6話
授業が終わり友人達と別れた後、校門を出てアイテムボックスから赤色の魔導自転車を取り出す。
俺のこの赤色の魔導自転車は昔の電動自転車と比べて3倍の速度が出る。別名、赤い悪魔。(自分で命名)
最早、速度的に自転車ではなくバイクだろというツッコミはいらない。
ダンジョンが出来てから人口が激減し、当然のように車の台数も減った。
そういったこともあり、道路は常に空いており登下校時刻は自転車天国と化している。(過言である)
今日から通う探索者協会が管理するダンジョンは自宅よりも学校からの方が近い為、そのまま通う。
探索用の武器や道具なんかは全てアイテムボックスに入っているから不都合はない。道具士さまさまだ。
赤い悪魔をかっ飛ばし、1時間未満。目的のダンジョンビルに辿り着く。
ここは廃ビルをダンジョンコアで再利用したビル型ダンジョンで上に登っていくスタイルだ。
ダンジョンマスターはこの探索者協会支部の支部長がしているらしい。
自宅近くのダンジョンとは違い、まあまあな賑わいを見せており、道路沿いには出店なんかも出ている。
ただ出店と言っても飲食系は少なく、探索に役立つ道具や初心者向けの武器防具の店が目立つ。
中には初心者向けのレンタル武具店なんてものもあったりする。
「一式合わせて1時間で3000円からだよ〜!」
威勢の良い店番さんの声を聞き流しながらダンジョンに隣接する探索者ギルドに向かう。
探索者協会が公式に管理運営しているだけに立派な造りの建物は4階建ての公共施設のような雰囲気を出している。
一階は受付があり、二階以上は講習用の会議室やら用途が解らない部屋やらがあるらしい。
緩やかな人の流れに逆らわず、建物の中へ。
中は初めてくるはずなのだが効率や利便性を考えた造りでどこか知っている感じ。
そう!市役所や警察署の造りに似ている。
入口付近にある機械から番号札を取り、ロビーの椅子に座って待つ。
5分もしない内に俺の番号がディスプレイに表示されたので受付に向かう。
事務的に今日の目的を聞かれ、素直に探索と答える。
探索者カードを渡して登録してもらい、次回からはダンジョンビルの裏口にある機械にカードを通せば、直接入ることが出来ると説明を受けて、ついでに初心者向けの講習会の説明も受けたがこちらは断っておく。
そもそもどうして自宅近くのダンジョンではなく、こちらのダンジョンに来たのか。
それはこちらのダンジョンの方がより安全であり、パーティーを探す場合でも探索者協会が斡旋から紹介までしてくれるからだ。
今のところ、パーティーに入るつもりはないが気の合う奴がいれば、組むのは有りかなと思っている。
さて、協会内を歩き通路を進んで行くと一旦外に出る。
そして、ダンジョンビルの横に簡易更衣室が5つも設けてあるので好きなところを選び、そこで準備をする。
中には貸しロッカーもあるが1時間で100円。だが道具士の俺には無用の長物なので さっさと着替えて準備をするとまた外に出て、案内板に従いダンジョンビルの裏に入口が見えてくる。
タブレットを開き、このダンジョンビルのデータを取得してリンクさせる。
マップを開いて、確認すれば聞いていた通り15階層まで表示される。
驚くべきはその広さだろう。ビルの中だというのにダンジョン内だけは空間が拡張され、一辺が約3キロメートルの正方形の形をしている。また、目を疑うように天井には擬似的な大空があり、足下には背丈が短い草原が広がっているのだ。
俺と同様に初めて来た人達は『ほげぇ〜』とした顔をしている。
ただいつまでも見ている訳にもいかないので気持ちを切り替えて、草原へと足を踏み入れる。
踏み入れれば、間違いなく草を踏み締めている感覚が足に伝わってきて、小さな感動すら覚える。
俺は洞窟型ダンジョンよりも平原型ダンジョンが好きだ。なぜだか心でそう思うのであった。
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ダンジョンに踏み入れてからおよそ2時間が経とうとしていた。
時刻は18時を過ぎた頃、ダンジョン内の空も夕焼け色に染まり出しており、帰るには頃合いだろう。
成果はスライムやダンジョンラットなどGランクモンスターが計5匹。
かなり少ないと思うかもしれないが初日ということもあり、ゆっくりと一階層から三階層の平原を周り巡回中の協会職員さん達に挨拶をしていた。
無駄なことをなんて思う人がいるかもしれないが何かあった時に助けてくれるのが巡回している彼ら彼女ら協会職員さんになるので俺は無駄だとは思っていない。
むしろ両親からもしっかり挨拶して顔を覚えてもらえと指示されている。
それが探索者として、長生きする秘訣と言っていたがあんたらそんな歳じゃないだろうが…。
出口は入口とは別にビルの正面入口から出ることになる。
手に入れた魔石は自宅で売るか『物置き』のレベル上げに使うのでギルドに売ったりはしない。
なので買取額は探索者としてのひとつの評価となるのだが俺の評価はなかなか上がることはないだろう。
手荷物を全てアイテムボックスにしまうとわざわざ着替えるのは面倒なので道路を歩いて進み、人が少なくなったところで赤い悪魔号を出して、自宅へ向けてかっ飛ばすのであった。
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探索者協会公式のダンジョンに通い始めて、既に1週間が過ぎていた。
俺のレベルは一つだけ上がり、今はレベル6。学校で聞いた友人達は順調らしく、魔術士の友人も無属性魔術を使い慣れてきているようで殴り魔術士を卒業したと言っていた。
そして皆、レベルが12まで上がったらしい。べ、べつに悔しくなんてないんだから…。
学校からダンジョンに通うのも慣れてきて、この日はなんとなく違う道で行こうと思い、細い道へと入っていく。
ショートカットする感覚で魔導自転車を走らせ、誰もいない道を軽快に飛ばす。
大通りから外れた町並みは寂れており、無人と思われる空き家がかなり目立つ。
一昔前はこういう場所にはモンスターが現れたりしたらしいが最近では滅多にない。
これも名古屋城をダンジョン化したことによる恩恵と言われている。
モンスターは空気中に漂う魔力が一定濃度以上集まることで具現化することが解っている。
ダンジョン歴フェイズ2期ではまだ解明されておらず、人々はいつモンスターに襲われるか戦々恐々としていたという。
しかし、名古屋城がダンジョン化したことにより周辺地域の魔力を集め、吸収することでモンスターの発生を沈静化することに成功。
意図してダンジョン化したかは不明らしいがおかげで穏やかな日常が帰ってきたというのが専門家の意見だ。
他の地域でも同様の現象が確認されており、一概に人を捨てて最強種に区分されるダンジョンマスターになった人達を悪く言うことは出来ないとされている。
空き家が続く町並みを走らせていると不意に気になる場所を見つけた。
この地区は特に無人なのか、特に寂れているように感じる。
そんな中、異様な気配を漂わせるのは小さなビルの横にある地下へと通ずる地下駐車場。
シャッターが半開きになったまま、誘うようにして口を開いている。
普段なら気にも止めないがなぜかこの時だけは視線を外すことが出来なかった。
魔導自転車を停めて、シャッターの中を覗くと地下から吹く冷たい空気が頰を撫でる。
少しだけ覗いて見るかという好奇心がこの後、生死に関わる事態になるなんてこの時は考えてもいなかった。




