表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は普通の高校生なので、  作者: 雨ノ千雨
1章 俺は普通の高校生なので、魔法少女とは出逢わない
34/761

1章10 Shoot the breeze ①



 教室の戸を開け自席に戻るとそこにはまだ女どもが蔓延っていた。


 うんざりとした心持ちで椅子を引くと、ここを一度離れる前と変わらず姦しかった彼女らのおしゃべりが不自然にピタリと止む。


 どこか遠巻きにするようにこちらにチラチラと視線を寄こしながらも、その態度は弥堂を避けるかのようであった。



 先程は何故か少し気安くなられて都合が悪いと感じていたので、理由はわからないが今まで同様に忌避してくれるのならばありがたいと弥堂はそれを受け入れる。



 席に座る直前にチラリと眼を向けた先の希咲は憮然とした表情でそっぽを向いていた。その彼女の出で姿に違和感を覚えるが、どうでもいいことだと流して椅子の位置を調整する。



 しかし、そんな周囲の空気などおかまいなしな方も中にはいらっしゃる。



「弥堂くん、おかえりなさい! ねぇねぇ、プリメロ好きなの?」



 もちろん水無瀬さんだ。



「…………なんの話だ?」



 無視してもよかったのだが、あまりに脈絡がなさすぎて弥堂はつい問い返してしまった。



「えっとね、スマホの着信がプリメロだったから。弥堂くんも好きなのかなって」


「あぁ。違う。それは掟だからだ」


「おきて……?」



 水無瀬は聞き慣れない言葉にキョトンと目を丸くして首を傾げる。



「あぁ、そうだ」


「そうなんだ。風紀委員って大変なんだね」


「違う。風紀委員ではなく、俺の所属する部活動の掟だ」


「そうなんだぁ。委員会もあるのに大変だね」


「そうでもない。とはいえ、活動に必要だからと義務付けられてはいるが、シリーズ全作を視聴するのには流石に骨が折れたがな」


「活動に……? あれ? 弥堂くんの部活ってキャンプするんだよね?」


「しねーよ。キャンプ部ではない、サバイバル部だ」


「あ、そっか。えへへ、まちがえちゃった。ごめんね」



 周囲の女子たちは二人の会話を盗み聞いて何ともいえない気分になる。



「ま、愛苗ちゃんのメンタルどうなってんの……? ツッコミどころしかないんだけど……」

「落ち着くんだよマホマホ。多分これ一個一個ツッコんでたらキリがないやつだよ」

「そうよ、真帆。真面目に聞いたら頭がおかしくなるわよ」

「水無瀬さん、スルーしてるってより何も疑問に思ってなさそうだよね。一応文面的には会話は成立してるし……すごいなぁ……」



 ヒソヒソと囁かれる彼女たちの声に水無瀬は気付かず、弥堂は聴こえていないフリをして、二人の会話は続く。



「じゃあ、サバイバルってことは無人島に行くんだよね? 無人島に連れてくならどの魔法少女? みたいなことなの?」


「なんでだよ。無人島などに用はないし、行くとしても魔法少女など連れて行かない」


「でもでもっ! 魔法が使えたらサバイバル生活に便利だよ!」


「お前は一体何の話をしてるんだ」


「え? だってサバイバル部だからサバイバルするんだよね? 無人島で。『とったどー!』って」


「なんでだよ。しねーよ」


「え? そうなの?」


「そうだ。サバイバル部はサバイバル生活などしない」


「そうなんだー」


「なんでお前が残念そうなんだよ」



 何故か残念そうに眉をふにゃっと下げる彼女は、両手で想像上の獲物を高らかに掲げてバンザイをしていた。



――とったどーのポーズだ。



 弥堂はその仕草にイラっとした。



 すると――



「ぷっ」と横で吹き出す声が漏れる。



 そちらに眼をやれば机に頬杖をついたまま外方を向く希咲だ。


 水無瀬の言葉で思わず、海パン一丁で銛を構える弥堂の姿を想像してしまいつい吹き出してしまったが、彼女は素知らぬ態度を貫いている。



 恨みがましく希咲へ向ける目を細めると、彼女の横髪の隙間から覗く耳たぶが細かく震えているのが見えた。まだ笑いを堪えているようだ。


 とりあえず彼女のことは捨て置く。



「サバイバルしないんだ……」


「とりあえずアウトドアから離れろ。我々はそのような団体ではない」


「じゃあ、なにするの?」


「……サバイバル部というのは通称だ。本来の名は『災害対策…………」



 弥堂は自身が所属する部活動の正式名称を読み上げようとしたが、その途中で言葉を切り対面で未だにバンザイをしながら首を傾げる少女を視る。



「…………まぁ、あれだ。みんなで頑張って生き延びる部だ」


「いきのび……?」


「あぁ。必要に応じてすごいがんばる」


「わ、そうなんだ。えらいんだね」


「……そうだ。えらい」


「――あんたテキトーなこと言うんじゃないわよ」



 あまりに意思の疎通の手応えのない会話に弥堂が思わず白目になると、横合いから咎めるような声が挿しこまれる。



「あんた昨日は『災害対策方法並びにあまねくにゃにゃにゃにゃにゃっ――』とかって変な名前言ってたじゃない。なにテキトーに流そうとしてんのよ」



 顏はまだ他所に向けたままで横目でジロリと不機嫌そうな視線を寄こしてくる希咲をジッと視る。やはり彼女にいつもと違うなにかを感じる。



「あによ」

「……べつに」


「は?」

「あ?」


「なんでもないわよ! ばかっ!」

「なんだってんだ」



 何故か彼女は大層機嫌が悪いようで、そう怒鳴ってまたそっぽを向いてしまった。


 その仕草を見て、やはりどこかに違和感を覚えるが、しかし気のせいだろうと水無瀬の方へ向き直る。



 水無瀬はまだバンザイをしたままで顏だけ希咲の方へ向けニコニコとしていたが、弥堂が自分を見ていることに気が付くとにへらと笑った。



 弥堂は嘆息し、とりあえず彼女の両手を降ろさせてやろうと彼女の眼前に空になった弁当袋を突き付ける。


 水無瀬は、反射的な行動なのか、それをハシッと両手で掴みようやく『とったどーのポーズ』をやめた。



「ありがとう、弥堂くん」


「……あぁ」



 何故自分が礼を言われたのかはわからないが、他に言い様もなかったのでとりあえずそうとだけ返す。


 すると、視界の端からの視線に頬をチクチクと刺される。


 希咲が睨んでいる。


 思わず舌打ちをしそうになるが、どうにか自制した。



「水無瀬。『美味しかったよ。ありがとう』」


「えへへ。どういたしましてっ」



 昨日希咲に言われたとおりの礼を告げると、水無瀬はニッコリと笑い、希咲は胡乱な瞳を向けてきた。


 恐らく昨日と全く同じ言葉を使ったのが気に入らなかったのだろうが、希咲へ『いい加減しつこいぞ』とこちらも非難をこめた視線を送る。


 彼女はまたぷいっと顔を背けた。



 喋ればこの上なく口煩いが、黙っていても煩いという極めて稀有な特殊能力を持ったこの女にどう対応すればいいかと考えていると、水無瀬に声をかけられる。



「難しそうでよくわかんなかったんだけど、街を危険から守るために魔法少女になる部活ってことなの?」



「ぶっ」と希咲も女子4人組も吹き出す。



 脳内に爆誕した『魔法少女ビトー☆メロディ』の強烈なインパクトに顔を青褪めさせながら彼女たちは笑いを堪えた。



 弥堂がそんな彼女らに視線を巡らせると全員が目を背けた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ