた。
『マスター…鬼畜と断じます。すべてが未鑑定状態…誤って装備したり使用する可能性、否定できません』
「うん?ハハハ。やだなあ。そのための職業じゃん。『ビショップ』入れればいいだけだよ?」
『…承知しました』
実は出てくるアイテム、ほとんどが『剣?』と言う表示。
つまりは未鑑定状態。
『鑑定』のできる唯一のジョブであるビショップ。
実はこのジョブを入れていないと、早々に詰む。
だって…
『…マスター。商店の価格設定、――変更を進言いたします』
「ん?なんで?」
『…鑑定の金額、そのものと同額の設定…しかも買取は半額…倫理的に逸脱していると警告いたします』
「……でもさ。……ゲームもそうだったよ?」
『…………さようですか』
「…うん」
(あれ?…呆れられてる?……いやいやそんな…)
『もう一点。…この世界に存在している鑑定のスキル持ち、“アクティブ”にしたらいかがでしょうか』
「う―――ん」
セイの常識ある発言…でも…
(もしかして…ボクの設定…厳しすぎる?…いやいやそんな…)
因みに。
当たり前だけど実際に鑑定できる人でも今の僕の設定だと。
このダンジョンではそのスキル、使用不可にしているんだよね。
だってさ。
楽しんでもらいたいだよ!
そもそもそれってずるじゃんね。
(うんうん。これは僕の真直ぐな素直な気持ちだよ?…えっと…)
『………………………』
なぜか無言の圧を感じるんですけど?
何はともあれ。
始まったテストプレイ。
右往左往する陛下たちとルイ達。
僕はどうしてもニヤニヤする事、止めることが出来なかったんだ。
もちろんセイの言う事、少しは気にかけたよ?
ほんとだからな!
『再考――進言いたします』
僕の脳内に、セイの言葉が響き渡っていた。
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