烏帽子親
都が秋の訪れで
茜色に染まる頃
何やら
探代六波羅には
灯火が煌々と焚かれ
平家の猛者達が
右往左往していた。
重衡は
真っ赤に顔をね紅潮させ
憤った。
「うつけものよ」
居並ぶ武将共は
さっと顔色を変え立ち上がった。
ある者は北へ
またある者は西へと
源氏末裔の一人を
追い求めた。
今朝は鉛色の空で始まった。
街道は殆ど人影も無い。
それもその筈、
冬も間近に迫れば悠長に旅を愉しむ時代ではなかった。
まして戦乱に明け暮れた此の時世、
下手に山越えなどすれば
山の賊の格好の餌食で有った。
時折、
身のすくむような冷たい風が吹き通る。
しかし、
こんな所にも物好きが居るのであろうか。
「うお〜い。」
「寒いのう。」
「寒うござる。」
「寒いのは当たり前でござる。冬だもの。」
「それを云うたら、おしまい。」
「はっはっは。」
八人程の男達が風を押して
団子の様に固まって歩いて居た。
顔を寒さで引き攣らせ、
今にも凍えそうで有った。
「殿は大丈夫でござるか。」
「ふはは。何の、これしき。」
「殿。ちと熱がござる。」
「武人に作様な気遣いは無用。」
「はっはっは殿、痩せ我慢はいけませぬ。」
「かと云ってこんな山ん中、
身を寄せる場とて無い。」
「はっはっは殿、痩せ我慢はいけませぬ。」
「かと云ってこんな山ん中、
身を寄せる場とて無い。」
その時、
「お〜お。馬が来るぞ。」
「馬じゃ。人じゃ。」
一同が見守る中を一人の馬喰で有ろう、
荷駄を載せてやって来た。
「お〜う。何んじゃね、
あんたらは。」
「済まないが仲間内に病人が出た。
少しだけ荷物の間に寝かせて貰えんじゃろうか。」
「お〜う、良いぞ。」
「忝ない。」
流石の大男も人情に
涙したとか。
さて、
時は五月、
端午の節句の頃
遮那王一行は
新たなる季節を迎えたのである。
万物が萌え出る季節。
源氏由来の一族に
匿はれ居る青年一人。
じっと虚空を眺め
何を想うので有ろう。
今こそ彼は
未だ見ぬみちのくに
足を踏み入れる時ぞ。
今までの童子の如き
殻を破り捨て
一人の男として
愈成人の自覚を
深めんとするので有った。
世間並で有ったら
元服と称し、
烏帽子親等、
親族の慶びの中で、
此の時を
迎へる処、
孤独な彼は
先祖ゆかりの愛刀を
上座に祭り
烏帽子親の代わりとし、
成人の日を迎える事とした。




