7話︰過ち
寂れた町並みにポッカリと開くシャッター。人どころか生物の気配ひとつしない。
なのに入ろうと思ったのは単なる好奇心からだったのか、はたまたモンスターなんていないと思う慢心だったのか…。
シャッターを潜り地下へと続く、緩やかなスロープを降っていく。
スロープを降りきった先の駐車場には車が20台は停められる広さ。
ゆっくり歩を進めて見渡せば、数台だが放置されて草臥れている車が見える。
ここである疑問が芽生える。
どうして電灯も付いていないのに周りが見えるのか?まさか…ここはダンジョンなのかと思った瞬間、背筋に悪寒がゾッと走り急ぎ後ろを振り向く。
「あ、ぁ、ァ…」
俺の視界に映ったのは天井に張り付く巨大な蜘蛛。放置された車とほぼ変わらない大きさに紅い6つの目が俺を捉えていた。
その威容を見た瞬間、走馬灯が駆け抜け恐怖で死を覚悟した。
蜘蛛の目4つはキョロキョロと動き、2つは俺を捉えて離さない。次第に6つの目が俺を捉えると牙を開き、笑ったように見えた。
その巨躯は白と黒の体毛で覆われており、お腹の背の部分の模様は髑髏のようになっていた。
俺はこのモンスターをネットのモンスター図鑑で見たことがあった。
名前は『デススパイダー』。蜘蛛型モンスターにおいて上位種とされるBランクの危険なモンスターで強力な猛毒を持つ。
ただ図鑑では成人男性が手足を広げて寝そべったくらいの大きさと書いてあったが目の前のこいつは普通乗用車と変わらない大きさ。明らかな異常体。
絶望がこの身を侵す。震える両膝、痺れてしまったのか指先の感覚がなく、震えて歯がカチカチと鳴る。
もう駄目だと思うのと友人や両親の顔が思い浮かぶのは同時だった。
そして、父親の『護身用に持っていけ』という言葉が蘇る。
震える身体に気合いを入れて、右手でアイテムボックスから罠スクロールを取り出し、左手で物置きを発動する。
出来る限りの早い動きで物置きの扉を開き、スクロールを床に投げて物置きの中に退避。
扉を閉める際に隙間から見えた光景にはデススパイダーが迫り、俺が投げたスクロールを避けて横に跳ぶ姿だった。
一時的にとはいえ、命を繋いだことに安堵し扉の前で膝から崩れ落ちるように尻もちを着く。
「はぁはぁはぁはぁ…」
動悸が激しく、心臓が痛く感じる程だ。ゆっくりと壁に背を任せて膝を抱える。
今感じるのは恐怖と後悔のみ。
俺という獲物が消えたことでデススパイダーは気配を隠すのも忘れて、怒っている気配が伝わる。
『気配察知Lv:1を習得しました。』
『気配遮断がLv:2に上がりました。』
『恐怖耐性Lv:1を習得しました。』
どうして俺はこんな危険を冒したのか…。なぜ道を変えてしまったのか…。
『気配遮断がLv:3に上がりました。』
『恐怖耐性がLv:2に上がりました。』
気配察知を身に付けたことで外の様子がより解るようになり、さらなる恐怖を煽る。
『気配遮断がLv:4に上がりました。』
『恐怖耐性がLv:3に上がりました。』
恐怖から逃げるように必死で気配を消す。
「(頼む!何処かへ行ってくれ!)」
恐怖耐性のおかげで少しは思考が働くようになってきたが思考が働くようになったことで抱える問題を直視せざる負えない。
俺が家に帰らないことで両親は捜索願いを出すだろう。だが俺が発見されるまで何日掛かるか…。
幸いアイテムボックスの中には非常食が3日分は入れてあるがその前にこの物置きがデススパイダーによって壊されないかどうか…。
ギシッ!ギシッ!ギシッ!
思考している最中、物置きがギシギシと悲鳴を上げる。つられて俺も悲鳴を上げそうになるが手で口を押さえて必死に耐える。
『気配遮断がLv:5に上がりました。』
『物置きの耐久値が下がっています。』
デススパイダーは蜘蛛の糸で物置きを捕らえることに成功し、物置きをぐるぐるに締め上げていく。
ギシッ!ギシッ!ギシッ!
「(ヤバイッ!ヤバイッ!ヤバイッ!)」
『レベルが上がりました。』
『罠術Lv:1を習得しました。』
『レベルが上がりました。』
『レベルが上がりました。』
『レベルが上がりました。』
『レベルが上がりました。』
〃
〃
〃
「えっ!?」
何が起こったのか理解出来ず、放心してしまう。
どれだけ放心していたのか…気付けば俺に襲い掛かっていた恐怖は消えていた。
「・・・助かったのか?」
しかし、デススパイダーが倒れるところを見ていないことで不安が拭えず、物置きから出る勇気が出ない。
そこでとりあえず、ステータスを確認してみることにする。
【名前】 藤 颯夜
【順位】―
【称号】下剋上new! 征服者new! 英雄new!
【職業】 道具士
レベル:19(+14UP) 140P
筋力:48(+28UP)
体力:49(+28UP)
魔力:21(+14UP)
精神:33(+14UP)
耐性:26(+14UP)
器用:82(+42UP)
敏捷:47(+28UP)
幸運:134(+42UP)
【技能】
鑑定Lv:1
気配察知Lv:1 new!
気配遮断Lv:5 UP!
罠術Lv:1 new!
恐怖耐性Lv:3 new!
【固有技能】
アイテムボックスLv:2
【特異技能】
物置きLv:3
「・・・」
ステータスのあまりの変わりように絶句してしまう。
とにかく、称号や新しく得た罠術スキルから判断して俺が設置(投げ捨てた)したスクロールで倒したものだと推測出来る。
いつまでも閉じこもっているわけにもいかないので覚悟を決めて、扉に手を掛ける。
ガラガラ
デススパイダーの攻撃で建て付けが悪くなったのか扉の開きが悪い。
隙間から外を見るとデススパイダーの姿はなく、代わりに魔石や何かが落ちていた。
力ずくで扉を開き、ゆっくりと物置きから出る。その瞬間、いきなりスマホの着信がなり腰を抜かしそうになる。
慌ててスマホを取り出し画面を見れば、母親からだった。
「もしもし、もう門限過ぎてるけど今どこにいるの?」
「あ〜、うん。今から帰るところだよ」
どうやらかなり時間が経っていたようで今、説明していたら時間が掛かり余計な心配を掛けるかもと思い、敢えて切り上げる。
「そう、なら早く帰ってきなさい。ご飯冷めてるわよ」
「はい」
電話を切ると心の中で母親と父親に謝りつつ、俺はデススパイダーの残した戦利品へと近付くのであった。
デススパイダーが倒れたと思われる場所には見たことがない大きさの魔石はソフトボールと同じ大きさで漆黒に白のラインが入った小手、そして宝珠が落ちていた。
物凄く気になるが今は時間がないので手早くアイテムボックスにしまう。
戦利品の回収も終わり、さて帰ろうと思った時にまた違和感を覚えた。
デススパイダーは倒したのになぜ、電灯のない駐車場がまだ明るいのか?
違和感を強く感じる方へ視線を向けると奥の壁際にサッカーボールほどの水晶が浮いていた。
俺はこの水晶を知っている。いや正確に言えば、ネットの画像で見たことがある。
「ダンジョンコアだ・・・」
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