(32)貪食の罪
集落に戻ると、モルケライさんが待っていた。
「よく戻ってきてくれた」
「家畜数減少の原因はやはり魔物でした。討伐は完了しましたが、戦闘中にかなりの数の家畜が捕食されています。復興には少し時間がかかるかと思います」
「そうか。ありがとう。だがそれよりも諸君らの命だ。これから時間はあるかな?」
連れられてやってきたのはレストランだった。
夕食も振舞ってくれると言うので、お言葉に甘えた。
そこで調査内容などの報告を行った。
「そうか、調査班は……。それにしても、何故そんな魔物がこのヴァルム地方に?」
「たまたまなのか、何か理由があるのか。そこまでは分かっていません」
「運が悪かっただけ……そう思いたいよ」
何が原因で何が起きていたのか。
それと、派遣された調査班はどうなったのか。
おおまかにその二つを報告した。
「すみません、二度もごちそうになってしまって」
「いいんだ、気にしないでくれ。君たちは命をかけて戦ってくれたんだ。対価としては足りないくらいだが、せめてもの気持ちだよ」
お礼と挨拶をし、帰りの馬車に乗り込んだ。
帰りと言っても、一回王城へ向かう。
任務完了の報告だ。
道中は居眠りをしてしまった。
馭者を務めるリーフさんには申し訳ないが。
到着後、昼と同じようにして王のもとに。
「ほう、そのような魔物が。」
「それと事前に派遣された調査班ですが、メンバーは皆……」
「やはり、そうであったか」
「報告は以上になります」
「うむ、ご苦労。では、私からも話をさせてもらおう」
王からの話?いったい何だろう。
明日の任務とかだったら嫌だな。
「まずはこれを見てくれ」
王は、椅子の横から大きめの紙を取り出し、机に広げた。
それに書かれていたのはどこかの施設か何かの間取り図だった。
「……こちらは?」
「これは王都内にある屋敷だ。今は空き家になっていてね」
「はあ」
「この屋敷を、今回の君たちへの報酬とする」
……え?
ちょっと待ってくれ。
今、王はなんて?
この屋敷を?
俺たちへの報酬に?
「え、えっと、つまりそれは、この御屋敷を我々にくださる、と?」
さすがに驚きを隠せない様子のお姉ちゃん。
全く同じことを返してしまっている。
いや、驚いているのはお姉ちゃんだけじゃない。
この場にいる王以外、全員だ。
「そうだ。もう準備は出来ている。すぐにでも転居を開始できる状態だ。君たちの使っていた屋敷は第一班が使う予定だ」
手が早いな……。
俺たちが今日の任務を成功させると信じていたようだ。
「し、深謝申し上げます」
「疲れているとは思うが、出来れば明日、すぐにでも転居作業を始めてもらいたい。昨日の成果を労った休暇を明日以降の三日間、君たちと第一班に与えることになっている。活用してほしい」
一班はクリスが居るところだ。
昨日の約束が早速果たせそうだな。
「それと、屋敷を与えるに至って、もう一つ話がある」
王は何枚かの書類を取り出し、お姉ちゃんに渡した。
「休めることが多い戦況だとは言え、君たちも多忙だろう。そんな中で屋敷の管理まで行うのは荷が重い」
ま、まさか……
「そこで、だ」
まさか、まさか……
「三名の派遣メイドと、一名の専属メイドを仕えさせることにした」
メイド。
……メイド‼
「その書類は一級資格を持つメイドのリストだ。その中から一名、専属メイドを選ぶといい」
メイドと聞いてそわそわしていると
アイシャが笑顔で俺の右手を握った。
ごめんなさい。
お姉ちゃんは一枚ずつ書類をめくっている。
やがて、一瞬目を見開いたかと思うと、その時見ていたページを王に提示した。
「この方でお願いいたします」
「ずいぶんと早いな。他三人は、それでよいのか?」
「異議はありません」
誰でもいいよ、と言いたげなリーフさん。
かく言う俺も、誰がどんな人間かは分からないし、お姉ちゃんの判断に従うことに。
「問題ありません」
「私も大丈夫です」
「そうか。ではこの者に連絡を入れておく。明後日には屋敷へ到着するだろう」
「ありがとうございます」
「以上だ。そちらから加えて何かあるか?」
「いえ、特には」
「そうか。ではこれにて終了とする。本日の任務、本当にご苦労であった」
「失礼いたしました」
各々挨拶を口にし、退室。
城門から出ると、一気に緊張が切れた。
疲れた~とか。
眠~いとか。
それより前に出る言葉は決まっている。
「王都の屋敷! 豪邸よ、豪邸‼」
「ああ、あのボロ屋敷ともおさらば、だな。」
「……メイド」
「……ユウ?」
まっすぐな瞳で圧力をかけるのはやめてください、怖いです。
「ご、ごめんってアイシャ」
それにしても、王都に住む。
騎士のみならず、大半の人間にとって、これほど嬉しいことがあるだろうか。
豊かで活気あふれた土地での生活はさぞ楽しかろう。明日が待ち遠しい。
馬車に乗り、帰路に就く。ああ、今日は本当に疲れた。
トラウマになりそうな一日だった。
出来ることなら、あんな魔物は二度と現れないでほしい。
勝ちはしたものの、精神負荷は間違いなく過去一番だ。
それに今、俺はとんでもない大問題を抱えている。
「おえっ……」
「ちょっとユウ、吐かないでよ?」
「だ、大丈夫です……多分、きっと……」
俺は馬鹿だ。あの魔物を倒した達成感と解放感から
つい夕食を食べすぎてしまった。帰りに馬車を使うことを忘れて。
元々馬車に強くない俺が、食べ過ぎた状態で乗ればどうなるか。
容易に想像できたはずなのに。
やっぱり、いつだって食べるのは「程よく」が一番いいな。




