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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第三部・荊州争乱編
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60.周公旦、周武王の後を嗣ぐ(異説)

芝居『周武王(しゅうぶおう)冥土旅(めいどのたび)()一里塚(いちりづか)』のストーリーです。

周の武王は、暴虐の殷の紂王を放伐した聖王として名高い。だが、その治世が短命で終わったことはあまり知られていない。芝居『周武王(しゅうぶおう)冥土旅(めいどのたび)()一里塚(いちりづか)』のイントロダクションとして、彼の実績を振り返って見よう。



周の文王の死後、天下の三分の二を有する武王は、殷の紂王のやまぬ暴虐に憤ってついに挙兵し、牧野の戦いで殷の大軍を破った。都の朝歌城に退却した紂王は、王宮に火を放って自殺し、殷は滅びた。


都・鎬京(こうけい)で新たに周王朝を開いた武王は、即位後まもなく病に倒れて死んだ。後をいだのは、武王の子・(しょう)であった。これが成王である。成王はいまだ幼少であったため、武王の同母弟・周公旦は摂政となって鎬京(こうけい)で政治にあたった。


周公旦は本来魯公に封じられていたが、天下が安定していないので自身は魯に向かわず、献身的に中央で政治を後見したのであった。


それなのに、管叔鮮と蔡叔度は周公旦が王位の簒奪を企んでいると讒言し、殷の紂王の遺子・武庚をかついで反乱を起こした。周公旦は言った。


「私が天下の猜疑を恐れずに摂政の座に就いたのは、古公亶父・季歴・文王が基礎を築き亡き兄の武王が成し遂げた周の天下一統の功績を、後世に正しく伝えるためだ。

 武王は早逝し、成王はまだ幼い。ために天下は不穏で、周に反感を持つ勢力があると聞いておる。反乱を鎮め天下が安定すれば、周王朝は成王にお返ししよう」


その言葉を聞いた太公望・呂尚と召公奭(しょうこうせき)は周公旦の味方をし、武庚ら殷の残存勢力の反乱鎮圧に成功した。

その後七年が経ち成王が元服したので、約束どおり周公旦は摂政を退いて成王の親政が始まった。


――というのが『史記』で語られる歴史である。



さて、再び芝居の幕が上がった。ようやく主人公の周武王が登場するはずだ。

 曹操は自らを周の文王に見立てた。

 とすると、周の武王は曹丕……なのか?


◇◆◇◆◇


周武王 “かの暴君は死んだ。わしは天下に覇を唱えるのじゃ!わはは。”


(下手ソデより剣を手にした刺客が周武王を襲う)

刺客 “おのれっ、主君のかたき!”


(刺客に斬られ、血が流れ出る顔を押さえながら)

周武王 “くっ、賊だ。出やえ、出やえぃ!”


呂尚“殿、大丈夫でござるか?今すぐ医者を……”


周武王“心配するな、俺は医者が嫌いだ。これしきの傷、舐めとけば治る。うっ……”

(舞台中央で倒れ伏す周武王)


呂尚 “いかん、剣に毒が仕込んであったとは!早く…早く医者を呼べぃ!”


周武王“駄目だ。傷口から体中に毒が回り、俺はもう助かるまい。

 ただ心残りは、都に巣食う乱世の姦雄を討ち果たせなかったことと、息子のしょうがまだ幼少であることだ。我が領土は小さきながら、覇王を唱えたばかりの国家の危難を、しょうが乗り切れるとは思えぬ。

 たん、俺はやむなくおまえに社稷を預ける代わりに、どうか頼む。しょうが元服した暁には……ううっ!”

(毒が回って苦しむ周武王)


呂尚 “殿、お気を確かに!ええぃ、医者はまだか!”

(と言って上手ソデに医者を呼びに行く)


周公旦 “兄上、なんと気弱なことを!しょう様はまだ幼いとはいえ、兄上に似た聡明な子です。必ずや乱世の姦雄に勝利し、天下一統を成し遂げましょうぞ!父上・兄上の築かれたこの国家、旦はしょう様とともにきっと守り通して見せまする。”


周武王 “旦よ!おまえの忠誠心を信じておるぞ。蝶昭(ちょうしょう)、旦とともにしょうをくれぐれも頼む。”


蝶昭“畏まってござる。”


(上手ソデより呂尚が医者を連れて登場)

医者 “解毒剤を持って参りました。さあ、お飲みください。”

(周武王の口に解毒剤を含ませる)


周公旦 “先生、兄上は……”


医者 “解毒剤を飲んだ副作用のため一時的に気を失っておりますが、もう大丈夫です。周武王様の命はきっと助かりましょう。”


呂尚 “よかったー。先生、ありがとうございます。”


周公旦・蝶昭 “…………”

(二人はベッドに横たわる周武王の姿をいまいましそうに睨む)


(呂尚と医者は上手ソデに退場。舞台に残された周公旦と蝶昭にスポットライトが当たる)


周公旦 “蝶昭よ、どうする?せっかく死にかけたのに、兄上は一命を取り留めそうだぞ。”


蝶昭 “困りましたな。いったんは弱気になられて、狙いどおり旦様に後をぐと仰せであったが、傷が癒えれば再び国家の政を執られ、やはり太子のしょう様を後嗣あとつぎとなさるでしょうな。”


周公旦 “兄上が最期と思ったからこそ、わしはリップサービスを口にしてやったのに、まさか助かるとはのう。”


蝶昭 “しかし、周武王様が太子のしょう様ではなく、旦様に遺命らしき言葉を残したのは事実。我らのたくらみとは無縁の重臣・呂尚殿も耳にしておる。されば、今もし周武王様がお亡くなりになれば……。”


周公旦 “わしが太子のしょうに代わって後をいでもおかしくない、か。”


蝶昭 “(しか)り。”


周公旦 “何か策はないのか?”


蝶昭 “周武王様はかつて、道士の于凶うきょうを殺しましたな。”


周公旦 “なるほど。ふ、ふふっ……”


(周武王が休んでいると、夜な夜な于凶の亡霊が枕元に立つ)

于凶 “痛いよ……おまえに斬られた顔の傷が痛い……怨めしや。”


周武王 “だっ、黙れ!この腐れ道士めっ。おまえは死んだはずではないか!”

(周武王は剣を振り回し、于凶の亡霊を追い回す)


于凶 “わしは道士。おまえに復讐するために、亡霊となって冥土からよみがえったのだ。”


周武王 “あっ、あわわ…た、たすっ、助けて……”


于凶 “返してくれ……おまえが斬り刻んだわしの身体を返してくれ……”


周武王 “ひいいーっ。ゆ、許してくれ!悪気はなかったんだ!”


于凶 “死んで詫びろ。死んで詫びろ。死んで詫びろ。死んで詫びろ。”


周武王 “ぎゃああーっ!”

(周武王は発狂して傷が裂け、死んだ)


(于凶の亡霊はかぶった仮面を剥ぎ取ると、周公旦が現れる。于凶は彼が扮装したものだった。そのまま舞台暗転)


再び幕が開いて、舞台中央にセットされた宮殿の玉座に座る周公旦。


周公旦 “兄・周武王の遺志を尊重し、わしが社稷をぐ!”


蔡叔度 “お待ちあれ。後嗣あとつぎは父から子、子から孫に継ぐのが春秋の建前。正統を乱してはなりませぬ。”


蝶昭 “いや。周武王様はお亡くなりの際、旦様に後をげとお命じになられた。そのご遺命は呂尚殿もお聞きのはず。”


呂尚 “確かに。だが、(しょう)様が元服した暁には……”


蔡叔度 “暁には?”


呂尚 “……その先は聞いておらぬ。”


蝶昭 “私は最後まで聞いておった。周武王様は、(しょう)様が元服した暁には、旦様を支えて国家を守護するようお命じになられたのだ。”


周公旦 “うむ。蝶昭の申すとおりじゃ!”


蔡叔度 “いや、しかし……”


蝶昭 “ええい、黙らっしゃい!蔡叔度殿は、周武王様のご遺命に従えぬと申されるか?!”


蔡叔度 “決してそのようなことは……”

(蔡叔度・呂尚はすごすごと下手ソデに引っ込む)


太子誦 “僕はどうなっちゃうの?”


周公旦 “古の聖人、堯から舜,舜から禹へは禅譲によって賢人に位を譲った。なれど禹は不肖の息子に位を譲った。それが過ちだったのじゃ。おまえは禹を祭った会稽に封じてやろう。”


蝶昭 “太子の(しょう)を廃し、会稽県侯に封ず。急ぎ赴任いたせ!”


(太子(しょう)は泣きながら下手ソデに退場する)


周公旦 “これで邪魔者は消えた。わしが天下に覇を唱えるのじゃ!わはは。”


――幕が下りて、了。


 客席から割れんばかりの拍手が起こった。

 だが、孫権将軍は憤然として立ち上がり、


「待てぃ。この芝居は不敬じゃ!今後、孫呉の領内では『周武王(しゅうぶおう)冥土旅(めいどのたび)()一里塚(いちりづか)』の公演を禁止する!」


と大声で言い放った。


次回。孫権は芝居『周武王冥土旅之一里塚』の公演を禁止する。理由は感づいている方も多いと思うが、この芝居は周武王を主人公に据えて、孫呉の人物を周の時代の人物に仮託して、風刺している政治劇なのだ。激怒する孫権に向かって、太子誦役を演じた子供が揶揄する。お楽しみに!

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