10話・アイヅ王国のアイヅ王子が現れました
とうとう、農業国家のアイヅ王国の「アイヅ王子」がバクーフ王国にやって来ます。
バクーフ王の娘のスズカ姫の婚約者として成立する可能性のある人物。成人式を終えてから第一の婚約予定者だからバクーフ側も選抜した王子だという話だわ。
あまりスズカはその辺語ってくれないけどね。
「前髪オッケー。ツインテールオッケー。姫カットの左右よーし。純黒ドレスも完璧。さて、婚約破棄へ向かいますか」
アヤカハウスの二階の部屋の鏡の前でフェイスチェックをした。いつもの黒いだけの魔女服じゃなくて、ヒラヒラフリフリしたゴシックな感じのブラックドレスと、足は走る事を考えてショートヒール。悪役令嬢モードになって人を罵れば、勝手にヒールの長さは伸びるから問題無いの。
「それじゃ、スララ留守番よろしくね。今日のタロットは運命の輪の正位置。大きな変化が訪れる日に相応しいタロットだったわ」
「ハヒ! 拙者のタロット占いは当たるので、今日が良き日になるよう願っています」
「えぇ。今日の戻り時間はわからないから、ニートさんを呼んで先に食べてていいわよ。ここから私の運命の輪が……」
「狂い出す!」
「おい。下手な事を言うんじゃないわよ?」
悪鬼のような顔をしてスララを踏みつけた。スライムの形から変形するスララはマジでビビってるわね。私の悪役令嬢も良い調子ね。
「……その調子、その調子ですアヤカ殿。これで悪役令嬢としても婚約破棄が成功します!」
「当然、婚約破棄は成功させるわよ。王子が滞在する七日間以内にね。それじゃ、お留守番よろしく」
「ハヒ!」
バクーフ森近郊にある私のアヤカハウスの留守番は、スライムのスララに任せて私はバクーフ王宮へ向かいます。
王宮では緊張感が漂っている雰囲気で、とてもピリピリしてる。パーティー会場はとても華やかな会場で、キレイな花や美味しそうな食事が並んでいる立食形式のパーティーなの。王族や貴族の令嬢達は、アイヅ王子とのワンチャン狙いでみんなオメカシしてるわ。
(悪役令嬢に言わせるならオメー、オカシイだけどね)
会場の奥にある王の椅子に鎮座するバクーフ王に挨拶をして、私は今日の主役であるスズカの元へ向かう。
(美しい……)
光沢を帯びた高級な白いドレスに、頭に金のティアラをしているスズカは完全にヒロインモードだ。髪型も耳の左右の後ろを編み込んだ編み込みポニースタイルで、茶色い髪がとても艶やかで美しい。会場の全ての視線を釘付けにしているわ。
「中々良いじゃないスズカ。私も惚れてしまいそうだわ」
「当然よ。私が今日のヒロインだもの。必ず私はアイヅ王子との婚約を成功させる。このワンチャンは私の為にあるのよ」
「……?」
何か雰囲気がいつもと少し違うわ。
(イヤイヤ! 婚約を成功させちゃダメでしょ? その為に私は悪役令嬢ジョブになり、婚約破棄をしないとならない呪いをかけられたんだから……)
そうこうしていると、緑の服を着たアイヅの家臣団が現れて扉の左右に並んだの。
(とうとう、アイヅ王国王子の登場ね)
そうして、アイヅ王国のアイヅ王子が登場した。
その王子の見た目は緑色の短髪ヘアスタイル。服装もグリーンを基調とした王子系燕尾服。王子ながら農業をしてるのか、痩せてるけど筋肉はしっかりしてるのが服の上からでもわかる。
拍手をする左右の家臣団に見送られながら進むアイヅ王子は止まり、こう言ったの。
「バクーフ王国トレビアーン!」
カタモリ王子はバクーフ王国の人間達にトレビアーン! と謎の言葉を言ってアピールしてるわ。
(トレビアーン! て何? どういう事?)
少し、呆気に取られたバクーフ王国の王族や貴族も情熱的な王子が現れた事に拍手を送り出している。私は近くにいるスズカにアイヅ王子の言葉の謎を聞いたの。
「ねぇ、あのトレビアーン! とからジュテーム! とかは何なの?」
「あれはただのアイヅの方言よ。バクーフのような都会じゃ使わないから私達のような世代にはわからない言葉」
「へぇ……方言か。面白いかも」
「ジュテーム! は愛してる。モナムール! は私の愛しい人。トレビアーン! は素晴らしい。これが有名なアイヅの方言ね。相変わらずねアイヅ王子は」
「え? 知り合いなの?」
「まさか。あんな方言丸出しの王子なんかと」
「危なーなななー……年齢的に近いだろうし、幼馴染とかだったら婚約破棄大変だし」
最初から幼馴染とかあり得ないから良かったわ。見知らぬ者同士なら、私も悪役令嬢として堂々と割って入る事が出来る。
このチャンスは全て活かしてみせるわ!
「? スズカ、大丈夫?」
「……えぇ。大丈夫よ」
目を閉じて少し頭を抱えたスズカは、もう一度目を開くと、とてもサッパリした顔で言ったわ。あり得ない事をーー。
「ゴメン嘘。本当は子供の時に遊んだ事もあるの。だから今回の婚約破棄は大変かもね。最初からデスゲームってやつ?」
「ぽえ?」
「アイヅ王子と私は幼馴染なのよ」
嘘ぉ!
どうやら、アイヅ王国の王子はスズカの幼馴染が確定した!
いきなり幼馴染!?
あり得なくない!?
コンテニューも出来ないのに幼馴染登場とか、悪役令嬢が活躍しないとバッドエンドじゃん!
「……マジか。幼馴染を攻略して婚約破棄ルートか。初回から最高のルートじゃない……興奮しちゃうわ……」
会場にいるバクーフ側の貴族の令嬢達にも挨拶しつつ、ゆっくりとアイヅ王子はスズカに近寄る。美男美女の二人は見つめ合い、会場が静かになる。
『……』
アイヅ王子はスズカに、「ジュテーム!」と言っていた。それにスズカはニッコリとヒロインモードで受け、パーティー会場は大いに盛り上がったの。
「初めて婚約予定になったのが、幼馴染のアイヅ王子で良かったです」
「モナムール! 最高だねスズカ!」
しかも、アイヅ王子はスズカの元で跪き、手の甲にキスをするアピールまでしてた!
(婚約破棄どころか、婚約する気マンマンじゃない?)
その盛り上がりとは逆の私は微笑みながらも、心は激怒していた。
(ジュテームが愛してる? そんな方言知った事か。これから私がお前に与えるのは、ジュテームとは真逆の世界……悪役令嬢の力でジワリジワリ……メンタルにバタードングリをブチ込んでやるわよ。何故か婚約に前向きなスズカにもねぇ……)
バリバリ! とバタードングリを口の中で噛み砕き、私は悪役令嬢としてアイヅ王国王子の婚約破棄を心に誓ったの!
悪役令嬢なめんなよ!




