再会
トリデリアの使者が戻ってきたのは、夜も明けるころだった。一体何時間話をしていたのか。そんなに話をすることがあったのかと思うが、それでも使者は失礼のないように通っていただかねばならない。夜明け前にたたき起こされた俺は、何とも言えぬ倦怠感に苛まれながら使者を見送った。救いであったのは、エルドライが事前に彼らが通ることを教えてくれたので、通ろうとして通れませんでしたというような、恥ずかしいことをしなくて済んだことだ。
夜が明けきると、エルドライ側の使者がやって来て、本日正午に、大帝陛下から申し渡されることがあるので、出仕するようにという口上があった。やれうれしや、戦いが終わる。これで王都に帰ることができると喜んでいると、まだそうと決まったわけではないので、油断は禁物だとシェイスから窘められてしまった。ちょっとくらいぬか喜びさせてくれてもいいじゃないか、とは思うが、それは顔に出さないでおいた。
正午前に本陣に赴く。場所の問題だろが、供の者は一人だけという沙汰があったので、シェイスを連れていくことにした。戦力的に言えば親父かオジキなのだが、まさかここで俺を襲うこともないだろうということで、彼が選ばれた。
陣所に到着すると、家来は別室に通され、大帝と皇帝の許には一人で行かねばならない。俺は何度も通っているので、陣所の内部は熟知しているので、迷わずに行くことができるが、他の王たちは初めてここに来る者もいて、エルドライの者にどう行けばいいのかを尋ねる者が多かった。これも王たちに心理的圧力をかける狙いがあるのだろうが、果たしてこれは効果的なのだろうか。誰か先導を一人置いて、さあ、私の後ろについてきてくださいと言えば事は足りるのだが、それをする気はさらさらないようだ。
ここはひとつ俺がそれを担ってもいいが、何となく気恥ずかしい。それに、王たちも頑として誰かに聞くということをしない。案内されて歩き出している王の後ろに付いて行こうともしない。そういうのが王としての振る舞いなのだろうが、それとも、幼い頃に親に言われた、知らない人について行ってはいけませんという教訓を頑なに守り続けているためか。まあ、どっちでもないような気がする。
その中で一人、小柄な男がオロオロと慌てているのが見えた。確か……そうだ、ホリネシア王だ。エルドライの城で会った子供だ。子供ながらちゃんと鎧を装備していて、なかなか可愛らしい。ただ、その動きはかなりおかしい。王たちがエルドライの兵士たちに尋ねるべく作っている列の後ろに並ぶが、自分の番が来ると、サッと逃げてしまう。で、また別の列に並ぶが、自分の番が来ると、また逃げる。どうしたのだと思わず彼の許に行って話しかける。
「どうなさいました?」
「ど……どうもいたさぬ」
「何かお困りごとですか?」
「そなた、いや、き、貴公には関係ないことじゃ」
「左様ですか」
見ると、足が震えている。もしかして……。
「お手洗いを、お探しですか?」
「……」
「すぐ近くですよ。案内しましょう」
そう言って俺は歩きだす。彼はしばらく俯いていたが、やがて、その姿勢のまま俺の後ろをついてきた。
「ここですよ」
扉を開けてやる。少し狭いのは仕方がない。まあ、子供なので問題ないだろうと思っていたそのとき、彼が蚊の鳴くような声で呟いた。
「よ、鎧……」
「ああ、鎧をしていては、難しいですか」
……きっと大きい方だなと察した俺は、鎧を脱がせてやる。初めて見る形で、紐が複雑に絡んでいる。何とかそれを取り外すと、彼は脱兎のごとく中に飛び込んだ。限界が近づいていたらしい。あのまま粗相をしていれば、それこそ恥をかいていたところだ。我ながらいい仕事をしたと思い込むことにする。
ただ、もう一度これを着せろと言われてしまうと、それは難しい。さてどうしようかと考えていたそのとき、たまたまエルドライの兵士が通りかかった。俺は彼を呼び止める。
「すまないけれど、この鎧を着せることはできますか?」
「これ……でございますか? 恐れながら、ユアザライ王様の体には合わぬと心得ますが……」
……面白いことを言う男だ。エルドライにもこんな粋な男がいたとは驚きだ。そうではないと説明し、中で戦っている小柄な王の物であることを説明すると、
「ああ。で、あれば、私は難しいですが、女官たちならば、できる者もおりましょう。よろしゅうございます。私がちょっと行って、呼んで参りましょう。あ、ユアザライ王様におかせられましては、まずは大帝陛下、国王陛下の許においで下さい。中にいらっしゃる御方には、私どもがお連れ申します」
……おお、粋なことを言うだけあって、いい人だ。であれば、すみませんがよろしくお願いしますというと、彼は丁寧に一礼してその場を去っていった。
さて俺も大帝の許に向かおうとしたそのとき、扉が開いた。見ると、ホリネシア王が顔だけ出してこちらを見ている。何だと思って見ていると、どうやら彼は、下着をつけていないようだった……。




