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第140話 戦勝の宴2

暑さの残滓――

残暑を感じさせる初秋の風が王宮の熱気をさらに加速させる。


良く晴れた日。

歴史的な“祝いの祭典”――それは間もなく始まる。


ライトはティアリーナを伴い、昨日のうちに迎えに行ったイスタール帝国のジスディルド皇帝の貴賓室を訪れていた。



※※※※※



コンコン。


「…おはようございます。ライトです。…入ってもよろしいですか?」

「うむ。入られよ」


最上級の貴賓室。

高級な調度品がセンス良く配置された“寛ぎ”を最優先させた部屋。


中央にあつらえられたテーブル席では皇帝と第一皇子であるヴィラーリヒ。

そして皇太子妃であるマリナスが紅茶を前に、にこやかに二人を迎えていた。


「陛下、ヴィラさんにマリナス様。…よく眠れましたか?」


挨拶を交わし席に着くライト。

その姿にジスディルドは目を細める。


「うむ。誠に快適。…のうライトよ。…『空調の魔道具』…融通は可能か?」


初秋とは言えまだまだ暑い。

当然だが王宮とてそれからは逃れられない。


対策としてすでにライトは“空調の魔道具”を王宮全てに備えてあった。


「ハハハ。まあ。…さすが陛下です。目ざといですね?」

「…お主が規格外なのだ」


当然だが。

東の帝国イスタール。


多くのアーティーファクトを有しているし、何なら同じような効果をもたらす魔道具、すでにある。


しかし今稼働しているライトの魔道具は。

実は自然に存在する魔素、それを取り込みほぼ永遠に稼働する、まさにエコロジーの極致となっていた。


「ふっ。相変わらずライトは非常識だ」


優しい表情でマリナスの肩を抱き寄せ、そんなことを言うヴィラーリヒ。

マリナスは顔を染め、そっと自分のお腹に手を当てる。


「…マリナス…改めておめでとう。…懐妊、確認されたのですね?」

「はい。ティアリーナ様。…マリナスは幸せです」


以前の帝国の危機(笑)

それを乗り越えマリナスは、すでに身籠っていた。


「コホン。それはそうと…“依頼”の件、よろしいですか?」

「ふむ。承知した。…栄えある戦勝の宴での“来賓代表挨拶”。このジスディルド、見事その役目、果たそう」


今回の戦勝の宴。

実にその規模は膨大だ。


ほぼすべてのミラリルスの国家。

およそその7割が参加する今回の宴。


ライトはマイハルドのミルナルド陛下にお願いされていた。


『世界最大の国家、イスタール帝国皇帝の参加及び挨拶』を。


「宴の開宴は午後2時です。それまではゆっくり過ごしてください」

「うむ。そうさせていただこう…ライトよ」

「はい?」


静かに席を立ち、ライトの前で跪く皇帝。

そして真直ぐライトの瞳を見つめる。


「――この世界の安寧…それは亡き我が妻『イシュリーン』の悲願。…ありがとう」

「っ!?…陛下…」


かつて国内の動乱の時に命を落としたジスディルド最愛の女性。

彼の執務室にある肖像画の女性。


あの戦いの後――

皇帝は一人、肖像画の前で涙を流していた。


そんな様子に女神ティアリーナは慈愛の籠った瞳で、跪くジスディルドの手を取る。


「…顔をあげなさい。…ライト様はそのような言葉。――望まれてはいません」

「っ!?…そう…であるな」


包み込む温かい感情の波――


ああ。

僕は――


この星を守れたんだ。



そんな思いを胸に、ライトは改めて満たされていたんだ。



※※※※※



「くそっ。なんだこの便利な魔道具は!ええい、貴様。なぜ同じものが作れん!」


一方――


別の貴賓室で喚き散らす男性。

その叱責を受けた従者であり、国の技術庁長官であるマレイダは思わず下を向いてしまう。


東方の大陸ザセレート。

大陸の中で代表的な国家である、部族連合国ゲニッシュリードの控室は不穏な空気に包まれていた。


彼らは砂漠の民。

そして部族と言う集団を維持し、オアシスを求め移動を繰り返す流浪の民だった。


しかし数年前。

訪れた影の騎士ノワールと美しすぎる従者アラタイトの奇跡によって国家の礎を築いた国だった。



※※※※※



『オアシス?ふむ。それを探しての移動の繰り返し…非効率極まりないな』


そんなつぶやきを残し――

その数日後、国に奇跡が訪れた。


国の中央、広大な砂漠。


そこに見渡す限りの広大な湖が出現したのだ。


『我は取引を求めている。この国にはゴロゴロある“ホットストーン”。対価としていただきたいがよいな?』


そして建造された首都『デザートノワール』


急激に近代化が進み、人口50万を超える大都市が誕生していた。



※※※※※



そんな国の代表として、今回招集に応じた部族長を務める“国王代行”ガジス・ビシュテ。


彼はいわゆる――傲慢な男だった。

本来は国王が来る予定を、彼が強引にその権利を奪い取っていた。


「お言葉ですが…今回は祝いの席――どうか穏便に。…魔道具については研究を重ねます」

「ふん。…大体昨日来たというのに…女すらあてがわんとは。…マイハルド王国、程度が知れるというもの」

「っ!?族長」

「“国王代行”だ!…間違えるな!」


「……」


まみれる欲に傲慢なふるまい。

愚かなヒューマン。

その典型。


彼がこの後の宴で騒動の発端となる。



ライトはまだ知らない。



※※※※※



イスタール皇帝とのお茶会を終えた僕とティア。

再度の確認を行うため厨房を訪れたのだけれど…


うん?


慌しく動き回る厨房の料理人たち。

そして香る暴力的な香り。


今回の為レシピを提供したライトは思わず首をひねる。


(あれ?この香り…ニンニク?…僕そんなの渡したっけ?)


当然だが今回のメインの料理はカレーライスだ。

ライトがいた以前の地球ではいわゆる大衆食。


世界的規模で振舞うには正直“格”が落ちる。


なので当然他のレシピも渡していた。


そんな中。

ライトの感知に、引っかかるルイとミリの魔力。


思わず目を凝らし、厨房をのぞき込む。



「ほらほら。もっと刻んで?これはさ、細かいほどおいしいんだからね!」

「はっ。魔王陛下」


「うむうむ。そうじゃ。餃子にはつきものよ。もっとじゃ。もっと刻むのじゃあああ」



……あのさ。

なにしてるのかな?


僕は瞬間で彼女二人の後ろに行き、首根っこを掴み上げた。


「ひうっ?!」

「ぐぬう?!」


「…ねえ。何してんの?」


途端に冷や汗を流す僕の可愛い婚約者2名。

やたらと挙動不審になりながらもどうにかミリが口を開く。


「う、うむ。…少しばかり…手伝いを、な」

「……ふーん。――僕に内緒で?」

「ぐぬう」


まあね。

別にいいんだけどさ。



でも世界的な祝宴でニンニク?



臭くなっちゃいますけど?



「お、美味しいは正義!ラ、ライト言ってたじゃん!」


なぜか涙目で訴えるルイ。

ティアがあきれ顔で突っ込んだ。


「この淫乱魔王。少しは控えなさい」

「くやしー!」



やっぱりカオスに包まれる僕の生活。


でも。


そんな日常、僕は愛おしくてたまらなかったんだ。




戦勝の宴本番。


まもなく開宴です。


穏やかな戦勝の宴、まもなく開幕です!


是非感想など頂けると、作者泣いて喜びます!

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