第62話 久しぶりの再会とライトの実績
キャルン姉さまに慰められ。
ティアに優しく頭を撫でられ。
僕はどうにか精神を立て直し、寮のリビングへと足を向けた。
「ライト!キャルン!!」
「っ!?お母様?!!…うあ、うあああっ、お母様っ!!」
リビングで待っていたお母様と弟のルードリッヒ。
真っ先にお母様にキャルン姉さまが飛び込む。
僕にはかわいいルードリッヒが、遠慮がちに抱き着いて来た。
「兄さま…会いたかった!」
「うん…僕も会いたかったよ」
今は5月の下旬。
実は僕、入学してから一度も家には帰ってなかったんだよね。
意外と忙しかったってのもあったのだけれど…
一応『テレビ電話?もどき』を開発したこともあって。
何気に皆で王都に来て以来だから…
2ヵ月ぶりくらいの再会だった。
画面越しではなくリアルに感じられる触れ合い。
ああ。
そこはかとなくあった寂しさ、それが埋まっていく。
心臓の鼓動とリンクする感動の波――
(やっぱり会いに行こう)
僕は心の奥から痛感していた。
※※※※※
「まったく。ライトは酷い息子です。毎週来るとか言っておいて…一度も来なかったじゃない!」
どうにか落ち着いたお母様に、僕はずっと小言を言われていた。
「ハハハ、ハ。…ご、ごめんなさい。…えっと。…今度はちゃんと行きます。…やっぱり実際に会うと…すごく嬉しいです」
「っ!?…もう。…そんな顔されたら…文句言えないじゃない」
対面に座っていたお母様は立ち上がると、僕の隣に腰を下ろした。
そして優しく抱きしめてくれる。
なんて癒されるんだろう。
僕も思わずぎゅっとお母様にしがみついてしまった。
甘く優しい香りと柔らかいお母様の感触。
つい顔を赤らめてしまうが…これは抗えないものだ。
「ふふっ。可愛いライト…あなたはまだ9歳なのですよ?甘えても良いの」
優しい声掛け。
もう僕の涙腺は限界だった。
※※※※※
学園に通い始めて約2か月。
僕を取り巻く環境は激変してしまっていた。
何より僕は既に叙爵される予定で、すでに侯爵位。
さらには魔道具の開発に対する報酬。
さすがに今日クリアしたダンジョンでの実績については記載されていないけどね?
遅れてリビングに入ってきたサルツさんが正式な文書を、僕たちの前で広げているところだ。
「ふわあ。やっぱりお兄様は凄いのですね!侯爵様…それに報奨のお金…白金貨500枚?」
「アハハ、ハ」
「ふう。まだ王都にきて2か月。…あなたはどれだけお母様を驚かせるのかしら」
改めて僕は書類を確認した。
覗き込んでくる姉さま。
あー、うん。
何か分かんないくらい多くの功績がつらつらと書かれていた。
もちろん『影の騎士ノワール』がらみについては記されていないよ?
それにしても…
「ふわー。ライト『乙女守護騎士(仮)』?…凄い!まだ9歳なのに二つ名もち?!」
なぜかはしゃぐ姉さま。
さらには…
「ゴクリ。兄さま『神に認められし英知の先駆者』…さすがです。やっぱり兄さまは凄いんですね!」
目をキラキラさせ、興奮気味のルードリッヒ。
照れるし兄弟の賛辞は嬉しいけど…
ぼ、僕のスローライフが…
僕たち姉弟のその様子に優しい瞳を向けていた父上。
飲んでいた紅茶をテーブルに置き、突然の爆弾発言を落とす。
「…それでライト。小耳にはさんだのだが…」
「は、はい?」
「お前、国王様の娘である第3王女リュイネ様と婚約したというのは本当なのか?」
ぴしりと固まるリビングルーム。
なぜか目を見開くキャルン姉さまとティア。
さらにはココナまでもが僕にジト目を向けている?!
うう、ルード?
「何この人?」みたいな目で見ないで――!?
えっと。
実はこの話、まだ僕の婚約者たちには話していないんだよね。
何よりもまだ正式ではないし?
まあ。
あの陛下の事だから…
本決まりであることは“間違いない”のだけれど…
ぴしりと固まったリビングルーム。
それを破るようにお母様がため息交じりに僕に問いかける。
「ふう。ライト」
「は、はい」
「…まさか他にも…婚約者、増えていないのでしょうね?」
ピクリと眉を上げ僕に訝しげな瞳を向けるお母さま。
ほ、ほ、他?
えっと…
「…『ミリ』と言う女性が増えました。7歳くらいの可愛らしい女の子です。…彼女ダンジョンマスターだったのですけれど…ライトが解呪してしまいましたから。それに申し込みなら、山のように届いていますわ」
ぐうっ?!
いきなりカミングアウト?
ね、姉さま?!
「7歳?!…ラ、ライト?…ま、まさか、あなた…」
何故か『僕の腰辺り』に視線を向け、若干顔を赤らめるお母さま。
何気に僕の精神的ダメージがえげつない?!
「ひうっ?!ぼ、ぼ、僕は誓って何もしていません。…彼女は…!?…えっと…サ、サルツさん?は、話しても問題ないのかな?」
姉さまが『ぽろっ』とこぼしちゃったけど…
たぶんダンジョンの事は秘匿事項だ。
だから父上とロキラス殿下、玄関前で待っていたくらいだし…
慌てふためく僕。
その様子に、珍しくサルツさんが“とっても良い笑顔”で返事をする。
「かまいません。この国の最重要は既にあなた様、ライト様です。あなた様のご家族には隠し事不要です。もちろん陛下の許可証、頂いております。…当然ですが“口外”については契約させていただきますけど」
さすがは仕事が早く優秀なサルツさん。
てかなんでニヤニヤしてるのさっ!
コホン。
…これなら説明ができる。
「えっとですね。実は陛下の依頼で今日ダンジョンを攻略したのです。もちろんティアやキャルン姉さまも一緒です。…そうだ。姉さま、実はすっごく頑張って…今レベル91ですよ」
「なっ?!」
「ええっ?!キャ、キャルン?!…あなた…」
「っ!?んもう!私から言いたかったのに!!」
頬を膨らませ、僕にジト目を向けるキャルン姉さま。
ごめんだけどめっちゃ可愛い。
ていうか最初に勝手にしゃべったの、姉さまですよね?
僕は不敵な笑みを浮かべ、キャルン姉さまに視線を向けた。
「まさか?そ、それは本当ですか?…たった数時間で…こ、これは調査を…」
おう?!
サルツさんが真剣な表情に変わった?!
これは僥倖!
思わぬ発言で、僕に対する嫌疑、晴れた?!
グッジョブだ、僕。
そう思っていたのだけれど…
「腹が減ったのじゃ!!ライト、旨いもの食わせるのじゃ!!」
突然リビングに魔力が湧き出す。
そして現れる、何故か成長しやたらと露出の多い衣服を着ているミリ。
そして当然のごとく僕に体を密着させ、辺りをきょろきょろと見回した。
「うん?この魔力…ほう?あるじ様のご家族じゃな?コホン。ワシはミリじゃ。あるじ様の婚約者じゃ。末永く良しなに…それにライトがくれた名前…ワシの宝じゃ♡」
――終わった。
突き刺さるお母様の怪訝な視線。
僕は一人、心の中で血の涙を流していたんだ。
間違いない。
きっと僕には強烈な『女難の相』が付与されている。
いや、これもう“呪い”だろっ!
あのクソじじい!!
※※※※※
この後僕はお母様に、それはそれは丁寧に『女の子は…』とか…『こ、婚前交渉は…』とか。
実の母親にそういう事を真顔で言われる僕。
とっても可哀相だと思いませんか?
ダンジョンでは殆ど疲れなかった僕。
お母様のお説教と言うかレクチャーで、きっと僕は人生で一番のダメージを受けていたんだ。
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