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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第四部・赤壁炎上編
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84.諸葛孔明、魯粛と江夏で会談する

土曜日出勤の前に投稿・・・

漢津では、関羽が船を率いて劉備一行の到着を待っていた。


「関羽将軍、お迎えご苦労さま」


女神孔明が関羽を(いた)わる。


「無事でなによりでござった」


「んーそうでもなかったんだけどねぇ。関興にお礼を言っといて」


「は?なんで興が?……いや、そんなことより軍師殿。

 こう言ってはなんだが、漢津で待ち合わせをするくらいなら、わざわざ徒歩で当陽なんぞに向かわなくても、初めから俺たちと一緒に襄陽から船に乗り、江夏に向かえばよかったのではないか?」


と関羽がもっともな疑問を口にする。


「ナイスアイデア!と言いたいところだけど、それじゃ曹操は劉備将軍を追って真っすぐ江夏に攻めて来るわ。我々の戦力だけでは二十万の曹魏軍に太刀打ちできない。あの時、劉琮のいた襄陽を乗っ取らなかったのもそれが理由。孫呉を巻き込まなければ、我々の勝利はおぼつかないもの」


「はあ……」


「曹操の目を劉備将軍から別のターゲットにそらせるために用意したのが、亡き劉表の荊州水軍の根拠地・江陵。軍需物資が豊富に貯えられている江陵は、曹操をおびき寄せるための釣り餌ね。

 曹操があそこの軍船を手に入れたら、せっかく孫呉が苦心して黄祖から奪った長江の制水権を、曹操に横取りされるかもしれない。それが我慢ならない孫権は、必ずや我々と組んで曹操の南進に対抗しようとする」


女神孔明の説明に劉備が首を(かし)げながら、


「なあ、孔明。おまえの話は難しくてよく分からん。結局、俺たちはこれからどうなるんだ?」


「心配いらないわ。私の読みが正しければ、孫呉の方から同盟締結の打診に来てくれるはずだから」


その言葉どおり、ほどなく孫呉の重臣・魯粛が江夏にやって来たのだった。


◇◆◇◆◇


「荊州牧の劉表殿が身罷(みまか)られたと聞き、弔問に参った魯粛にござる。このたびは真にご愁傷さまです」


魯粛が江夏太守の劉琦に向かってお悔やみを述べる。


「ご丁寧にどうも。ただ、私は亡き父の後嗣ぎに選ばれし者ではありませぬゆえ、孫呉よりの弔問に正式に返答する立場にはござらぬ。襄陽にいる弟の劉琮を訪ねられた方が……」


「いや、それはもう遅うござる。劉琮殿は曹操に和を乞う書を送り、荊州は曹操に降伏した模様」


「なんと?!真でござるか?」


劉琦が諸葛孔明の顔を(うかが)うと、孔明はコクリと頷いた。劉琦は天を仰ぎ、


「おお……なんと愚かな!やはり琮に後を任せたのが間違いだったんだ」


「これは勇ましいお言葉。この魯子敬が見たところ、夏口には三万ほどの兵がいる様子。もし劉琦殿にその意志がござれば、我が孫呉は、貴君の荊州奪回を後押しすることもやぶさかではありませんぞ!」


と魯粛が提案する。孫呉は曹魏軍が攻めて来る前に劉琦を捨て駒として利用し、少しでも曹操の軍勢を削いでおこうという魂胆なのだ。


「これはなんとも心強い援軍。しかし私は病弱の身、とても兵を指揮して曹操軍と戦うことなどできませぬ。代わりに、こちらにいる劉備将軍を頼られてはいかがですかな?」


と劉琦は劉備にパスを送る。


ここでオレの素朴な疑問。なぜ劉琦は関羽ではなく劉備を推薦したのか?

関羽のおっさんは国士無双の勇将であり、妹(=舞ちゃん。関平君のお嫁さん)の(しゅうと)であるとはいえ、劉琦にとっては兄弟争いの際に劉表から劉琮の後見を託された言わば“敵”なのだ。それよりは、外に出て蔡瑁の毒牙から身を避ける道を教えてくれた諸葛孔明や、自分と同じく劉表にハブられた劉備にシンパシーを感じているのだろう。


「なるほど。では劉備将軍、我ら孫呉とともに曹魏軍を迎え撃ち……」


と魯粛が劉備に同盟を持ち掛けた時、


「ちょっと待てよ!ここにいる兵三万のうち、二万は関羽の大殿が率いる兵。孫呉の魯粛と言ったか、あんたと劉備将軍の間で勝手に話を進められても困るんだが」


と吠えた武将がいる。甘寧だ。ところが、その甘寧に向かって孫呉側から声が上がる。


「待て。なぜ甘寧がここに……?」


「? 誰だ?俺はおまえなんか知らんぞ」


「これは失礼。私は呉範と申す。孫呉で【風気術】を操る者。お見知りおきを」


慇懃(いんぎん)に告げる。甘寧は挨拶もそぞろに、


「はん。で、呉範さんよ。俺がここに居ちゃおかしいか?」


「まあな。おまえさんは本来、孫呉に亡命するはずだった武将。そこにいる孔明に(たぶら)かされたのか知らんが、劉備軍に名を連ねているのはおかしい。今からでも遅くない。孫呉に来ぬか?」


「はぁ?何くだらねえこと言ってんだ?俺は孫呉の淩統って奴とは仇敵の間柄だぞ、昔そいつの父親を戦闘で殺したんでな。誰がノコノコと孫呉なんかに行くか!」


と呉範の誘いを一蹴する甘寧。


「そんなことより、魯粛さんよ。同盟の話し合いなら、劉備将軍じゃなくて関羽将軍とすべきじゃないか、と俺は言ってるんだが。そこら辺、あんたはどう考えてるんだ?」


魯粛は困ったな、という表情で諸葛孔明の方を見た。


「えーコホン。荊州側の代表が劉備将軍か関羽将軍かという話はひとまず抜きにして、孫呉と我ら夏口にいる軍が同盟して、南下して来る曹操にあたる、という方針については皆の同意を得られると思うの。いかがですか?劉備将軍、関羽将軍、それに甘寧も」


劉備・関羽・甘寧、そして張飛や趙雲・関平らその場にいる、劉備の逃避行に同行した武将は一堂に(うなず)く。


「魯粛殿。ご覧のとおり、我らとしては、曹魏軍を迎え撃つために孫呉と同盟を結ぶことに喜んで……」


と孔明が魯粛に話を向けると、呉範が横槍を入れて、


「私は同盟に反対でござる」


と水を差した。


(ちょっと!魯粛、どうなってるのよ?話が違うじゃない!)


(いや、面目ない。こっちも想定外の厄介なことが起こってな。孫権将軍がこの呉範という得体の知れない占い師を(こと)のほか信任しているのだ)


(知ってるわ。だけど呉範が、来たる曹操との決戦を否定して降伏論を唱えることはあり得ないはずよ)


なぜなら呉範が転生者であり、赤壁の戦いで孫呉が曹魏軍を完膚なきまでに叩きのめした史実を知っているはずだから。まあ、この情報はオレが女神様に教えてやったんだけど。


(さすが孔明、耳が早い!呉範は国の行く末を左右する重大な決断を、【先読みの風気術】と称して「いま曹操と戦えば勝てる!」と何の根拠もなしに簡単に抜かしやがる。もともと、君と僕そして周瑜が入念に下打合せを重ねて来た成果なのにね)


手柄を横取りしそうな呉範に対して、魯粛はたいそうご立腹である。


(ねえ、なんでこいつがあなたに同行して夏口に来てるの?)


魯粛はふうっと大きく溜め息をついて、


(悪いことに、孫権将軍がすっかり洗脳されちゃって、呉範のお告げを頭から信じ込んでるんだよ。

 孫権将軍が参戦に前向きになったのは善しとして、劉備将軍や君は信用ならない梟雄(きょうゆう)だって吹き込んでいる。僕が荊州への弔問と称して、勝手に劉備将軍と同盟を結ばないか、孫権将軍は呉範をお目付け役に同行させたんだ。

 なあ孔明、君は呉範となにか因縁があるの?)


(さあ?私自身は呉範と面識はないんだけど。向こうが一方的に私を敵視している状況なのかしらね)


とシラを切る女神孔明。同じ転生者同士、(←女神様を転生者と呼べるか疑問だけど?)天下統一をサポートする相手が劉備なのか孫権なのかで、熾烈な駆け引きを繰り広げているというわけだ。


(まあ、状況は分かったわ。私から切り出してみる)


とアイコンタクトを魯粛と交わした孔明が、


「呉範殿、孫呉と我々が同盟を結ぶのに反対する理由をお聞かせ願えませんか?」


と尋ねると、呉範はチッと舌打ちをして、


「天才軍師と名高い諸葛孔明殿が、私が同盟に反対する理由が分からぬとは情けない。まず最も大きな理由は、貴公そして劉備将軍が信用ならないからだ」


「信用ならないとは?」


「私の口から言わせる気かね。貴公は芝居『周武王(しゅうぶおう)冥土旅(めいどのたび)()一里塚(いちりづか)』を仕掛けた旅役者の一団・臥龍座のオーナーであろう。後嗣(あとつ)ぎ正邪問題で、孫権将軍の評判を落とそうと(はか)った黒幕が貴公であることは明白」


「はぁ?芝居?あんたが何の話をしているのかさっぱり分からないわ」


そりゃそうだ。あれは諸葛孔明のあだ名・臥龍を(かた)って、女神様とは無関係にオレが単独で仕掛けた嫌がらせだからな。


「ふん、シラを切る気か。まあいい。

 幾多の群雄を裏切り、自分だけ生き残りを図って来た劉備将軍。荊州で劉表の死に乗じて乗っ取りを図ったが、上手く行かぬので逃げて来たことくらい、私が見抜けぬと思うてか?!次は孫呉で乗っ取りを(たくら)んでおるのだろう。そのような危険人物を、やすやすと味方に招くことができようか?」


「ヒュー分かってるじゃん」


話に割り込んだ甘寧が、口笛を吹く。


「そうさ。この劉備将軍は味方であるはずの関羽将軍すら敵視するようなクソ野郎なんだよ!でもな、今はそんな好き嫌いを言ってる場合じゃねーだろ。俺たちが結集して曹操に当たらないと、各個撃破されて、あんたの大事な孫権将軍だって滅ぼされちまうぞ」


呉範はフンと鼻で笑い、


「甘寧よ、言いたいことはそれだけか?心配無用。我ら孫呉が誇る水軍の名将・周瑜提督にかかれば、兵3万もあれば曹魏軍など撃退するのは容易(たやす)いのだよ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 史実モードのままだったらねえ。 生憎もう孔明の引き立て役でしかないのです。
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