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俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
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1章10 Shoot the breeze ⑥



 まるで見下してバカにするような弥堂の態度に希咲はムッとなり、水無瀬は首を傾げる。



 弥堂はそんな彼女らの眼前に左右の腕をそれぞれ差し出してやった。



 水無瀬は不思議そうにしながらもその手をとりギュッと握る。


 対して希咲は自身の前に出された弥堂の手をぺちんと叩き落としてから、続いて水無瀬が握る方の手もバチンっと叩き落とした。



 叩き戻された自身の手の甲を擦りながら弥堂は心中で嘲笑う。



 折れるものなら折ってみろというつもりで腕を差しだしてやったが、所詮小娘どもなどこの程度だ。エルフィーネとは違う。彼女は容赦のない女だった。



 弥堂はクラスメイトの女子と昔の女との頭のおかしさを比較して、自身の師の優位性を確信する。


 そして希咲は超常的な女の勘でなにかを察知し不快感を露わにした。



「なんっかムカつくわね。またロクでもないこと考えてんでしょ?」


「そんなことはない。キミの勘違いだ」



 あらぬ疑いをかけられるが最早平静は揺らがない。



 地獄のような経験だったがそこから得られるものもあった。



「ホントかしら? まぁいいわ。それよりさっさと謝ってよ」


「ん? あぁ、そういえばそんな話だったな」



 惚けるようなことを言う彼に食って掛かろうとした希咲だったが、それよりも先に弥堂が口を開く。



「二人とも悪かったな。俺の配慮が足りなかった。どうか許してくれ」



 まさか素直に謝るとは思っていなかったので希咲は虚を突かれぽかーんと口を開き、水無瀬は瞳を輝かせた。



「えへへー。いいよー? 私もゴメンねー」


「ふ、ふんっ。わかればいいのよ! もうしないでよねっ」


「あぁ、気を付けよう」



 赤ちゃんでいることを強いられる日々に比べれば、この場で小娘どもに口先だけの謝罪をすることなど何の痛痒にもならない。


 現状以上の地獄を知っていれば、脳を麻痺させることによってどんな苦境も乗り切れるのだ。



 そしてあの地獄から抜け出すために、メンタル的なものだけでなく新たな『技術』を習得することも出来た。


 その時の『技術』が今日のこの場まで自分の生命を繋ぐほどの重要なものになるとは人生とはわからないものである。



 弥堂は目の前の少女たちをほったらかして郷愁の念にも似た感傷を抱きそうになり、自嘲気味に鼻から息を漏らすと自制をするために記録を切る。



 なにはともあれ、弥堂が謝罪をしたことで手打ちとなり、上手くみんなで仲直りが出来たと満足した水無瀬はむふーと鼻息を漏らし、弥堂に謝らせたことで何故か満足感を得た希咲もむふーと鼻息を漏らす。



 しかし希咲はすぐにハッとなった。



 このクズ男がこんなに素直に非を認めるなどありえない、と。



 昨日もそうだった。



 こうやって油断させておいて突然またわけのわからないことをぶっこんでくるのだ。



 対面の男に対して警戒感を募らせるが、彼女は失念をしていた。



 この場には弥堂以外にも突然わけのわからないことをぶっこんでくる人物がいることを。



「じゃあ、仲直りのナデナデしようね!」


「へ?」

「あ?」



 水無瀬は疑問符を浮かべる友人二人にニッコリと笑顔を向けた。



「今度は優しくナデナデしてあげてねっ」


「何言ってんだお前」


「え? やり直しだよ? ちゃんとナデナデしてなかよしになろうね」


「ちょ、ちょっと待って! あたしヤなんだけど!」


「えっ⁉」



 こんな男にもう二度と触られたくないと希咲が当然の要求をすると、水無瀬はまるでそんな可能性があることを1ミリも考慮していなかったとばかりに目を見開く。



「なんでビックリしてんのよ。ヤに決まってるでしょ!」


「え、あっ…………そうだったんだ……ごめんね……」


「ゔっ……⁉」



 希咲としては正当な訴えなのだが、表情を曇らせた彼女の顔を見て罪悪感が湧く。



「私よかれと思ったんだけど……気付かなくて……ごめんなさい……」


「くっ……!」



 シュンと落ち込む水無瀬の姿に希咲は苦し気に呻く。



 そしてしばし逡巡すると苦渋の決断を下し弥堂の方へグッと頭を突き出した。



「――よし、こい……っ!」


「こいって……お前な……」


「よしこい!」



 勢いで何かを乗り切ろうとする彼女に弥堂は白んだ眼を向ける。



「一体なにがお前をそうまでさせるんだ?」


「うっさいわねっ! あたしだってあんたなんかに触られるのイヤなんだからさっさと済ませてよ!」


「甘やかしすぎじゃないのか?」


「カンケーないでしょ! はやくしなさいよ!」



 本意ではないという彼女の言葉通り、弥堂へ向けられる希咲の目は殺る目だ。


 どうしたものかと視線を巡らせると期待で瞳を輝かせてこちらを見守る水無瀬がいる。



 弥堂はもう面倒になり彼女らの気の済むようにしてやろうと決め、希咲の頭に手を置く。



 そして、以前にルビアに『女の髪の撫で方』なるものを教わったなと思い出しそれを実行しようとしたところで、希咲の頭にグッと手を押し戻される。



 彼女を見れば下から睨めつけながら全身の力でこちらの手を押し返してきていた。



 せめてもの逆襲のつもりなのかは知れないが、弥堂は何故か彼女の態度にカチンときた。



 こちらも腕にグッと力を入れ彼女の頭を抑え付ける。



 すると希咲はさらに力をこめて弥堂の顏へ自身の顏を近づけるように押していく。


 弥堂はそんな彼女の頭を指に力を入れて掴んだ。



「あによ? ちゃんと撫でなさいよ。やり方わかんないの? このヘッタくそ」

「お前の髪がベッタベタだからな。ちょっとでも動かしたら髪がグチャグチャになりそうだ。気を遣ってやっているんだ。ありがたく思え」


「はぁ?」

「あぁ?」



 厭味のつもりでそうは言ったが、一応は言葉通りまた彼女の髪型を崩しては何を言われるかわからないと、その部分に気を遣って手加減しているので状況は希咲が有利だ。



 彼女が徐々に弥堂の手を押し返していき、現在は至近距離で睨み合う不良同士のような図になっている。



 その光景を周囲は面白げに鑑賞している。



「なにこの面白コンテンツ。ののか的には捗るから全然アリなんだけどー」

「……今朝まではこのピリつき具合が恐かったけど、今は一周まわって面白い、かも……?」

「そうね。ただの異物かと思っていたけれど、これはこれでアリかもしれないわ。まだ議論の余地はあるけれど……」

「どんな意見があがればその議論に決着がつくのよ」



 どう見ても険悪な二人を水無瀬が楽し気にニコニコと見守る光景を、さらに周囲の者が見守る不思議空間が展開されていた。



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