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無限の影  作者: Nick Occam


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第二章 誕生

リックは、動きを止めたままのマーカスへ顔を向けた。


だが、次にその口から出た声は、もはや子どものものではなかった。


その声には、マーカスの膝から力を奪うほどの威圧が宿っていた。


「末っ子。こちらへ来い」


マーカスは即座に従った。


彼はリックの前に立ち、命令を待つように静止した。


「お前の全エネルギーを使え。多元宇宙に散らばる最後の一滴までだ」


「私の意識にある姿へ集中しろ。そして、原初の世界にあった頃の私の肉体を創れ」


「力が足りるかどうかは分かっている。ぎりぎりだろう。だが、選ぶ余地はない」


「お前の動きを、定命の者にも不死の者にも悟らせるな」


「母上があとでお前を戻してくれる」


「仰せのままに、父上」


マーカスの身体が、暗い紫の炎に包まれた。


その炎は、熱くはなかった。


焼くのではない。


彼の存在そのものを、喰らっていた。


肉も。


血も。


骨も。


すべてが一瞬で灰へ変わった。


彼が立っていた場所には、同じ紫のエネルギーで編まれた、幽かな輪郭だけが残っていた。


それは破壊の炎ではなかった。


犠牲の炎だった。


「父上……あと少し……」


輪郭だけになったマーカスの声には、人ではありえないほどの苦痛が滲んでいた。


幽かな両手が胸の前で重なり、渦を形作る。


その中心から、濃い霧に包まれた新しい肉体が、少しずつ姿を現し始めた。


「父上……あなたの身体を創るのは、あまりにも重い。私の力では、足りないかもしれません……」


「止まるな、末っ子。すぐに終わる」


運命に操られた身体が、新たに生まれた肉体へ歩み寄り、そっと触れた。


霧が晴れる。


そして、少年の身体は――消えた。


その瞬間、リックは自分がいなくなったのだと思った。


手がない。


足がない。


目を閉じた時にあるはずの、慣れ親しんだ暗闇さえない。


ただ、見知らぬ重い肉体だけがあった。


まるで氷の水の中へ引きずり込まれるように、リックはその中へ吸い込まれていく。


彼の幼い身体は、新しい形とひとつになった。


「最後の仕上げだ」


運命は静かに言った。


「私の意識がこの身体を離れた後、身体はリックに従わなければならない」


「ならば、彼の魂を私の肉体に結びつける必要がある」


マーカスの輪郭が、力尽きたように草の上へ崩れ落ちた。


荒い息だけが残る。


「ありがとう、母上……これは、きつかった……」


そう囁くと、彼は意識を失っていった。


『休みなさい、息子。よく頑張ったわ』


優しい女の声が、彼の頭の中を撫でるように響いた。


薄れていく霧の中から、彼が現れた。


時代の夜明けに、最強の定命者と呼ばれた存在。


今そこにいたのは、老人ではなかった。


四十を少し越えたほどの男だった。


背は中ほど。


だが、その身体は異様なほど鍛え上げられていた。


古びて裂けた白いシャツの下で筋肉が動くたび、それだけで死の気配が漂う。


脂肪は一片もない。


あるのは鋼。


縄のように張り詰めた筋肉。


そして、数え切れない傷跡。


それらは、終わりのない戦争の地図のように彼の身体を覆っていた。


特に腕には多かった。


噛み傷。


貫かれた跡。


斬られた跡。


手首に近づくほど、傷の網は濃くなっていく。


だが、短い革の手袋に包まれた両手だけは、不気味なほど傷ひとつなかった。


髪は乱れていた。


伸びた無精ひげと口ひげが、彼に野生の獣のような印象を与えている。


だが、目は違った。


その目には、世界さえ沈めてしまうような深淵が凍りついていた。


彼の周囲の空間が、かすかに震えていた。


まるで生き物が、主を認めているかのように。


マーカスは片目を開け、原初の姿を取り戻した父を見た。


その瞬間、全身に冷たい汗が滲んだ。


魂まで凍らせるような眼差し。


頭よりも太く見える首。


人のものとは思えないほど広く、厚い背中。


そして、腕。


その腕は、どんな武器よりも恐ろしかった。


「父上……あなたは、恐ろしい」


マーカスはようやくそれだけを絞り出した。


「昔の身体に戻って、どのようなお気分ですか」


その声はもう老人のものではなかった。


それでもリックにとっては、あの静寂の中で最初に語りかけてきた、あの「おじいちゃん」の声のままだった。


「この世界に初めて現れてから、私は一度も敗れたことがない」


彼は淡々と言った。


そこに自慢はなかった。


「この傷はすべて、お前たちの母を守った代償だ」


「私は反射的に恐怖を与える。常に戦えるように生きてきた、その代償でもある」


彼は肩を動かし、久しく忘れていた肉体の感覚を確かめるようにした。


「そして、この器だが……一言で言えば、弱い」


わずかに息を吐く。


「だが、今回の目的には十分だ」


それから、彼は身体の内側に閉じ込められたリックの意識へ呼びかけた。


「坊主。どうだ。見えるか」


「み、見えにくい……」


少年の声は、かすかだった。


痛みに満ちていた。


「光が……すごく、まぶしい……身体も……押しつぶされているみたいで……動けない……」


「それでいい。身体はまだ私が動かしている」


運命は静かに言った。


だが、その声に柔らかさはなかった。


あるのは、重い必要だけだった。


「よく聞け」


「あちらの世界では、私はわざとゆっくり動く」


「感覚を拾え。筋肉の動きを覚えろ。ひとつひとつの動き、ひとつひとつの術を見逃すな」


「戻った後、私はこの身体をお前の魂と意識に合わせる」


「だが、今覚えたことは、もう一度、お前自身の記憶を頼りに身につけ直すことになる」


「おじいちゃん、分かりました」


リックは必死に答えた。


「ちゃんと、全部覚えます」


「覚悟しろ。最初の授業だ」


運命は続けた。


「絶対隠蔽術は、現実の織り目の裏に身を隠すための術だ」


「長い距離を移動する時にも使える」


「だが、別の世界へ渡るには少し向かない」


「向こう側を感じ取れる者が必要になる」


運命はオークの幹へ手を触れた。


リックは、子どもたちの声を探ろうと耳を澄ませた。


沈黙。


声は消えていた。


「いいだろう。ならば、荒いやり方でいく」


彼はわずかに顔を向けた。


リックに話しているようでもあり、木そのものへ語りかけているようでもあった。


「聞け、リック」


「この世界のすべてには運命がある」


「ならば、対象の魂へ届かせることもできる」


「今からそれをやる」


彼は人差し指で、樹皮を軽く押した。


声は低かった。


静かだった。


だが、その静けさの中には、世界を跪かせる力があった。


「よく聞け、木よ」


「向こう側に、お前の分け枝が伸びていることは分かっている」


「だから抵抗するな」


「別の次元へ続く道を開け」


「お前なら、私が何者か分かるはずだ」


「私の故郷には、根源の根から伸びた森がある」


「消されたいわけではあるまい」


木が震えた。


樹皮が波打つ。


そして幹の中に、闇へ続く洞のような道が開いた。


即席の連れ合い。


古き運命の魂。


そして、怯えきった五歳の子どもの意識。


その二つは、ひとつの身体で闇の中へ足を踏み入れた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。


第二章で描いた「犠牲」の一場面をイメージした、マーカスのビジュアルです。

彼の内側から噴き出す紫の力と、静かな覚悟の空気を感じていただければ幸いです。


挿絵(By みてみん)


引き続き、見守っていただけますと嬉しいです。

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