(45)不穏な気配
翌朝。疲れていた割には寝坊すること無く起床。
馬車での居眠りが効果的だったみたいだ。
今日は専属のメイドさんが来る。
昨日メイドさんに訊いたところ、昼過ぎ頃という回答が帰ってきた。
なので、午前中は屋敷周辺を散策することにした。
「さすが王都、人が多いな」
どこを見ても人、人、人だ。
「馬車も多いね」
行商人、騎士、貴族。様々な人が王都を訪れる。
旧邸付近と比べると、ほぼ全域が人混みだ。
歩きながらいつものように、幼馴染とくだらない会話をしていたのだが──
「──っ⁈」
「どうしたの?」
「あ、いや。何でもない」
なんだか、誰かに見られている気がした。
楽しかった昨日と比べ、今日は不穏な感じがする。
その後も、めぼしい店を見つけては中を見ては出て。
気に入ったものがあれば買ってみて。
それは楽しいのだが、店から出る度に例の視線を感じた。
今度もそうだ。
「──まただ」
急いで周囲を見渡す。
「またこの視線……」
「なんだ、気付いてた?」
「私を誰だと心得る?」
「天下無敵のアイ……っ!」
──見つけた。
怪しい人影だ。俺がそっちを見た途端、露骨に路地へ隠れた。
間違いない。さっきから俺達を見ていたのは奴だ!
一瞬だけ見えたその姿は、かなり異質だった。
周囲の人々の雰囲気とは逸脱していた。
そいつが逃げ込んだ路地へ。
「……?」
「居ない?」
「ああ」
まだ遠くへは行っていないはずだが……。
どこを見ても姿は見えない。
念の為アイシャが霊視をする。
「ダメ、居ないよ」
「何なんだ、あいつ……?」
それ以降、視線を感じることは無くなった。
今はとにかく屋敷に戻り、お姉ちゃんに報告だ。
お姉ちゃんは新生リビングに居た。
「そう、そんな事が……。分かったわ。それとこっちからも一つ」
人影について話すと、あちらも何かあったようで、一枚の紙を見せてきた。
「これは?」
「さっきメイドさんが持ってきたの。ポストに入ってたんだって」
見ると、日付と時間と……座標?
とにかく、何かのリストが書かれている。
そして何より奇妙なのは、上の二項目以外は未来のものである事だ。
「何ですか、これ……?」
ダメもとで訊いてみる。
「分からないわ。ただ……ちょっとこれ見て」
お姉ちゃんが指さしたのは、上から二項目目の座標らしき文字列。
机の上に広げられた地図。それと座標を見比べる。
「えっ、これって……‼」
「ヴァルム地方……?」
俺もアイシャも、紙と地図を交互に観察する。
何度見ても、文字列はヴァルム地方の中央付近を指す座標に間違いない。
「日付を見てみて」
なんとなく言いたい事を察した俺は、恐る恐る指示に従う。
「……先週くらい、ですね」
「モルケライさんが言ってた。家畜が減り始めたのは一週間くらい前からだって……」
「じゃ、じゃあこれ……」
昨日の奴のような魔物の情報……?
「メイドさんを迎えたら、お姉ちゃんは王城に行ってくるわ」
「王城?」
「ええ。ちょっと気になったことがあるの。あそこなら資料があるかもしれないから」
「それなら俺達も……」
「いいの。あなた達はメイドさんに屋敷のことを色々教えてあげて。お部屋とかね。大丈夫、お姉ちゃんだってね、一人で調べ物くらい出来るのよ」
貴女が出来ないことをあまり知りませんが……。
「じゃ、お願いね」
「分かりました」
「は〜い」
準備してくると言って、お姉ちゃんは自室へ向かった。




