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【完結】宣誓のその先へ  作者: ねこかもめ
【四話】暗晦と憂虞。
33/269

(33)恐怖は知らぬが故か

 怖い、という感情がある。例えば、魔物は怖い。

対峙した時、自分が殺されるかもしれないからだ。


 では、幽霊はどうだろうか。幽霊が自分を殺しにかかってくる事はまずない。

それに、幽霊と対峙すること自体が珍事だ。にもかかわらず、幽霊は怖いという認識がある。

それは何故なのか考えた時、浮かび上がる推測が、「分からないから」だ。


 俺にとって魔物は怖くても、妖怪は怖くはない。

妖怪は、昔の人々が、原因が分からなかった現象や、子供の躾の為に作り上げた空想だ。

そうであると分かっている。自分なりの答えを持っている。だから、さほど怖くはない。


 その一方で幽霊はどうだろうか。居るのか、居ないのか。見えるのか、見えないのか。

何一つ「分からない」。心中にはっきりした回答が存在しない。

故に、怖いと感じるのではないだろうか。


 なら、居ると分かれば。見えれば。怖くないのか、と。

そう思うのは当然だ。その疑問の答えを、俺は知っている。

幼馴染の少女、アイシャの能力が何なのか知ったその時

俺の中にはっきりと、明確な解が示された。




 ヴァルム地方での任務を終え、無事に帰還した魔特班。

報酬の話を聞いたときは嬉しさから飛び跳ねそうだった。

しかし、その興奮も冷めた今残ったのはただの疲労である。


一刻も早く風呂に入り、布団にくるまって寝たい。


そんな願望が叶うのはもう目前。

自室のドアノブに手を伸ばし。

扉を開け、ベッドに倒れこむ。


たったそれだけで俺は……。


「あ、ユウ」

「……はい」


先に風呂に入ったアイシャが俺の部屋で待ち構えていた。

これ自体はもう慣れ親しんだいつも通りの光景だ。


が、今日は訳が違った。


「分かってるよね?」

「……はい」


分かっている。


分かっているが故に怖いこともある。


それが今だ。


「お姉ちゃんとリーフさんが寝たら始めるから。まだ、寝ないでよ?」


妙にセンシティブな顔で言う。

状況が状況なら感情が大暴れしそうなセリフも、今は死の宣告にしか聞こえない。



 何が始まるのかと言うと、幽霊退治だ。今日の昼前に起きた事件。マグカップ事件と仮名を付けよう。誰も片付けていないマグカップが何故か机から消えた現象だ。あれの原因は幽霊じゃないかと考えたアイシャの調査に同行する。


させられる。


今は俺の部屋で、お姉ちゃんが寝るのを待つ。

その手の話題が苦手なお姉ちゃんが、自分たちの住居に

幽霊が居るなんて知ったら失神するかもしれないからだ。


「でもさ、俺たち引っ越すんだからよくね?」


そうさ、魔特班は明日からの休暇を使って引っ越し作業にかかる。

放っておけばいいんじゃないのか?


「ダメ。一班にはミラが居るんだから。かわいそうでしょ?」


ミラはアイシャの親友だ。


「はい、先生。僕もかわいそうだと思います。」

「……ユウと、一緒がいいなぁ」


おっと、ここで必殺の上目遣いだ。


「……ずるいぞ」


負ける俺も悪いにゃ悪い。


 まあ仕方ない。一班にはクリスのやつも居るし、助けてやるか。



 お姉ちゃんはまだ寝る気配がない。部屋の灯りがまだついている。

今日の報告書に書く内容をまとめているのだろう。

そういう真面目な点もある。だけど今日はもう寝てほしいな……。


「しょうがない、時間つぶそっか」

「私と何がやりたい?」

「そんなセリフをそんな色っぽい服装で言うんじゃない。理性が吹っ飛ぶ」


アイシャはいつも、緩いロングTシャツを寝巻にしている。

まったく、この娘は俺を何だと思っているんだ。


「えぇ、やらしい」


こいつ……。


「さすがに同じ人生ゲームばっかりで飽きてきたな」

「たしかに」


よく考えると、この屋敷には二人だけで時間をつぶせるものが何一つない。

だからこそ、こういう場面で出来る遊びの類はやりつくした。

しりとり、連想ゲーム、ジェスチャーゲーム、手押し相撲。


挙げればきりがないが、その大半は腐るほどやった。


「あ、そうだ」


だけど、俺にはまだ果たせていない事がある。

今日、二度にわたって彼女に惨敗したあの遊びだ。


次こそ圧勝する。


そんな自信がどこからか湧いてきた。


「今度こそリベンジさせてもらうぞ!」



……惨敗。


心の中で敗北のゴングが鳴り響く。


「なぜだ」

「罰ゲーム?」

「えっ」

「三戦分?」

「えっ、お姉さん許して……」

「ダ~メ」


怖い。

アイシャの性格を知っているから怖い。


誰だよ、知らぬが故に怖いとかいう理論提唱した奴。


「ちなみに、何を?」

「マッサージ」

「……どこの?」

「脚」

「えっ」

「?」

「あっ、いや」

「もしかして、変な事考えた?」

「ままま、まさか」


畜生。


まあ良いか。

今日は色々と世話になったし、マッサージくらいお安い御用ですわ。


「じゃ、お願いしまーす」




 気が付くと、時刻はすでに午前二時。

時間を忘れるほど夢中だったらしい。理由は伏せる。


「はい、こんなもんで如何でしょう」

「ん、ありがと。また今度してね。その時は……」

「肩?」

「……」


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