14. 両雄は並び立つこと無し
「くっくっくっ」
醜悪な肉塊を揺すりながら、グスカは込み上げてくる笑いを堪え切れない様子だった。見せつけるように、二体の人形を握り潰した両手をゆっくりと開いていく。
ウィルは目にした。グスカの手の平に乗る異様な姿をした人形を。
元々、二体であったはずの粘土製の人形は互いの肩から腰にかけてくっつき、一体化した奇妙な造形に作り替えられていた。
まさにこのとき、ここより離れたところにある小さな応接室では、ラカンとベネシストがこの人形と同じ姿になっていようとは。
グスカが持つ人形使いの能力は、人間の支配のみならず、その存在すらも奔放気ままに作り替えることが可能なのだった。
「どうだね? この彼ら──いや、今は二人の人間が一人になったのだから、“彼” と一人称で呼ぶべきか──この “彼” の姿を作り替えた私の力、まさに神そのものではないかね?」
人形屋敷の当主はまるで美酒に酔いしれているようだった。
片や、黒衣の吟遊詩人は黙したまま相手を見据えるのみ。
「お前が神か。ならば、それは狂った神だ」
「ハッハッハッ、いいとも! たとえ狂っていようとも、私が神であると認めてくれるならば光栄だ! 今、私の力はこの町ひとつ──いや、今はお前のせいでこの屋敷内にしか及ばないが、いずれは一国を、やがては大陸全土を、さらにはこの世界のすべてを私が管理、統治する! そうすれば誰もが争うことなく、平和に暮らせる理想郷が訪れるだろう! どうだね? これほど素晴らしいことはないと思わぬか?」
そう言ってグスカは手にしていた奇妙な人形を机の上に立てた。気に入った玩具で遊ぶ子供のように上機嫌な様子だ。
対してウィルはマントを跳ね除け、右手を突き出した。
「狂った神が人間の平和を保証できるのか? 飽きられた人形は捨てられる運命。神に見捨てられた人間はどうなる?」
「ふん、知ったことか! 今でさえ、人間は神に見捨てられているようなものではないか」
グスカの言葉にウィルは首を横に振った。
「否。神とは母のような存在だ。見守ることはあっても、見捨てることはしない。そして、その子たる人間は多くの困難に遭いながらも成長を続け、やがて自立するだろう」
「すべての人間がそうなれるわけではない」
「そうであっても、だ」
ウィルはそのまま呪文の詠唱に入った。魔力が右手に集束される。
だが、グスカにはまだ切り札が残されていた。上着の内ポケットから一体の人形を無造作に取り出す。
それは他の人形と同じく粘土で作られており、白いドレスを着た若い女性を型取っていた。
それが誰の人形であるか、ウィルは瞬時に看破していた。やむなく呪文の詠唱を中断させ、発動しようとした魔法を無効する。
手出し出来なくなったウィルに、グスカはまたしても身体を揺すりながら、悪魔のようにほくそ笑む。
「おや、如何した? このまま降参か?」
「………」
「貴様が察した通り、人形を傷つければ対象の人間本体も傷つく。戦いに対しては冷徹な男かと思っていたが、意外と甘さを捨て切れぬようだな。所詮は人間ということか」
「卑劣な……」
人形はサリナのものに違いあるまい。わざわざ彼女をこの舞踏会に招いたのは、自分の影響下に人質を置くためだったのだ。
こちらから仕掛けられなくなったウィルは相手の出方を窺った。表情に焦燥感は見られないが、その内なる葛藤をグスカは見抜く。
「心配するな。お前の相手はすでに用意してある。それも特別製をな。いやはや、私の作品の中でも傑作と言えるだろう。気に入ってもらえると作った甲斐があるというもの」
そう言うや否や、先程、ズウが退室していった扉から、今度は黒い影が入り込んで来た。
黒い影、というのは決して比喩ではない。全身が黒尽くめであるためだ。
頭には黒い鍔広の 旅帽子、そして闇夜で染め上げたようなマント。上下の服装も、履いているブーツも黒一色で統一されている。
それはまるで──
「くっくっくっ、驚いたかね?」
それは紛うことなく、ウィルと瓜二つの人物──もう一人のウィルであった。
「うあああああっ!」
グスカによって人体を再構成されたラカンとベネシストは、パニック状態に陥っていた。
無理もあるまい。何の前触れもなく、二人の肉体がひとつになってしまったのだから。
特にラカンの錯乱ぶりは酷かった。右手に持ったままの《刀》を無茶苦茶に振り回しているせいで、周囲に及ぶ被害も甚大だ。サイドボードに置かれていた人形を薙ぎ払い、勢い余って刀身を壁にまでめり込ませる。
その足下にいるサリナは身体を丸めるようにしながら、うずくまって己を守るので精一杯だった。下手に立ち上がれば、ラカンが振り回している《刀》の餌食になりかねない。
とは言え、このままでもやり過ごせるかどうか。隙を見て、廊下へ逃げるのが得策に思えるが。
ラカンと一体化してしまったベネシストもまた、猛烈な精神的ダメージを受けていた。
何しろ頭が二つ、腕が二本、脚が四本という奇形だ。しかも二人の人間の意識が独立しているせいか、互いに反対側の半身は自由に動かせない。ベネシストの思い通りになるのは左側の首と手足だけだった。
「お、落ち着いてください、ラカン殿!」
それでも何とか暴れるラカンを止めようと、ベネシストは必死になって抵抗を試みた。
だが、剣士としての経験ならまだしも、力という点においてはラカンの方に分があり、また無理に抗おうとすれば全身が裂けるような痛みに襲わてしまう。
そんな修羅場へ飛び込んで来た男がもう一人いた。
「な、何だ、こりゃ!?」
駆けつけたのはサリナを救おうと屋敷内を捜し回っていたロムだった。背中に受けた傷は深く、まともに動けるような状態ではない。だからと言って、連れ去られたサリナを見捨てられなかった。
ところが、サリナの悲鳴を耳にし、ようやく探し当てた室内で目撃した凄まじい光景に、さすがのロムでさえもギョッとしてしまう。
暴れ続けるラカンとベネシストの、あまりにも衝撃的な姿に言葉がない。うっかり悪夢にでも迷い込んだような最悪の気分だった。
「ろ、ロムさん!」
床から顔を上げたサリナは、駆けつけてくれたロムの姿を見て、今にも涙を零しそうになった。
てっきりロムは、ベネシストによって殺されたとばかり思っていたのだから無理もあるまい。同時に、救いの主が現れた安堵感もあった。
それまで一人狂ったように暴れ回っていた血走った目でラカンが振り返った。
「お前は!?」
ロムの無事に気づいたラカンは愕然とした。真横にあるベネシストの顔へ疑惑の目を向ける。
非難がましい視線に、ベネシストの口許がキュッと引き締められた。
「ラカン殿、これ以上の無法は、もうやめるべきだ」
「ふざけるな、ベネシスト! 誰に言っていやがる! この裏切り者がぁっ!」
サリナを助けようとしたばかりか、始末しろと命じたロムまで何ともなかったことに、ラカンは頭から湯気を立ち昇らせるくらい逆上した。
衝動に駆られたラカンは、持っていた《刀》を振り上げる。それはベネシストと一体化している以上、自らに斬りかかるという狂気の沙汰でもあった。
「死んで詫びろっ!」
「くうっ!」
ベネシストは使える左手を精一杯伸ばし、ラカンの右手首を掴んだ。自分が使える両脚で踏ん張る。
両者の力の拮抗により、《刀》が二人の間で小刻みに震えていた。ラカンの押し込もうとする力はベネシストを凌駕しかけるが、そうはさせじと歯を食いしばりながら懸命に堪える。
「い、今のうちだ! 拙者に構わず、二人で逃げろ!」
サリナとロムの身を案じ、ベネシストは即座に行動するよう促した。
けれども、二人は素直に従えなかった。命の恩人をこのまま放っておいていいものかと躊躇する。
すると、それを隙と見逃さなかったラカンが頭を振るようにして、ベネシストのこめかみに頭突きを喰らわせた。
「がっ!」
ベネシストはまともに一撃を喰らい、その場に倒れた。
ところが、ラカンの身体もベネシストと繋がっているため、床へ共々に転倒してしまう。これはラカンとしても誤算だったに違いない。ラカンとベネシストは床の上でもつれ合った。
「ベネシスト!」
サリナは思わず、ベネシストの名を呼んでいた。これまでのことを改心したベネシストが、自分を助けるために身体を張ってくれている。安否が気にかかった。
「早く行け! 行くんだ!」
危うく意識が飛びそうになったベネシストであったが、どうにか気絶することだけは免れた。
だが、ラカンはなおも《刀》を用いて、ベネシストを黙らせようと躍起だった。身体がひとつに繋がっているため、まるで自殺を図る一人芝居でもしているように見える。
ラカンと異心同体である以上、この不毛な争いからベネシストが逃れる術はなかった。せめてサリナには、ここから離れてもらい。窮地に立たされながらベネシストはひたすら願った。
「サリナ殿、拙者のことはいい! だから行ってくれ!」
「でも……」
「このままでは……持ち堪えられそうにない……早く!」
「うるせえっ! 黙れ、てめえ!」
二人の揉み合いは、いつ果てることなく続いた。すでに泥仕合と化している。醜い争いだ。
何か自分に出来ないか、とサリナは必死に考えた。ラカンを止める方法を。
すると、その腕を掴まれた。舞踏会場のときと同じ。ロムだ。
「行くぞ」
ロムは短い言葉で促した。
しかし、とサリナは首を横に振る。
「まだ、ベネシストが!」
「どうして、ああいう姿になっちまったのかオレは知らねえが、あんなのをどう助けられるって言うんだ? オレたちにはヤツの気持ちを受け取ってやることくらいしか出来ねえだろ? それはここから脱出することじゃねえのか?」
ロムは掴む手に力を込めながら、サリナを説得した。
サリナは迷う。ベネシストを見ると、目がこちらに訴えかけていた。一瞬、躊躇し、うなずく。
「分かった……」
「済まねえな、ベネシスト! お前も死ぬんじゃねえぞ!」
見捨てることに後ろめたさを感じながら、ロムはサリナの手を引き、応接室から廊下へと駆け出した。
サリナは最後、ベネシストの姿をせめて見ようと振り返ったが、ソファの陰に邪魔され、それすらも叶わなかった。ただ、心の中で無事を祈る。
「くそぉぉぉぉぉっ!」
ベネシストと揉めているうちにサリナに逃げられてしまったラカンは鬼のような形相で怒り狂った。さらに暴れ方が激しくなる。
「サリナ、待てー! 戻って来い!」
ラカンは追いかけるべく立ち上がろうとしたが、またしてもベネシストによって阻まれた。
「行かせるものか!」
「てめえ、邪魔するな!」
ラカンは再び、ベネシストに斬りかかった。ベネシストはそれを横に身を投げ出すようにして避ける。
身体同士が繋がっているため、当然ながら、その反動はラカンにまで及んだ。全身を丸ごと引っ張られるようにして、ラカンの攻撃は封じられてしまう。
「チクショウ!」
半身しか自分の思うようにならず、フラストレーションを溜めたラカンは悪態を吐く。今、武器を持っているのは自分であって、圧倒的なアドバンテージがあるはずなのに。
だが、ベネシストもまた、このままではいずれ殺られる、と考えていた。逆転を狙うには、こちらにも武器となるものが必要だ。無意識に指が床の上を這った。
「――ッ!?」
思いがけず、絨毯の上で何か固い物が指先に触れた。ベネシストは反射的に、それを掴もうとする。
「ぬうううううっ!」
その刹那、ラカンは半ば強引に身体を起き上がらせようとした。床についていたベネシストの背中が浮き上がる。
「くうっ……!」
ベネシストは抵抗しようとしたが、上手く行かなかった。ラカンの脛を蹴っても怯みさえしない。
「死ねえええええっ!」
ラカンはベネシストの胸に《刀》を突き立てようと待ち構えていた。
「――っ!」
まだ指先に触れた何かをベネシストは拾い上げられていなかった。身の危機に瀕し、もう一度、必死になって手を伸ばす。
その眼前に凶刃が迫った。
ザクッ!
次の瞬間、おびただしい鮮血が噴き上がり、視界が暗転した。
その頃、グスカの蒐集展示室では、二人のウィルが対峙していた。
どう見比べてみても同一人物にしか思えない。まるで合わせ鏡のようだ。
両者は、その鏡へ近づいて行くように距離を縮める。間合いを図っているのだろう。
すると別に示し合わせたわけでもないのに、どちらも同じタイミングで立ち止まった。
「クックックッ、どうだね? 私の作品は? 我ながら最高傑作に仕上がったと思うが」
グスカは自慢するように胸を反らした。と言っても、せり出すのは腹の方だが。
人形に生命を吹き込むこの男は、ウィルの複製すらも作り上げたというのだろうか。
「………」
ウィルは瓜二つの自分を前にしても、表情は普段通りだった。それは複製されたウィルも同様だ。何を考えているのか、他人には絶対に悟らせない。
双方とも隙を窺っているようだった。だが果たして、この魔人たちに隙が生じることなど有り得るのか。
長く重苦しい沈黙が蒐集展示室を支配した。
「さて、自分自身を相手にしても勝てるかな?」
見た目だけでなく、剣の腕前も、魔法の力も、もし互角ならば両者による戦いの結末は相討ちしかないだろう。それを知ってか知らずか、どちらのウィルも動かなかった。
それとも動けないのか。
外では、雪がしんしんと降り続いている。
ガラス窓を通して、外の冷気まで伝わって来るかのようだ。
立ち尽くす二つの美影身。
これを壮絶なる死闘の前触れだと気づかぬ者ならば、この場面に遭遇した途端、感嘆の吐息を禁じ得なかっただろう。
ウィル対ウィル。
向かい合う美しき二人の魔人。
───
何処かで積もった雪が重みに耐えかね、ドサッと落ちる音がした。この緊迫した静寂の中だからこそ聞き取れた細やかな物音。
バッ!
それが死闘の幕開けを告げる合図であったかのように、二人のウィルは寸分の狂いもなく同時に動いた。これもまた鏡のよう。両腕を覆い隠していた黒いマントが跳ね上げられる。
「ディロ!」
短い呪文の詠唱。またしても同じタイミングで、異口同音に重なる。
両者の右手より 魔導光弾 が放たれた。
どちらのウィルも攻撃魔法の発動後、その身をマントで守るようにした。その直後、互いに発射した 魔導光弾 が着弾する。
バチバチバチッ!
二人のウィルの身体が一瞬、光ったように見えた。直撃した 魔導光弾 を抵抗したのだ。発光は魔法を弾いたときに生じる。自身を守る魔力が防御膜となり、反発し合った結果だ。
人間──ひいては世界に存在するすべての生き物には、その能力の大小に違いこそあれ、目には見えない魔力が具わっているという。
魔力こそが魔法を使うときに消費されるエネルギーであり、と同時に、受けた魔法に対する防御力にも成り得る。
受けた衝撃に多少よろめいたものの、ウィルは 魔導光弾 の抵抗に成功し、ダメージを免れた。それは即ち、ウィルの持つ魔力の高さを窺わせる証左でもあった。
しかし、グスカが作り上げた複製ウィルもまた、抵抗に成功していた。
どうやら複製ウィルは外見が似ているだけでなく、魔力の高さも本人と互角であるらしい。
「まずは小手調べといったところか? 威力の低い魔法で攻撃し、それを防いでみる――なかなか慎重ではないか。しかし、これで身をもって実感したのではないかな? 私の作品は完璧だ。完全にお前を複製してある」
「どうかな?」
得意になって囀るグスカに、ウィルは疑問を投げかけた。
何らかの自信があるのか、それともハッタリか。結果からも魔力が互角であるのは明白にも拘らず。
一瞬、グスカは笑うのを中断しかけたが、そのまま嘲り続けた。どうせ出任せで言っているのだ、と見なして。
「ならば、存分に力試しをしてみるがいい。言っておくが、複製はただ、お前の攻撃を真似ているわけではないぞ。お前と同じように思考し、行動しているのだ。だから、自然と同じ行動をすることになる。お前が複製を斃そうとすればするほど、その力は自分へと跳ね返り、お前も傷つかずにはいられなくなる!」
「では、試させてもらおうか。お前が最高傑作と称する作品の出来栄えを」
ウィルは腰に差してあった 短剣 を抜いた。すぐさま、その刀身は眩い光を放ち、薄暗かった室内を明るく照らし出す。
それこそ伝説の中で語り継がれる《光の短剣》。世界に二つとない、ウィルの相棒だ。
だが、複製のウィルもまた、腰のベルトから 短剣 を抜いた。驚くべきことに、刀身が同じように光り輝く。
唯一無二であるはずの《光の短剣》が、もう一本、実在しようとは!
「どうだね、驚いたかな? お前を複製した以上、武器も複製させてもらった。もちろん、伝説の武器であることは見抜いてある。大事に奥の手を取っておいたのだろうが、私の目に誤魔化しは効かない」
「………」
「残念ながら、私の手に掛かれば、たとえ伝説の武具であろうとも造作なく再現可能だ。ついでに言っておくが、その商売道具である《銀の竪琴》もな」
グスカは勝ち誇ったように言った。
魔法の実力が伯仲しているとなれば、ウィルが優位に立てるのは所持している武器の優劣であったはず。しかし、それすらも複製されてしまうとは。
あらゆる手段に対応されてしまったウィルには最早、勝機はないのか。
斯くして万策尽きたかに思えたウィルだが、その美しい相貌に翳りの色は一切なかった。深淵にも似た黒い瞳が、写し鏡のような、もう一人の自分を直視する。
「ところで、本当にすべてを忠実に再現してあるのか?」
ウィルは闘志を失うことなく、挑むように《光の短剣》を構えた。刀身の光が、なお強度を増す。まるでウィルの戦意の高まりに呼応するかのように。
対する複製ウィルも同じ姿勢で次の攻撃に備える。
魔法対決に続いては、武器を手にしての斬り合いだ。
「――ゆくぞ」
意を決したように、黒い影が双方より走り出した。そのスピードまでもが、まったくの同一。
二つの影が交錯する刹那、剣と剣とが討ち鳴らされる。
カキィィィン!
駆け抜けた影は、互いの位置を入れ替えて立ち止まった。
手応えを窺うように振り返る吟遊詩人。
だが、複製ウィルは平然としており、その《光の短剣》もまた、光を損なうことはなかった。やはり伝説の武器さえ完璧に複製されていたらしい。
「どうだね、自分自身と戦った感想は?」
グスカは興味深く尋ねた。
ウィルはうなずく。
「なるほど」
その答えが複製品の完成度を認めているのだと判断し、グスカは満面の笑みを浮かべた。改めて人形作りの腕前に自信を深める。
しかし、あとに続いたウィルの言葉に、グスカが驚愕することになろうとは。
「どうやら失敗作だったようだな」
「何だと!?」
最高傑作にケチをつけられ、すぐさまグスカの顔は険しくなった。自分の作品をけなされるのは、自身を侮辱されるよりも、これ以上ない恥辱だ。
「ふざけたことを言うな! 私が作った《光の短剣》は完璧だ!」
グスカは複製ウィルの《光の短剣》を指差しながら、顔を真っ赤にさせて声を荒げた。確かに、再現された《光の短剣》は本物の攻撃を受けても刃こぼれひとつ起こしていない。
だが、ウィルの表情はこれまで通り冷静さを崩すことなく、複製ウィルに向けられていた。
「ならば見ていろ。次で終わりだ」
再び攻撃の構えを取るウィル。複製ウィルも同じく攻撃態勢に移る。
またしても仕掛けのタイミングは鏡を見ているように重なった。疾風の如く駆け抜けた黒い影が跳躍し、空中で交錯する。
そのとき、グスカはすぐさま異変を見抜いた。これまで一挙手一投足、まったく異なることのなかったウィルと複製ウィルの動きに初めて差が生じたのを。
一方は交錯後、これから羽根を休めようとする鳥のように優雅な着地をし、もう一方は空中でバランスを崩して頭から落下する。それはグスカにとって想定外の結末だった。
「バカな……!」
グスカが呻いたのも無理はなかったか。同じ技量の者が戦えば、引き分けか相討ちになるのは当然の帰結。
しかし、決着は残酷なくらい、あっさりと着いた。片方の敗北という形で。




