80.関興、暗殺されそうな劉琮を救う
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于禁と桓楷は曹操から秘かに密命を帯び、劉琮の暗殺を命じられていた。
彼らは刺客を先回りして白河に架かる橋の陰に忍ばせ、封地の青州に向かう劉琮の一行を襲撃させる手筈であった。だがオレはすでにその陰謀を察知しており、鄧艾とともに劉琮の乗る車駕に付き従っている。
橋に差しかかった所で、案の定、物陰から于禁と桓楷そして十数人の刺客がわらわらと飛び出して車駕を囲んだ。
「青州刺史の劉琮殿とお見受け致す。貴公を生かしておけば後々の禍の元となる。丞相のご命令により、御命頂戴する。おまえら、掛かれ!」
と于禁が命じる前に、オレは得意の弓で刺客の兵三人を射倒し、鄧艾は関羽のおっさん仕込みの剣技で五人を仕留め、斥候・鼫らが暗器の袖箭を放って四人を戦闘不能にした。フン、ざまーみろ。
残るは于禁と桓楷のみ。
かつて荊州牧の劉表に仕えていた桓楷は、降伏した劉琮に対し震える声で、
「き、君は皇族の末裔であり主人の息子であったがために私は君を敬っていた。なれど立場は逆転し、私は勝ち組の侍中、君は一介の降将にすぎぬ。
なぜ土下座して わ、私に い…命乞いをしないのか?
き、君は今や囚われの小雀にすぎないのだぞ。今日は難を免れても、曹丞相から永久に逃げ続けることなど不可能だろう。
おお、そうじゃ!私に命乞いをすれば、曹丞相と話をつけてやってもよい。どうだ、悪い話ではなかろう?」
と都合のいい取引を持ち掛けた。ケッ、なにが“勝ち組”だ?!
そもそも荊州を降伏に追い込んだのは曹操の力であって、桓楷の手柄ではない。おまえはただの虎の威を借る“小物界の大物”にすぎぬ。
オレは懐から剣を取り出して桓楷に突きつけ、
「久しぶりだな、桓楷。オレの顔を見忘れたか?」
「げっ。お、おまえは…秦朗?!」
「仁義を尊ぶ儒者のくせに、何のつもりだ?おまえの行為は、優位な立場を利用して下の者をいじめる典型的なパワハラだぞ!
しかも劉琮殿はおまえと同格の二千石、罪を犯して青州に流されるのではなく、無血開城した功徳を曹丞相に嘉されて国替えを提案されたのだ。
たかが腐れ儒者のおまえが、オレの大恩ある御方の子息をどうして軽んじ辱めているのか?この剣が鈍くらだと思うなら、試してみるか?」
と桓楷を脅した。桓楷は悲鳴を上げて、この場から走り去る。
ひとり取り残された于禁が慌てて、
「し、秦朗!丞相の命令に逆らう気か?」
刺客を放ったつもりがあっさりと返り討ちに遭い、逆にオレと鄧艾そして斥候に囲まれた于禁が、追い込まれて自ら剣を抜く。オレは【鑑定】スキルで于禁の武力を透視すると83であった。オレの武力がたしか76,鄧艾が82。1対1なら負けるかもしれないが、2対1なら大丈夫。十分に勝てる。
オレは于禁に向かって大喝して、
「黙れ!丞相の名を騙る不届き者めっ!徳による統治を目指す曹丞相が、降伏したばかりの前荊州牧の劉琮殿を簡単に殺すと思うのか?
そんなことをしたら、今後曹操軍に降伏する者がいなくなるのは目に見えておろう!
おまえらの今宵の悪行は、曹丕殿下を通して丞相に報告いたす。
オレの正論と使命を果たせなかったおまえや桓楷の言い分、曹丞相はどちらを信じなさるか見ものだな!」
「く、くそっ。覚えてろ!」
と捨てゼリフを残して于禁は逃げ帰った。
◇◆◇◆◇
「……于禁と桓楷は、降伏したばかりの前荊州牧の劉琮殿を殺すように父上に命じられたなどと、嘘偽りを申しました。私は徳治を目指す父上がそんな馬鹿げた暗殺を命じるはずがあるまい、もしそんな愚かな行為に及べば、今後、父上に降伏を乞う者はいなくなると懸念いたします」
翌日、曹丕は襄陽の幕府に参上し、刺客に襲われた劉琮を自分が保護したと曹操に報告した。曹操は曹丕の正論にたじろいで、
「う、うむ。そのとおりじゃ、わしがそんな愚かな命令など下すはずがなかろう」
「それに、白河を超えれば私が父上に統治を命じられた土地。我が領内を血で染めるような不徳の暗殺を認めるわけには参りませぬ」
「おまえの懸念はもっともじゃ。だが桓楷の弁明では、暗殺など謀んだわけではなく、青州への赴任に対して劉琮が不平を述べたことを単に咎めただけとのこと。許してやってくれい」
「なるほど。そういうことなら納得しましょう」
曹丕がようやく矛を収めてホッと一息ついた曹操は、
「ところで于禁と桓楷の話では、劉琮の護衛の中に秦朗がいたと申すのじゃが……」
「はあ?馬鹿馬鹿しい!その二人は言うに事欠いて、蟄居謹慎中の秦朗の監視を私がサボッていたとでも言いたいわけですか!?無礼にもほどがある!」
曹丕は怒りを露わにすると、曹操は慌てて、
「いや、さもありなん。二人の見間違いであることは明白じゃ」
と疑惑をうち消した。曹丕は満足げに、
「では父上。私はこれにて屯所に戻ります」
「お、おう。大儀であった」
(いったい丕はどうしたのじゃ?徳なんぞに急に目覚めおって……)
曹操は首を傾げる。
「うーむ、面白いのう。あんなに慌てた父上は初めて見たぞ」
襄陽の幕府から出た曹丕はクックッと思い出し笑いをする。側に侍る華歆が尋ね、
「何か愉快なことでも?」
「ん?ああ、秦朗をな。今度はどうやっていじめてやろうかと……」
曹丕が誤魔化すと、以前、舌戦で関興にやり込められた華歆はこれ幸いとニヤリと笑い、
「殿下も人が悪い(笑)。卑しい金儲けの才に長じたあの忌々しい秦朗めに、私も一泡吹かせてやりとうございます」
「ほう。何か面白い意趣返しでも思いついたか?」
「はい。守銭奴の秦朗がこの上なく愛する金を、我が軍のために供出させるのです。愛国心の証しとして、少しでも我が曹操軍の足しになるよう寄付しろ、と」
「なるほど。いくら金を供出させる?」
華歆は少し考えて、
「昔、奴は兵糧米の密輸で二百万銭(20億円)を稼いだと豪語しました。これをすべて吐き出させましょう」
「待て。二百万銭とは一県の一年分の税収だぞ!さすがにそれを個人に負担させるのは……」
「心配ご無用。秦朗が「無理だ」と泣き言を述べ、殿下にお慈悲を哀願する姿をあざ笑うのが目的です」
「しかし……」
「殿下。この機会に秦朗から受けた屈辱を晴らしたいと願う、私の気持ちも斟酌ください」
臣下の願いを無碍に断るわけにもいかず、曹丕は頷かざるを得なかった。
-◇-
「……分かりました。ご用意いたします」
オレはイヤミ三銃士の一人・華歆の法外な要求を断るのが癪に触り、意地でも二百万銭を供出してやろうと思った。華歆は顔を引きつらせて、
「ほう、できると申したな?もし用意できなかった場合は……」
「首を刎ねられても文句は言いません」
「ふふん。将に二言はないな?おまえの言葉、しかと聞いたぞ。殿下が証人だ」
「し、秦朗……今ならまだ撤回できるぞ」
心配する曹丕に向かって、オレはにっこり微笑み、
「大丈夫ですよ、義兄上。大富豪のオレには二百万銭ごとき屁でもありません。必ずや曹操軍の足しになるよう、二百万銭を寄付いたします」
と豪語し、今から金を集めて来ると言って蟄居謹慎中の屋敷を出た。
あーあ。二百万銭も払ったら、さすがに文無しになっちゃうよ。
せっかく#大泉当十の贋金作り+ピンク珊瑚樹のマネーロンダリングで稼いだ金が、すべてパーだ。華歆め、覚えてろよ!
 




