(31)最大の功労者へ感謝を
《本当にあの化け物を倒したのか⁈》
「うん。仇、とったよ」
《ありがとう、本当に。なんてお礼を言えばいいのか》
「それからね、ユウからガイストさんに話があるみたい」
《俺に?》
ガイストさんは不思議そうな顔で俺を見た。
「はい。ガイストさん、貴方のことです」
《……?》
「結論から言いますね。あなたは、隊長さんの最期の命令を果たせたようですよ」
《そんなはずは無い。現に俺は》
「まあ聞いてください。あの魔物は、腹が減ると周囲の命を食ってエネルギーにしていたんです。人間も対象です。でも、あいつに襲われたはずの貴方の遺体には欠損はおろか、傷一つさえ無かったんです。怪我した足を除いてね」
《……?》
「つまり貴方は、あいつに襲われはしたものの、殺されたわけではないんです。あいつは命を食います。命だったから貴方を追ってきた。でも、食われる前に命じゃなくなったのだとしたら?」
《命じゃなくなった?》
「要するに、肉体から魂が抜けたなら? 残った体は命ではありませんよね。だから奴の興味から外れた。そう考えると一つ、辻褄の合う答えが見えてくるんです」
《答え?》
「貴方の能力です」
能力はまだすべての人類に備わっているものではないし
持っている人間も偶然発見しなければ自覚できない。
ガイストさんは、強いて名付けるのなら「幽体離脱」のような能力を
自身が持っていることに気が付かないでいた。
それがあの時、自責の念と悔しさで開花し、気付かぬ間に肉体から脱出できた。
「見せてもらった記憶では、最後に意識が途絶えましたよね。亡くなったとは限りません。それに、貴方が死を自覚できなかったのも、本当は死んでいないからとも考えられます」
《俺の能力が覚醒して……。でも、そうだったとしても俺は結局、何も出来てない。王都への報告も——》
「いいえ、貴方は十分すぎるほど情報をくれましたよ。俺たちにね」
「うん。敵の特徴とか、本当に助かったよ」
「だな」
「そうね。ご協力、感謝するわ」
《お、俺は……あいつを倒す力に……君たちの力に、なれたのか……》
うれし涙。
悲し涙。
悔し涙。
様々な感情の雫で地を濡らすガイストさん。震える声で彼は続けた。
《俺の肉体は、もう腐ってるんだろう?》
「うん、残念だけど」
《いや、いいんだ。もう、未練は無いからな》
「ガイストさん?」
《君たちには世話になったな。ありがとう。へへっ、いくら言っても足りねえや》
その言葉と共に、ガイストさんはこの世から姿を消した。
「居なくなっちゃった」
「……そっか」
寂しいが、ガイストさんがその道を選んだなら仕方ない。