お口に合いますでしょうか…
ぐぅーーー
あっ!やば……
「先輩、お腹空いてたんだ?」
「ゔ……」
「じゃあ、どっかのお店行こっか」
ヤバい……このままでは唯君のペースに巻き込まれるだけだ。
なんとかしないと……
「あの……お昼は私が…いや、私に奢らせてくださいお願いします」
「え?うーん……ダメに決まってるよ?」
じゃあ、その間を開けるのはやめて欲しい。
でも……
やっぱり、貰いすぎはダメだ!
「あの…奢らせてもらえないと、次に誘われても、もう行きませんから」
言ってしまった……
チョー上から目線で……こんなんで折れてくれるとは思えないけど……
「うーん……そこまで言うなら……いや、でも………」
えっ⁉︎意外とあとひと押しってとこ?
「お願いします。唯君」
「………。わかった」
やった!勝ったーーーーー!
「じゃあ、私の知ってるお店でもいいですか?」
「うん。先輩のオススメならどこでもいいよ?」
うっ……
そんなに期待されても……
「普通のお店だから、全然普段よりランク落ちると思うよ?私、唯君ほどセレブじゃ無いし……」
「うん、大丈夫だと思うよ?よほど変な所じゃなければね」
最後の一言が怖いです、唯君。
そんなやり取りをしているうちに、着いてしまった。
「え?ここ?」
唖然とした表情の唯君。
やっぱここはマズかったかな……
いや、でも味は保証できる!はず…
「取り敢えず、入ろう?」
「う、うん……」
「おぉう!いらっしゃい、ひなの!」
出迎えてくれたのは、白髪混じりの大将だった。
「今日はバイトじゃない日だぞ?」
そう、私が唯君を連れて来たのは、私がバイトしているうどん屋。
ここは本当にコスパが良すぎるくらい良い。
例えば、冷やしうどん 350円、肉うどん 530円と言う激安うどん屋なのだ!
それにちなんで、店名は "安一"なのだ。
ちなみに、従業員割引き制度もある、私にとってまさに、"神"の店なのだ。
店の外観はこじんまりとした、開けたらカラカラっと音がなる木の格子戸に、安一と書かれた暖簾、そして中からはいつも人の声が聞こえてくる賑やかな店だ。
値段は安いが、麺には大将のこだわりがあって、モチモチでコシのある麺はツイッターなどで評判になる程の定評もある。
なので、お昼時は、本当に忙しい。
店の前にいつも長い行列ができるほどだ。
まぁ、今はもうそのピークの時間は過ぎているので、席は空いていた。
「大将ー。厨房借りていいですか?」
「珍しいねぇ、いいよ、好きに使いな」
私は高いお店に連れて行けない代わりに、自分の手で唯君にご馳走することにした。
やっぱり、これ位しか私には出来ない。
「唯君、15分位待っててくれる?」
「うん。どうしたの?」
「ちょっと麺作ってくるね!」
「は?え???」
唯君は、かなりビックリしているようだ。
それはそうだろう。
普通、ご飯に誘われても、女の子がいきなりうどんを作って来るなんて事はそうそう無いだろう。
「うどん作るって……ッ本当に先輩はいつも予想外の事をするね。見てて飽きないし、飽きるどころかこっちまで楽しくなるよ」
バカにされてんのかな……
そんな事考えてる場合じゃなかった。
うどんは小麦粉と水の分量、さらにそれをこねる力加減、時間が重要なのだ。
ふぅ…
タンタンタンタン
どんどん麺が出来ていく。
そして、物珍しそうに、更に真剣な表情で私の手つきを見ている唯君。
「あとちょっとで出来るから、もうちょっと待っててね」
「うん、了解!」
あとは、麺を茹でて……
すぐに冷やして……
「よし!完成!」
作ったのはこの季節にぴったりな、ぶっかけ冷やしうどん。
セレブのお口に合うだろうか……
少し不安だが、大将に教わったうどんなので大丈夫なはず……
「唯君、出来たよ!」
「先輩の手料理だね。いただきます」
唯君はお行儀よく手を合わせてから、麺をすすり始めた。
いやぁ…イケメンはうどん食べてても、絵になるんだな……
「……」
ズズズッ
唯君は無言でうどんを食べ続ける。
やっぱり美味しくなかったのかな……
「あの、美味しくなかったら無理に食べなくてもいいよ?」
「え?モグモグ……あ…美味しいよ。マズかったらこんなに食べないよ。うどんとか久しぶりだし、麺もモチモチしてるし、美味しくて食べるのに夢中になってた…」
「本当に?良かった…喜んでもらえて」
一安心だ……
「先輩スゴイね!」
ニコッ
そう言ってふにゃりと笑った唯君の笑顔は、とても眩しかった。




