30話・スズカの乗馬トレーニングです
翌朝――。
私は朝食を済ませた後、スララの口からいつも通りタロット占いをしていたの。スララは身体を左右に動かして踊り出す。
「スラスラスラスラ、スラスララー……」
「出てきたわね。ほいっと。……今日は正義の正位置か。悪くはないわね。自分次第だけど」
今日のタロット占いは正義の正位置。平常心を保つ事を要求される日という事だわ。つまり、スズカの言葉を深読みし過ぎない事が大事になる。
「……というわけでスララ。今日はスズカの乗馬レッスンがあるからお留守番よろしくね」
「御意。ところでアヤカ殿。何で馬レースで勝ったら婚約破棄という内容にしなかったのです?」
「どちらかが婚約という内容じゃないと、話的におかしくなるからね。負けたらスズカだけが婚約破棄という話じゃ、勝負という意味でもなくなるし」
「でも勝ったらアヤカ殿は婚約するのですか?」
「しないわよ。今回はクエストクラスというのもバレてるけど、どうにでもなるのよそんな事はね。それより、スズカの調教をしないとならないのが面倒だわ。まさかお姫様に馬の乗り方を教えないとならないなんてね」
面倒だけど、トサ王子との約束は果たさないとならない。ここを乗り越えてこそ、私と王子とスズカのいるステージに立つ事が出来るからね。
「じゃ、行ってくるわスララ。留守番よろしくね」
「ハヒ!」
「おやつのバタードングリも集めておいてね。自分が食べ過ぎた分は三倍にして収穫しておくのよ。自分が食べた分はね!」
「ハ、ハヒーン!」
と、スララが大量に食べていたバタードングリの補充をするように頼んで私はアヤカハウスを出発したわ。
※
バクーフ王国の南にある草原で私とスズカは馬の練習をするわ。魔法で暴れないように管理してる馬だから、馬に問題は無いようにしているの。
「今日はよろしくお願いしますねアヤカさん」
「えぇ、今日で乗馬マスターになってもらうからよろしくねスズカ姫」
と二人はニッコリと笑う。スズカはまず馬に乗る事に慣れないといけないから、馬と仲良くなれるようにニンジンを与えさせたわ。ここまでは問題無くこなせているわね。
この乗馬トレーニングにはニートさんも来たの。一応、馬が変な方向へ走っていかないように監視してくれるみたい。そして、スズカにはもう馬に乗ってもらうの。まずは馬に乗り、散歩してもらう事にしたわ。そして、私はニートさんの方へ行く。
「わざわざありがとうねニートさん。とりあえず、もう乗る事にさせたわ。この草の上なら落ちても大きなケガも無いし、とにかく馬に乗らなきゃ話にならないから」
「そうだね。その方法でいいと思うよ。一日で乗馬マスターになるなら、実戦あるのみだ」
「その手にある紙切れは何?」
「わざわざ、トサ王子は僕に人肉禁止令を出す予定だと手紙で伝えて来たよ。僕もあの時は少し言い過ぎたのかも知れないね」
この前の私の家でトサ王子と少し対決姿勢になった事で、トサ王子は歓迎パーティーでも人肉禁止令を出す事を話していたわ。
それをわざわざニートさんにも手紙で伝えるなんて、相当気になっていたのね。あのトサ王子も破天荒な感じだけど、やはり国を思う気持ちが強いからね。
「怒らないでよニートさん。トサ王子も嫌がらせでその手紙を送ったわけじゃなく、本気で改革をしようという決意の手紙だから」
「わかってるよ。確かにトサ王国は悪い国じゃない。ただ食欲が旺盛すぎるのが人間に向く可能性があると感じる国ではあったから忠告したのさ。で、ここにはいないトサ王子は王様といるのかな?」
「いえ、トサ王子は勇者様を探しているようね。今日はダンジョン巡りをしてるようなの」
「そうか。勇者なんて探しても見つからないよ」
そうニートさんは遠くを見て微かに笑っていたわ。その横顔は何か儚げな感じがしたの。
すると、馬に乗って散歩をしていたスズカは、もう走り出していたの!
「もう乗りこなしているわね……これならもう競争も出来そうなぐらいのレベルじゃない。バクーフの王族の血なのかしら?」
「それはよくわからないけど、彼女は意思が強いからね。僕は二人を見守る係だから、存分に競争してくれていいよ。何かあれば助けるから」
「ふふ、ニートさんってニートなのに頼りになって困るわ」
「誰かを助けてないと、ニートなんて誰からも助けてもらえなくなって餓死するからね。僕も必死だよ!」
「ありがとうニートさん。まだバタードングリアップルパイ持っていくわ」
そうして、私は勝手に上達してるスズカの元へ行く。
「もう乗馬もマシになってきたわね。二人で走ってみましょうか?」
「えぇ、アヤカさん。私も短時間でここまで上達しましたわ。王族には王族のプライドもあるので負けられないのです」
要するに、ヒロインモードでの王子をゲットする為の呪いで能力が上がってるから乗馬も出来るようになっている。でも、これは本当にスズカにとっての力なのか疑問だわ。
「スズカ姫。一つ聞くわよ? 今のヒロインモードで得た乗馬技術は、ヒロインモード解除後も残るのよね?」
「ヒロインモード? 何の事でしょうアヤカさん?」
やはり、自我がヒロインとしてのスズカだからヒロインモードという意味もわからないのか。でも、今のままじゃスズカ自体も今のスズカに乗っ取られる事になるわ。だから言うの。
私は私を悪役令嬢というクエストクラスにジョブチェンジさせた女の魂に向かって――。
「こんな広い草原だと色々言いたくなるわね。独り言を言おっと」
「はい?」
「あぁ、これは独り言だから気にしなくていいわよスズカ姫。ただの独り言だからね」
「……はぁ」
と、よくわからない返事をしているわ。
でも、よくわからないままじゃいられないのよ。
いつまでもそんな状態じゃあね。
「……呪いに打ち勝つ覚悟が無いと、完全にヒロインモードが素になるわよ。そうなったら貴女には自由は無くなる。それが嫌なら根性見せないよ。本当の自分で婚約破棄してみなさいよ。この……アホ女がーーーっ!」
「……」
その独り言は独り言で終わったの。
残念ながら今のスズカは反応してくれない。
ヒロインモードの呪いは、自分で乗り越える事もしないと今後の人格形成に影響が出そうだから私は今回考えを伝えたの。
(ま、いつまでもヒロインモードとノーマルモードを繰り返すのは無理だわ。確実にヒロインモードでの精神的負担は大きいからね。後、数回の婚約破棄のうちにケリをつけないと元の人格が壊れるわよスズカ……)
そうして、スズカの乗馬のスキルはマスターレベルになったわ。少し荒い走りだけどレースに参加して勝てるレベルになった。
これでトサ王子との約束は果たしたわよ。ほぼ、私の力じゃないけど、私のおかげと言うけどね!
明日はトサ王子にスズカの乗馬テクニックのお披露目と、夜は王宮での会食だわ。もしもの時の為に、仕込みもしておきましょう。
悪役令嬢らしく、自分の仕事を果たすわよ!




