第148話 リアルな脅威、面倒な奴
暑い夏が終わり、世界規模の戦勝の宴からおよそ一か月。
僕渾身の料理で、あの場所では“うやむや”になってしまっていた僕と女神ティアリーナの婚姻。
色々と落ち着き、世界的な会議が活発になった昨今。
ついに多くの書状と言うか問い合わせがビザイド宮に届くようになっていた。
「あの、ライト様…これ全てに目を通されるおつもりですか?」
げんなりした顔で大量の書状を抱え、僕の自室へと入ってくるサルツさん。
かなりお疲れのご様子だ。
「えっと…さすがに見ないわけにも…」
「はあ。でもきっとお祝いは最初の一行…あとはしつこいくらいにレシピの問い合わせですよ?」
「ハハハ、ハ」
正直僕は。
嫌がらせの手紙と言うか書状が、山のように届くと実は思っていた。
何しろ女神であるティアリーナ。
恐ろしく美しい。
さらにはあの大戦の時の女神の奇跡。
心奪われたものもそれこそ数えきれないほどいる事だろう。
一方あの時宣言し、正体を明かしたとはいえ。
僕はまだ10歳。
しかも魔力で全世界へと発信したものの。
恐らく拾えたのはごく一部。
なにより余りに隔絶した力、それは既にこの星に住む皆の想像できるレベルをはるかに超えてしまっていたんだ。
ありていに言って――『眉唾な話』
期せずしてそんな認識であふれかえっていた。
そんな状況。
当然だが嫉妬と言う感情は簡単には止められない。
しかも異星の脅威、僕たちの事前の準備でごく一部の者しかその力を実感していない事実。
敬い、恐れるよりも。
じっとりとした感情が先に立つのは理解していたんだ。
そんなことを思いつつも。
いま届けられた書状を数枚手に取る。
おもむろにペーパーナイフで開け、ついため息が零れる。
『この度はご成婚、まことにおめでたく。衷心よりお祝い申し上げる……さて、…』
「はあ…」
西の大陸のヅヌール共和国、宰相であるマハッナ侯爵からの書状――まさに今サルツさんが言った内容の物が記されていた。
お祝い、まさに1行。
その後ろには事細かなレシピに対する質問状。
ここまでくるともはや乾いた笑いしか出てこない。
「むう。どうしてこうもレシピばかり…ティアはティアは…」
「あー、うん」
そしてそのたびに可愛く拗ねる僕の女神様。
はあ。
さすがにこれは精神衛生上よくないよね。
「…ライト様。こうなったら」
「…うん。…結婚式、大々的にやっちゃう?」
「え♡…ラ、ライト様♡」
突然目を輝かせるティア。
やばいくらい可愛い。
もう僕は覚悟したんだ。
思惑通りに事が運んでいない今の状況。
スローライフを望む僕にはもってこいなんだけれど。
結婚とは魂の契約。
当たり前だが相手がいて初めて成立するんだ。
僕はつまらない事でティアが悲しむのを、これ以上見たくはない。
「…陛下に打診しますかね」
僕はそっとティアを抱きしめ、心の奥で誓いを立てていた。
※※※※※
東の帝国イスタール。
ここではついに、新皇后であるマリナスのお腹が目立ち始めていた。
「マリナス。5か月、そうなのだな」
「はい。ヴィラーリヒ様。マリナスは幸せです♡」
皇后の寝室。
豪華なベッドで休んでいるマリナスに、ヴィラーリヒは溢れんばかりの愛情でその瞳を見つめていた。
婚姻の儀が7月に行われ。
つい先月の戦勝の宴、その直前に発覚した妊娠。
順調に推移し、母子ともにすくすくとその成長を育んでいた。
「マリナス、何か欲しいものはあるか?…つい先ほどライトから母子に良い果物が届けられた」
そう言いながら、かいがいしく赤く美しい果実を切り分けるヴィラーリヒ。
その様子にマリナスはますます顔を赤らめる。
「ヴィラーリヒ様…あう♡…あ、ありがとうございます」
「ふむ。どれ…あーん♡」
「あ、あーん♡」
一応ですが。
付き人たちは全員目を覆い、そっぽを向いています。
コホン。
何はともあれ。
彼らは幸せの最中にいた。
迫りくる脅威、その足音に気づかないまま。
※※※※※
こつん
こつん――
光の届かぬ、かび臭い通路の奥。
硬質な足音が静寂を破る。
ギシりと開くドア。
揺れるほのかな光
「っ!?…ふん…遅かったな」
「…すまん」
薄暗い部屋。
大きなテーブルには一本の蠟燭が揺れる。
如何にもな怪しい衣装をまとう数名の人物の視線が、今入室してきた男に突き刺さる。
秘密結社『クロノスの夜明け』
その幹部たちによる秘密会議。
まさに世界の闇に蠢く、もう一つの悪がその産声を上げる。
「よい。…時は来た…審判の日は近い」
「はっ」
地の底から響くような、怖気を纏う声が最奥の席から届く。
そこにいる者達は思わず身を震わせる。
「…創造神の…使徒……くくく。たのしいなああ」
纏いつく悪意。
それはいまだかつてこの世界に蔓延していた純粋の悪。
力無き想い
そしてひがむ心
悪逆の教義
世界最大の宗教は間違いなく女神教だ。
だが。
どうしても生まれてしまう。
人の持つ性
そして。
(くくく。…せいぜい楽しむといい…このままじゃ…物足りなかろう?)
力ではない。
魔力でもない。
だが確固たる悪意は。
この世界に根を張り。
着実にその手を広げ始めていた。
「まずは東の帝国…新たな命――神罰を」
ぬめりとした嫌な圧が沸き上がる。
ライトは知らない。
そして激震が走る――
「面白かった」
「続きが気になる」
と思ってくださったら。
下にある☆☆☆☆☆から作品への応援、お願いいたします!
面白いと思っていただけたら星5個、つまらないと思うなら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると、本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




