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三国志の関興に転生してしまった  作者: タツノスケ
第二部・許都青雲編
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38.関興、赤壁の大敗を予言する

本日二度目の投稿です。

「我々は孫権と戦って負ける、ということか?」


「はい、残念ながら。曹操閣下が揃えられた水軍と孫権が率いる水軍は、質がまったく違います。華北の人間は、船は兵を輸送するための手段という認識ですが、南の人間は、船は兵器そのものという感覚なのです。

先を尖らせた木をくくり付けて船ごと楼船に体当たりさせ、横っ腹に穴をあけて沈める。油をまいた船に火をつけ、その船ごと突入し敵艦隊を火攻めにする。

オレも河賊に襲われた経験がありますが、そんなことを平気でされたら、船に乗っている兵は恐怖で動けません。

兵力の差というよりも、水軍の質の差で負けるのでしょう」


「マジか!?チビちゃんの指摘が本当なら、孫権軍並みに水軍を鍛えないかぎり勝てそうにないな。あるいは陸戦に持ち込むか……」


と張遼はつぶやく。続いて荀彧が、


「ちょっと疑問を述べていいですか?関興君の話では、関羽殿または君自身が危機に瀕する場面のみを先読みの夢に見ると言っていました。今の場面では、関羽殿が命の危険にさらされるようには思えないのですが」


オレはうなずいて、


「実は、先ほどの話にはまだ続きがあるのです。

昔、曹操閣下に受けた恩義と目の前の敵大将を討ち取るという君命の間で葛藤した父上は、最終的に閣下を見逃してやります。その結果、劉備の軍師・諸葛孔明に罰せられて死刑を宣告されてしまうのです」


「ああ。それでこそ、俺の親友の関羽殿だ」


「確かに義理堅い関羽殿らしい行動ですが、敵大将を見逃すなど、言語道断の軍律違反で死刑は免れません。それをどうやって回避したのですか?」


「さあ?夢で見た以外のことはオレには分かりません。

ただ二つ目で話したとおり、父上は建安二十四年(219)まで生きているんだから、なんとかうまいことやったのでしょう」


まあ、この話自体が三国志演義の作り話だから、実際はそんな名場面なんてなかっただろうし。


「五つ目は、父上が殺された四年後にオレはかたきを討ち果たします。ですが、オレ自身も親衛隊に殺されてしまいます」


「親衛隊?孫権のことかい?」


「……」


オレが黙りこくったことに不審を覚えた鄧艾が尋ねた。


「若、かたきって誰ですか?」


「……劉備だよ」


「「「!!!」」」


鄧艾・張遼・荀彧の一様に驚いた表情が印象的だった。


次の瞬間、女神様の天罰【雷天大壮(らいてんたいそう)】が発動。突然黒雲に覆われ稲妻が光ったかと思うと、鋭い衝撃音がとどろいた。

雷がオレに直撃したのだ。


「若!」「チビちゃん!」「関興君!」


彼らの悲痛な叫びとともに、オレは吹き飛んだ。


◇◆◇◆◇


気がつくとオレは亜空間にとらわれ、十字架にはりつけにされていた。


どうしてあんな嘘を言っちゃったんだろう。

白帝城で劉備の死を看取る場面、とでも言っておけば「ふーん」で終わる話だったのに。


いや。きっとあの結末が、前世からずっと思い描いていたオレの()()()だったんだ、関興としての。


確かに父上と兄上をだまし討ちにした孫権は憎い。だが、将軍として敵と戦う以上、自分自身もそうだし肉親が討死する覚悟というものは少なからず持っている。

父上と兄上の無念を思うと悔しくてたまらないが、ある意味、それも運命だと割り切って考える自分がいる。


しかし、窮地に陥った関羽と関平に援軍も送らず平然と友軍を見殺しにした、得意絶頂の劉備。そして「関羽の仇討ち」を口実に、荊州の奪還に向けて巴蜀の兵士十万人を派遣するも、全滅に追いやられた無能な劉備。名将・関羽の名を二度もけがす愚行。

そのことが、オレにはどうしても許せなかったんだ!


そしてこの世界。

先の西平の戦いで攻め寄せる曹操軍三万五千。関羽の救援要請に対し、新野の劉備はあっさりと断り唐県を見捨てた。

まあ、逃げて来るなら受け容れてやると言っただけマシなのだろうが。

だけどオレの心の中に、「やはり将来、劉備は父上と兄上を見殺しにするだろう」との疑念が生じたのも確かだった。



コツコツと靴音がして、憤怒の女神様がオレの前にゆっくりと近づいて来た。


「転生させてもらった恩も忘れ、敵に水軍の弱点を教えるなんて。もしも赤壁の戦いで劉備様が負けたらどうしてくれるのよ!」


「このまま赤壁で戦ったら、曹操に駆り出された荊州の兵士が何万人も死んでしまうんだぞ。そんなむごい結末を知っていながら、黙って見過ごせるか!」


「フン。たかが兵士なんて、ゲーム内では数字にしか現れない消耗品じゃない!それとも何、あんた荀彧の“仁”にかぶれて、ヒューマニズムに目覚めちゃったわけ?偽善ね」


「……」


「ま、それはいいわ。いざとなったら造物主である私の加護で、突如赤壁に東南の風が吹き荒れたり、大波が打ち寄せて曹操軍の船を転覆させるくらいわけないし。

そんなことより、私の玄徳様に向かってかたきを討ち果たすなんて暴言、許しがたいわ!魂ごと地獄に落としてやるから覚悟しなさいっ!

その前に、神のおきてにより、あんたの弁明があるなら聞いてあげるけど」


オレは平然として、


「べつに。あれがオレの思い描く結末だもん。

ただ、この世界の劉備が、三国志演義に登場するような聖人君子じゃないことくらい、さすがに女神様も気づいてるよね?

西平の戦いではオレたちを見捨て、そのくせ劉表からもらった恩賞は、ちゃっかり自分の懐に入れる。唐県の繁栄を妬み、劉表に不正をチクる。曹操討伐を口実に劉表から兵を借り、その兵で襄陽を攻め荊州乗っ取りをたくらむ。

仁義のかけらもないようなクソ野郎だ。

女神様はさ、この四年間に、こんなどうしようもない劉備を改心させようと、何か努力した?」


「し、しかたないじゃない!だって(孔明)の出番はまだ先のことだし……」


と女神様は狼狽(うろた)える。


「神様のくせに、そんな言い訳しかできないの?情けない!

だったら、オレの出番なんて章武三年(223)だよな。

その間、オレが本当に劉備に手を掛けようとしたならともかく、「あいつマジくそ野郎だわ~。殺してやりてぇ~」と文句を言うくらい、何がダメなわけ?」


「し、主君に向かって不敬じゃない!」


オレはハアッと溜息をついて、


「いいか。女神様扮する諸葛孔明が敬愛する管仲の言葉に「君、君たらざれば、すなわち臣、臣たらず」(『管子』形勢篇)とあるよな?

劉備は、オレや関羽のおっさんに対して主君たるべき振舞いをしているか?

そうでなければ、オレたち臣下が劉備に不敬であってもとがめられる筋合いはないだろ」


「わ、分かったわよ!あんたが本気で玄徳様を害するつもりがないんだったら、今回の件は不問にしてあげるわ。しばらく反省したら、さっきの場面に帰してあげ……」


女神様は痛い所を突かれたのか、オレの屁理屈に辟易へきえきとして逃げ出そうとする。


「待て。オレが言いたいのはそんなことじゃない。

荀彧を見ろ。今、荀彧は彼の仁徳で曹操を教化しようと必死に戦っている。

だが、おそらくこの世界でも、曹操の野心は荀彧の徳にまさる。荀彧はすでに曹操が皇位簒奪の野望を胸に秘めていることを危惧しながらも、己の理想を貫くためにへつらわず、主君の非を諌める覚悟だ。

荀彧は、最期まで自分の信じる儒者の道を進もうとしている。


それに比べて女神様はどうだ?「私の推しの玄徳様の夢を叶えてあげたい~」とか、中途半端なヌルいことを言ってんじゃねぇよ!


この世界の人々には強い意志がある。壊れた中州を再興しようとか、戦乱のない平穏な暮らしを実現しようとか、みんな真剣なんだ。たとえ名もなき兵士、名もなき民衆だろうとな。

目的のためなら悪に手を染めることも厭わなかったオレが、今さら戦いで死ぬはずの兵士の命を救おうだなんて、たしかに偽善だよ。


この世界は女神様が創造した仮想空間なのかもしれないけどさ、だからと言って、造物主のあんたに都合よく未来を改変したり、あんたの推しのわがままを許していいはずがない!」


「……」


「女神様が扮する諸葛孔明もさっさとこの世界の歴史に登場して、劉備を教化してやらないと、野心ばかり大きくてロクな奴じゃない今のあいつが、この先孫権と同盟を結ぼうとしたって、先方は承知してくれないと思うぞ。

そしたら、女神様が心待ちにしている赤壁の戦いだって起こらないかもしれない。

いや、孫権単独でVS曹操との赤壁の戦いに挑むだろうな。その時はあんたの推しの劉備は邪魔者として、孫権に消されるに違いない。

曹操の荊州侵攻は、史実では建安十三年(208)。猶予の期間はあと四年だよ。

あ、言っとくけど、オレは劉備の矯正に手を貸せなんて言われても、絶対にお断りだからね!」


「なによ偉そうに!……けど、あんたの忠告は一応心に留めておくわ」


と言って、女神様は亜空間からオレを解放してくれた。


次回。女神様の天罰から免れ目覚めた関興。曹操の鄴包囲作戦は二か月に及び、その間、冀州の各城を着々と平定させた。一方、袁譚も史実どおり平原・南皮を自陣に併合し始める。曹操の華北平定はどうなるのか?お楽しみに!

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